【epi-03:想像は難しいので】

【「知ってほしい」を詰め込みました】

 vol.008を発行した後、幻肢痛についてはぜひまた紙面で扱わなければ、との思いを持ち続けていました。というのも、前回vol.008で幻肢痛について取材できたのは偶然で、「これを取材して記事にしよう」と考えて行なった取材ではなかったからです。予定にはなかったけれどもこれはぜひ扱わなければ、と紙面スペースを割いたものだったので、充分ではなかったという思いがずっと残っていました。そしてもうひとつ、先の編集後記でも記した通り、vol.008はコロナ禍真っ只中の発行だったので、多くの人に手に取ってもらう機会がなかったんじゃないか、という思いです。だからあらためてこの「幻肢痛」という事象がいかなるものか、多くの人に知ってもらう機会を作りたいと思い続けていたんです。

 「幻肢痛」という言葉だけは以前から知っていて、義足について取材したvol.004の取材時にも、何人かの義足使用者に質問はしてみたものの、それを感じている人はいませんでした。vol.008の取材を考え始めた時も、幻肢痛についての取材をマストにしていたわけではないんです。上肢切断の取材のためにたまたま連絡した団体に猪俣さんがいて、そこで詳しくお話を伺い「これは紙面で扱わないとならない情報だ」と急遽掲載に至ったものだったので。いずれ必ずもう一度、と思い続けていたのが今回だった、というわけです。言葉だけは知っていても、あんなに恐ろしげな痛みだとは思いもよらなかった、というのがvol.008取材時の感想だったので。

本誌に掲載した、それぞれの方が感じている痛みをイメージ化したイラスト。このほかにも「皮膚を剥がされるような」「血管を砂利が流れるような」「灼けた火鉢に腕を突っ込むような」など、想像するのも恐ろしい、さまざまな痛みのイメージがあります。


 vol.008取材に猪俣さんから伺ったものの中で、ずっと記憶に留まり続けている話があって、それは義手の開発に関わるものでした。ちょっと時間が経ってしまっているのであいまいなんですが、要約すると「筋電義手などの開発に関わろうとする研究者は少なからずいるけれど、その多くが技術の進歩を形にしようとするためのもので、当事者に寄り添った開発ではないために見当はずれのものができてしまうことがある」というような内容だったと記憶しています。つまり当事者の要望ありきで作られているものが多くない、ということらしく、伺っていて「当事者の話や要望を聞かずに作ろうと考えるなんて」と不思議に感じたのですが、案外そういうことはどこででも起きているのかもしれません。ひと昔前までは大きな災害が起きたときに、現地の状況も把握しないままボランティアが押しかけたり、無用な支援物資が届くなんてことも起きていました。あれと同じような意味合いなのかもしれないな、と思ったり。


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 幻肢痛を取り巻く状況も、長らく当事者の声が取り残されているような形だったのだろうなと思います。効果のある治療や薬剤のないまま、その痛みに多くの人がただひたすら耐え、中には耐えきれず絶望してしまった人もいるそうです。そんな中で当事者としてその痛みの緩和に取り組んできた猪俣さんが開発したVRをはじめとするリハビリ方法は、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと思う情報でした。

 当事者が当事者のために痛みの緩和方法を研究開発するのですから、それは開発も早く進むし効果のあるものになっていきますよね。櫻井さんが行なっていたミラーセラピーにしても、そういう治療法の存在は以前から医師や病院に知られていても「それほど効果のあるものではない」との認識で、試してももらえない、という状況だったそうです。それが当事者がいろいろと試行錯誤して実施してみた結果「正しく行えば効果はある」とわかり、それによって櫻井さんは幻肢痛が軽減したわけですから。当事者目線に立って行う研究開発がいかに大事か、よくわかります。

 一方で、当事者だけがそれを知っていればいいとも思いません。何かの課題解決にあたっては、より多くの知識や意見が反映された方が良いですから。当事者が思いもよらなかった方法であったり考え方であったり、そういうものが外からもたらされることも大切だろうと思いますし、関わる人が増えていった方が良いと思うからです。

 幻肢痛交流会にも、現在はまだ多くの人が全国各地から東京へと通っています。VRリハやミラーセラピーにしても、オンラインで行うためのシステムはあっても実際に施せる人がいなければもっとたくさんいなければ仕方がない。施術できる人が増え、わざわざ東京にこなくてもいつでもリハビリを受けられるような環境、同じ痛みを抱える人同士が交流できるような場が整っていかないと、いつまでたっても幻肢痛の当事者は「人知れず痛みを抱える人」のままになってしまいかねないのではないでしょうか。

 人知れず幻肢痛に苦しみ続けていては、社会参加もままならないでしょう。多くの人がそれを克服して社会復帰できるようになるためには、当事者だけではなく、そうではない人も含めた多くの人が広く幻肢や幻肢痛といったものの存在を知らないと、その先の道筋もなかなか見えてはこないだろうと思うのです。

 これまでは人知れず抱え続ける痛みだったかも知れませんが、今はそうしなくてよい方法があります。それによって多くの人が痛みから解放され、社会参加できるようになる。それはもちろんその当事者のためでもあるけど、広い視野で見れば社会全体のため、私たち自身のためでもあると思うんですよね、決して大げさではなく。

 いかがだったでしょうか、このvol.022で取り扱ってきた義足や幻肢痛に関する記事は。普段通りの生活の中では、なかなか知り得ない情報が多くあったのではないでしょうか。そうであればこの号を作って本当に良かったと思います。なかなか知り得ないことを伝えたい、知ってほしいというまさにそれこそが「gente」制作の原動力ですから。「障害」と呼ばれている、人それぞれにある違いについて。それに直面する人もそうでない人も、お互いに知っていないと物事が先に進まないような気がする。「gente」を作る理由はそういう所にあるのですが、とくにこの幻肢痛という事象に対しては、強くそう感じていました。


vol.022の編集後記はこれで終了です。
次回更新からは、vol.023の未公開インタビュー掲載がはじまります。

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