花田ハナダ

コメントに返信できなくてすみません。 とても感謝しています

花田ハナダ

コメントに返信できなくてすみません。 とても感謝しています

最近の記事

【微ホラー短編集めてみました】⑩過去を叩きのめすパン

 風の強いとある冬の日。  男は足を止めた。  (過去を叩きのめすパン、100円?)  近所の公園の一角に、パンの販売車が停まっていた。その端っこの商品の札に書かれた文字に目を引かれたのだ。陽気な音楽が流れ、陳列棚にパンが並ぶ。 「いらっしゃい」  車の背後から店主が現れた。  「税抜きですか」  男が訊ねると、小柄な店主はニコニコと答えた。 「税込みですよ」 「安いですね」 「安いですよ」  パンは一つ一つがビニール袋に入れられている。  男は『過去を

    • 【微ホラー短編集めてみました】⑨不真面目な妹 損をする姉

       妹のせいで不幸なんだ。  妹のせいで、いつも我慢していた。  11月だというのに、暖かい陽射しの午後。  背中のランドセルは、暑くて脱いだ上着を詰め込んだせいでパンパンだ。 「理世。お姉ちゃんなんだから、菜緒と一緒にいてあげて」  学校から帰って、母の第一声がそれだった。  近所の同級生と遊ぶ約束をしていたのに。何で妹の世話をしなきゃいけないの?  本当はそう言いたかったが、ぐっと堪える。 「菜緒はもう小学生なんだから、一人で平気でしょ」 「一緒にいるくらいいいじ

      • 【微ホラー短編集めてみました】⑧3階から見つめてる

         その夏も異常に暑かった。アパートの階段を小走りで進めば全身から汗が吹き出す。今夜も当然のように熱帯夜だろう。それでも急いでいるのは、もしかしたら、と思ったからだ。  汗だくになって、ようやくたどり着いた305号室のドアの前に立ち呼び鈴を押すと、私を呼びつけた友人が蒼白い顔で出てくる。 「ごめんね」  やっぱりいつもと様子が違う。そう思いつつ、冷房で冷やされた空気が扉の向こうから流れ出て、汗まみれの体に涼しくて、ようやく一息つくことができた。 「どうしたの?」  息を

        • 【微ホラー短編集めてみました】⑦そのお布団は捨てました

          『あなたを安心の世界へご招待します。あなたの不安は、お布団が吸い取ってくれるでしょう』  新聞を取るために郵便受けを開けると、そのハガキはひらりと足元に落ちた。  秋の朝だった。5時より前、まだ暗くて、オリオン座が西の空に傾いていた。 (安心の世界?)  ハガキを拾い上げてもう一度読み返し、歩きながら裏返す。 『手塚里奈様』  宛名は里奈だった。送り主の名前はない。 (いたずらかな)  それとも何かの勧誘だろうか。怪しげなそのハガキを新聞に挟み、急いで家の中へ戻

        【微ホラー短編集めてみました】⑩過去を叩きのめすパン

          【微ホラー短編集めてみました】⑥未練がましい変態守護霊

           一人暮らしをしていた時。五年くらい前かな。隣に若い夫婦が引っ越してきたんです。夜勤の仕事をしていてほとんど昼間いなかったんだけど、たまたまいたんで挨拶をしました。女性は可愛らしい方でした。小柄で、オシャレな感じ。男性は背が高くて、ひょろっとしていて、黒いパーカーを着ていました。彼女の可愛らしさに比べたら、その……正直に言えば少しナヨナヨしていました。  僕は、どうにも二人を見たことがあるような気がして、思わず見入ってしまいました。 「よろしくお願いします」  こちらを

          【微ホラー短編集めてみました】⑥未練がましい変態守護霊

          【微ホラー短編集めてみました】⑤物乞いババアの末路

           古いアパートの一室のドアが激しく叩かれた。時計は夜10時を過ぎている。 「誰?」  私はドアに向かって訊ねたけれど、返事はない。 それなのに叩く音は続いている。 「誰ですか! うるさいですよ!」  ちゃんと怒鳴りつけると、音はピタリと止んだ。しばらくの沈黙の後、 「お洋服がほしいの」 と、声が聞こえてくる。年配の女性のようだった。 「私、時山だけど、これから寒くなるのにお洋服がないのよ」 (時山さん)  その名前は、下の階に住む女性として認識があった。

          【微ホラー短編集めてみました】⑤物乞いババアの末路

          【微ホラー短編集めてみました】④背後からこんにちは

           朝、担任がこのクラスの『あいつ』が行方不明になったと言った。多少ざわついたものの、嫌われ者だったから大して心配もされずに日常に戻った。  『あいつ』は素行の悪さを反省して自ら消えたんじゃないか?  そんな事を言う生徒もいた。  悪い事件や事故と考えるより、そちらのほうがよほど気楽だ。だから、みんなそれを信じることにした。  次に『あいつ』が話題にあがったのは、昼休みになってからだった。 「あいつ、どうせ反省してないと思うんだよね」 「昔、彩花をイジってたやつでしょ?」

          【微ホラー短編集めてみました】④背後からこんにちは

          【微ホラー短編集めてみました】③嫌な予感

           課長は運転席で大きく深呼吸をした。  (嫌な予感はしていたけど)  残業で帰りがだいぶ遅くなり、課長が駅まで送ってくれることになったのだが、その途中で突然ハザードランプをつけて停まったのだ。  課長は誰もいないはずの後部座席を恐る恐る振り向いた。 「……いない」  三十代後半、二児のパパである課長のワンボックスの後部座席は暗闇に沈んでいた。 「どうしたんですか?」 「……3列目にそっくりな子が見えたんだよ」 「それは霊的な話ですか?」  小さくうなずき、課長

          【微ホラー短編集めてみました】③嫌な予感

          【微ホラー短編集めてみました】②死神の囁やき

           罪悪感を持つ必要はない。あなたはひき逃げなんてしていない。確かにあなたの運転する車と接触したけど、もう済んだことでしょ?  まあ、一応あなたの疑問の答えます。でも、今からする話は忘れて。いわゆる、死神の話だから。 ★  当時、僕はとにかく何もかもが嫌だった。この世界の何もかもが。  それは些細なことかもしれない。職場で挨拶を返してもらえなかったり、雑談していた人たちが、僕が現れるなりさっと解散したり。誰とも話さず仕事をし、帰宅する。それが僕の毎日だった。  その頃は

          【微ホラー短編集めてみました】②死神の囁やき

          【微ホラー短編集めてみました】①私は収納上手な猫

           ★あらすじ  ホラーというには弱いけど、微ホラー的な物語を集めてみました。いわゆるオバケの話だけではなく、気味と後味の悪いものも混ざっています。短編というのか、掌編というのか、自分で分類できませんでした。楽しんでいただければ幸いです。 『私は収納上手な猫』  ベッドの上で寝転んだままの男が小さく笑った。都会の高層何とかから夜景でも眺めていそうな、気取った仕草だった。  どんなに格好つけても、ここは郊外にある古臭いラブホテルだ。窓もないし、あったとしても見えるのは県道と国

          【微ホラー短編集めてみました】①私は収納上手な猫

          『龍にはならない』第21話 行く先にソファ

           次の日は、魔女が朝からパンを焼いた。  私は焼き立てのパンをただ食べた。それから二人で庭掃除をした。草むしりをして、花の名前をいくつも教えてもらった。  二人でお昼を食べた後、私はリビングの掃除をした。ソファとお別れをするために。 「掃除をするなら、何もかも捨てよう」 と、魔女が言う。 「執着、していたのかもしれない。ここに夫と住むはずだったから」  その夫は「あの電車」に乗って、あちらの世界へ行ってしまった。それからそのまま手を出せずに来たと言う。  魔女と二人、

          『龍にはならない』第21話 行く先にソファ

          『龍にはならない』第20話 お寿司を食べながら

           夕方に目が覚めると、清水和馬がやって来ていた。 「お寿司」  カウンターに袋を並べ、満面の笑みを浮かべている。 「お寿司買ってきたよ」 「なんで?」 「送別会」 「たった3日のために?」  私の滞在はたったの3日間。しかもほとんど寝ていた。 「あなたが来て楽しかったよ」  和馬はケロリと言う。私は心のカーテンを急いで閉めた。私が来て楽しかった、なんて嬉しい言葉を素直に受け取ることができないから、返事もしないまま早々に跳ね返してしまう。 「あなたは、楽しく

          『龍にはならない』第20話 お寿司を食べながら

          『龍にはならない』第19話 もう頼まないでください

           昼ご飯はカップ麺になった。魔女の仕事が間に合わないかららしい。 「カップ麺続きですみません」  お湯を入れ、出来上がるのを待ちながら魔女は言うけれど、こちらこそ申し訳なかった。 「私、何か作ります」 「いいんです」  魔女がカップ麺の蓋を開け、プンっと強い匂いが立ち込める。 「今のあなたの仕事は休むことです」    何気なく魔女は言う。休むことが仕事だなんて、そんなことを考えていたのか。 「そろそろいいと思いますよ」  「そろそろ?」 「麺、伸びますよ」

          『龍にはならない』第19話 もう頼まないでください

          『龍にはならない』第18話  嫌な思い出を笑い飛ばそう 

           龍になった魔女は私が泣き終わるまで空を飛び続けた。水田を見下ろしながら、茶畑や住宅街を横目に通り過ぎていく。異形の龍のいた川は見えたけれど、根岸と渡った小川は見つけられない。見知らぬ都会まで来たところで旋回し、再び水田へと戻るのを繰り返した。田植えをしたばかりの田んぼには青空と虹色の龍が映し出され、龍の落とした鱗が作る波紋が描いていく。 「そろそろ落ち着きましたか?」  泣き止んだ私に魔女が訊ねた。見上げる魔女の顔に陽射しがあたって、幾つもの鱗は七色に光る。 「大丈夫

          『龍にはならない』第18話  嫌な思い出を笑い飛ばそう 

          『龍にはならない』第17話  盗むな

          何で? せっかく前に踏み出せそうだったのに。 仕事を辞めて、新しいことへ飛び出そうとした矢先に、何で?  光の塊は急速に密集して巨大な人型を作り上げると、私の腕を引っ張ってズルズルと家の外へと引きずり出す。突然のことに声をあげることもできず、ひたすら抵抗しようともがくと、巨大な人型から分裂したの幾つかの光の玉が腹や肩や脚にぶつかってくる。その鈍い痛みに気を取られ、体勢を崩すのを見逃さない。光の人型は力任せに私を引きずり、有無を言わせず出発してしまった。 「何しても無駄」

          『龍にはならない』第17話  盗むな

          『龍にはならない』第16話 見た目

           私は目の前の小さくて、おしゃれで、かわいくて、美人な女を凝視したまま動けなくなってしまった。 「龍になる方法?」 「だって龍になりたいでしょ?」 「私が?」 「そう」  龍になりたい? そんなわけない。これはおかしな言いがかりだ。 「あなたは誰なんですか」  好き勝手に喋り散らかす目的はなんだろう。 「だから。昨日の子は水の妖精。わたしは風の妖精」  ソファの背もたれの上にちょこんと座り、女は前髪をいじっている。真面目に答えそうにない。 「私は龍になりた

          『龍にはならない』第16話 見た目