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【おじいちゃんの優先順位】

お昼時のいつもの牛頭町。食卓には切子皿に黒蕎麦が盛られている。今日はざる蕎麦だ。

「おじいちゃ~ん、お蕎麦できたよ」とおじいちゃんを呼ぶと、「よっしゃ行くわ」
とおじいちゃんがリビングの座椅子から腰を上げる。

私は冷蔵庫から麦茶とおばあちゃんの作った常備菜を取り出し、食卓に並べ、リビングからきたおじいちゃんと先に席についた。

おばあちゃんは、台所の棚から、刻みのりが入っている大きな瓶を取り出している。

「おばあちゃん、いける?」「大丈夫やで、はいこれ、タップリかけたらいいわ」

とおばあちゃんから刻み海苔の入った大きな瓶をもらうと、オレンジの蓋を両手で開けた私は、右手いっぱいに海苔をつかみ、「おじいちゃん、このくらいでいい?」と聞いた。

「もっと」とおじいちゃんが言うので、
「え、もっと?」と瓶の中で一層大きく手を開き、再度海苔を掴みなおし、刻みのりをざるそばにかけた。

「はいありがと、あ、こっちにも入れといて」とおじいちゃんはザル蕎麦のつゆを指さす。

刻みのりはおばあちゃんカスタマイズで、焼きのりや味付け海苔をハサミで細く切ってくれていた。

おじいちゃんは自分のそばつゆに小口葱を入れ、「かなこちゃんは?このくらいでええか?」と聞いてくれる「あ、ありがとう」

「では、いただきま~~~~~~す」おじいちゃんと私とで大きな声で、先に合掌すると、
「はい。どうぞおあがり」とおばあちゃんは言って、おじいちゃんと向い合せに食卓についた。

おばあちゃん手作りの自家製そばつゆに、刻みネギをたっぷりいれて、ワサビをひと差し、すすり始める。おばあちゃんのつゆの出汁の良い香りに、葱と海苔の風味が相まって鼻に抜け、ワサビがツーンと効いてくる。おじいちゃんと二人、あまりに美味しくて、「う~ん」と目を閉じうなり声をあげた。

しばらくして、「あ、そうやわ」と、おばあちゃんが立って、冷蔵庫からサクランボを取り出してくれた。
「これな、裏のいすずさんにもらったんやして、これも食べたらいいわ」と洗ったサクランボは、ガラスの小皿にそれぞれ盛られ、ピカピカしていてた。
いすずさんは牛頭町の裏に住むご近所さんで、おばあちゃんとも仲良しだ。

「わっサクランボやぁ~~~~~~」と、大好物が思いがけず出てきた私は声をあげ、お蕎麦を食べるスピードを加速させる。

おじいちゃんは「お~サクランボかいな、ええな」と言い、すぐさまサクランボを口に入れた。

おじいちゃんは目を閉じてゆっくり、しっかりと租借しながらサクランボを味わっている。
種をプっと上手に手に受け出して、次のサクランボを食べた。

しばらくして、私がお蕎麦を食べ進めていると、
「はなこちゃん、はなこちゃんはサクランボ嫌いか?」とおじいちゃんが聞くので、
「え?!私サクランボ大好き!」と答えと、
おじいちゃんはえへへと笑い
「いやぁ置いてるからやなぁ、嫌いなんかと思ってな」と言った。

「え~好きやから最後に残しといて食べるねん」と私がいうと、おじいちゃんはとても驚いた様子で「えっ、好きなものを置いとくんかいな、
へーーーーー、そうかいな。おじいちゃんは好きなもの一番先に食べるわ」と言い、
「え~そうなん?残しておいて、楽しみに食べる方がよくない?」と私が言うと、

「そんな、かなこちゃん、もしやで、もしも、今、大きい大きい地震がきてやで、屋根落ちてきて死んでしもてみ、食べたかったもん食べられずに死ぬんやで、先に好きなもん食べとく方がええと思わんか」と言われ、「えッ」と、そこまで考えたことが
なかった私は戸惑った。

「え~私はずっと後に残してたわ。おじいちゃんは好きなもの先に食べるんや」と言うと
「そうや!人によって色々違うんやな。面白いな」とおじいちゃんは嬉しそうに笑い、その話を聞いていたおばあちゃんも笑っていた。

そんな私は今、好きなものは先に食べる。
その度、おじいちゃんとのこの光景を思い出しながら。

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