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【02】成長と変化

 vol.018の未公開インタビュー後半は、調理師学校を出てからの経験についてお届けします。
 一念発起して調理師資格を取得したおにっちさん。ですがそれでもなかなか自分らしく働ける職場を見つけるのには苦労があったようです。その経験が、今の環境への感謝につながっているのがよくわかります。


【理解と配慮(続き)】


g:その頃はもう集中力散漫、計算は苦手、など自分の苦手を言えるようになっていたから、それを同級生が理解してくれて、フォローしてくれたんですね。

お:そうですね。集中力もあんまなくて、長い話が苦手だから学校でもやっぱ寝ちゃいましたね。実技になると2時間、120分×2だから240分。その内の1時間半ぐらい、先生の話ずっと聞かないといけないから。でもなんか授業もちょっと変わって、配慮があったのかわかんないけど、「じゃあここまでやってみましょう」ってなって、すぐやって、また話して、って。

g:長く話さず、細切れになったと。

お:細切れになりました。

g:勉強自体は大変だったものの、理解ある同級生と先生のフォローもあって留年もせず、一年半で無事資格が取れたんですね。


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お:で、一応なんか就職課みたいな、職を紹介してくれる先生もいらっしゃって。「障害者の調理師はなかなかいないから、あまり紹介できなくて。B型施設とかそういう所になってしまうかも」って話で、じゃあ自分で頑張って探してみますって言って。一般就労課みたい(※2)。「障害者ですけど」って伝えて(障害者雇用ではない勤務先に)行ったけど、なんか自分らしく働けなかったから、それで辞めて。

g:「障害があります」と伝えたけど、障害者雇用で雇ってくれる所は見つからなかったんですね?

お:苦手(なことがあります)って伝えたけど、伝わりきれなくて。これしかないのかっていう、選択肢は。

g:一般枠で就職してみたものの、やはり理解がなくうまくいかなかった。

お:ハローワークにも通って。

g:調理師学校を卒業してからも、今の仕事に就くまでは時間がかかったんですね。

お:そうですね、苦労しました。アルバイトで入った所で社員で雇ってくれる、って話になって、「障害者雇用で」って言ったら「社長に自分でプレゼンして」って言われて。なんで自分でプレゼンするんだよって思って、それをハローワークに言ったら「それは違うよ」って言われて。会社側がやることだよ、プレゼンって難しいことだよって言われて。聞いたら本当に難しくて、素直に説明できないんで「辞退します」って辞めて。

g:それは辞退してよかったと思います。

お:で、僕が辞めてから入った障害者も、結局障害を理解してもらえなくて(※3)辞めちゃったって。そういう合理的な配慮がない会社だった。

(※2)障害者雇用の求人がなかったそうです。
(※3)発達障害ASD当事者が、職場でパニックに陥ってしまったことがあったそうです。

【ヘルプカードの理由】


g:おにっちさんのヘルプカードには表面に大きく「知的障がい」と、裏面には苦手なことが書いてありますよね。勤務中お客様から「見せて」と言われることもありますか?

お:「なんで付けてるの」って言われます。知的障害者って見えないって。「覚えるの苦手なんで、これ付けてます」って答えてます。

g:それを聞いてお客様は?

お:「そうだったんだ、じゃあもうちょっとゆっくり話すね」って、理解はしてくれる。見てくれない人はダーって来るんで「ちょっと待ってください。ちょっと時間もらっていいですか」って。

g:自分からお客様に理解を求める場合もあるんですね。

とても人懐っこいおにっちさん。話していると「本当に人が好きなんだろうな」というのがよく伝わってきます。

お:付けてないと「なんで出来ないんだよ」って言われちゃうから。それで横川さんが「おにっちヘルプカードつけていいよ」って。前の会社ではなんか小さいキーホルダー的なやつだったんですけど、それじゃあ理解してもらえないから「ヘルプカード付けさせてもらえませんか?お客様にも失礼になっちゃいけないんで」ってお願いして「いいんじゃない、お客様のためにもその方がいいよ」って横川さんが言ってくれて。キッチンカーの時も付けてたし。

g:キッチンカーは初めから障害のある人が働く場として作られたものでしたからね。そこでやっていた通りにしていいと、社長が認めてくださったんですね。

お:でも「おにっちはそういう考え方でも、他の人はそれは辛いかもしれないから、それは配慮してね」って言われました。

g:なるほど、中には障害をオープンにしたくない人もいるだろうから、それは個人個人の判断で、ということなんですね。

お:でも障害隠しても自分のためにならないし、理解してもらって楽しく志して働くんだったら明かした方がいいんじゃないか、っていうのは常に他の人にも言ってます。


 今でこそ理解ある人たちに囲まれて、充実した毎日を送っているおにっちさん。ですが現在の環境にたどり着くまでは、理解されないがために辛い経験も重ねてきました。その彼が言う「障害は隠さない方がいい」という考えには、説得力があります。
 「障害を隠したい、明かしたくない」と考える理由は障害種別にもよりますし、人それぞれでしょうが、その根底にあるのは障害へのネガティブイメージなのだろうと思います。障害の社会モデルの考え方や、多様性や共生社会といった言葉が一般的になりつつある現在においても、それはまだおいそれと変わる兆しは見られません。
 おにっちさんの働く環境が特別なものかと問われれば、そうでもないと思います。福祉の専門家がいるわけでもなく、特別な配慮を彼だけがされているわけでもないのは「gente」本紙でご紹介した通りで、障害についてと言うよりは、おにっちさん個人に対しての共通理解とほんの少しの寛容さによって、おにっちさんは自分らしく働けています。おにっちさんの働く姿が多くの人の目に触れることで、障害に対する偏見やネガティブイメージが少しづつ、しかし確実に変わっていくのでは、と期待せずにはいられません。


【editor's note】

 おにっちさんとはじめて会ったのは2019年1月末なので、取材を申し込もうと思えばこれまでにもそのタイミングはありました。特に時期を見計らって「今だ!」とこのタイミングを狙ったわけではないのですが、職場環境がとても充実している時期にこの取材ができたのはラッキーでした。
 「gente」2度目の知的障害取材でしたが、印象は初回とだいぶ違いましたね。目に見えない障害であるからなのか、知的障害の多様さをあらためて感じる取材となりました。ゆえにまたぜひ違う人を取材してみたい、という気持ちを持ちましたし、そう遠くないうちにその機会があればと思います。


別冊は今回で終了。
次回からは編集後記をお送りします。更新は8月10日過ぎの予定です。
ご期待ください。

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