私という人 ~父親~
車が大破するほどの事故に遭い
後頭部を縫っていた。
命に別状がなかった事が幸い。
全国ニュースにでもなりそうな
大事故なのに
地方局も取り上げなかった事を
母に聞いてみたが
詳しい理由は分からないと
答えていた。
おそらく
大学病院の医師である
後輩の父親が
夜遊びをする娘の事を
恥じていた。
世間に
娘の醜態を晒したくない
そんな所だろうと
母は推測していた。
事故に遭った私たちは
同じ病院へ搬送されたが
翌日からは各々
自宅近くの病院へ転院していた。
皆が心配し合っていたため
退院をするとき
連絡をする事を約束していたが
後輩だけは
何も言わずに退院していた。
きっと父親から
「もう関わるな」とでも
言われたのかもしれない。
そう思うと私は後輩の事が
心配でたまらなくなっていた。
後輩は近くに住んでいる。
散歩がてらに見に行ってみよう。
父親がいたら?
そんな事を考えはせず
ただただ後輩の心配を
しながら歩いていた。
庭で誰かが
雪かきをしている。
後輩の母親だろうか?
私に気付き
「〇〇さんですね」と
名前を呼んでいる。
初めて会うのに私を
知っていると言う事は
後輩が話しているのだろう。
骨折はしたが退院し
静かに過ごしていると
話してくれている。
引きこもり気味になり
父親が在宅中は部屋から
一切出てこないようだ。
後輩は
誘ってしまった自分が
事故に巻き込んだのだと
日々泣いているという。
会わせてほしいと伝えたが
父親が在宅中だったので
不在時に会わせてくれる事を
約束した。
数日後に後輩の母親から
連絡がある。
ようやく後輩に会うことが出来た。
あの日に誘ってしまったことを
後悔していると
後輩は泣きながら話しているが
私は誘われたことを
恨むことはない。
むしろ運転手が
無免許だと知った段階で
自分はもちろん
後輩たちにも
乗らない選択を促すべきだった。
結果として事故に遭い
怪我までしてしまったが
みんな無事だったのだから
経験だったと思えば良いと
後輩へ伝えると
ようやく笑顔を見せてくれた。
気持ちが軽くなったのか
後輩は父親との
関係を話し始めた。
後輩は県内一偏差値の高い
学校へ進学できるほどの
頭脳の持ち主だった。
父親の期待も高く
中学三年までは
良好な関係であったようだ。
その裏で後輩は自由のない生活に
嫌気がさし
父親の気持ちに反発するように
県内一偏差値の低い高校へ
入学を決めたと話す。
それから父子の関係は悪化し
会話は一切ないようだ。
後輩は父親が大嫌いだと、
そして言ってはいけない言葉を
言ってしまう。
後輩は私が
同調してくれると
思ったのだろう。
しかし私は
そうだよねとは言わない。
私は父親と喧嘩が出来ないし
言い争うことも出来ない。
なぜなら
私の父親は自らの手で
自分の人生を
終えてしまっているのだから。
・・・・・・・続く
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