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【02】強みを生かして得意なプレーを

 vol.021未公開インタビュー、今回は小谷さんの働く就労移行支援の施設長佐藤さんのインタビュー未公開分後半です。こちらでは障害者雇用の現場で仕事をする佐藤さんの立場から、多様性やこれからの障害者雇用についてのお考えを語っていただいています。
 障害者雇用は法定雇用率の定められた、いわば企業に対する義務です。しかしそれをただ義務として取り組むのか、それのみにとどまらない結果を出せるかは大きな違いです。まだまだ障害者雇用について、戦略的価値を見出せていない企業は多いように感じられますが、佐藤さんのお話の中には大事な気づきがたくさんありました。


g:10年ほど前から「多様性/ダイバーシティ」というワードが一般的に使われるようになって、「多様性が大事。個性を大事に」というフレーズはもう多くの人にとって聞き慣れたものになっていると思うんですが、就労支援や職業訓練において、さらには雇用において個性を重視していくには、どういった考えが求められるのでしょうか?

佐藤:そうですね、まだまだダイバーシティの実践に苦労してる企業は多いなと思いますが、10年前に比べると確実にダイバーシティを重要視している企業は非常に増えている実感はあります。それが実践できる所というのは、具体的に言えばその人に応じた求人票を用意できる企業、挨拶なども人それぞれでいいというか、あなたの場合は会釈ができればそれでいいよ、その代わり高いPCスキルを活かして、事務職として活躍してください、という働き方を推奨してくれる企業もありました。で、そうして採用された方が、はじめのうちは会釈しかできなかったのが、いつの間にか社内で社員に対しては挨拶ができるようになっていたんです。電話も出られるようになったし、成長していく方は少なくないんですよ。逆を言うと、個人的には障害者雇用の歴史が長い企業の方がダイバーシティの実践に苦労しているように思う部分もあります。障害者雇用の歴史が長ければ長いほど、採用基準やルールがガチっと決まってしまっていて、柔軟性に欠ける傾向を感じるんですよね。なので、「うちではこういう働き方をする会社だから、 こうしないとダメですよ」とか、それこそ社内ルールでこういう挨拶をしないとダメだから、挨拶できない人は働けませんとか。それではダイバーシティーを実践できているとは言えませんよね。何かが苦手でも、得意なことを活かして自分らしい働き方できるのが「多様性を重視する」ということだろうと思うので。そういう企業は増えてはいるんですけど、まだまだ実践に苦労してる企業も多いのかなと感じますし、実践できている企業はやはり外資系の企業に多いように感じます、個人の感覚としては。なのでコンフィデンスはそういう理念が共通する企業と連携を取るようにしていますね。

g:なるほど、ダイバーシティの実践には柔軟性の有無が鍵になると言えそうですね。そういう環境には、個人が自ら働き方の幅を広げていける余地があるんでしょうね。


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佐藤:そうですね。先ほどの挨拶が苦手な方のケースも、面接した企業がその人の強みを見てくれたから入社できて、強みを伸ばしたら苦手だった挨拶もできるようになっていて。なのでいかに強みを大事にできるかだと思うんですよね。ある企業面接で知的障害で自閉症の利用者さんが、面接の最後に手を振って「バイバイ」と言ってしまったんです。その瞬間に面接官の方から我々の就労支援員に「コンフィデンスではこういう訓練をしてるんですか」と指摘されたことがあったんです。で、その帰りに同行していた支援員が私に相談しに来て「こういう風に言われちゃいました」と報告を受けたんですけど、私は「そんなの気にする必要ありませんよ」と答えました。要はマッチングが合わなかっただけの話なんですよね。 型通りの基準でしか判断せず、障害特性の理解も乏しいような企業では、ひとりひとりに合わせたコミュニケーションは難しいだろうな、という判断をするだけの話で。そう言われたからといって、挨拶ができるようその利用者さんを厳しく訓練しても意味がないと、私は思うので。

g:それを矯正するよりその人の得意な部分を伸ばした方が良いし、それを評価してくれる就労先が見つかった方が、お互いにとって良いですよね。

佐藤:そうです。現にその利用者さんはその直後、別の企業に就職が決まりましたし。そこはとても個性を大事にしてくれる企業で、その利用者さんのちょっとしたジェスチャーも許容してくれたり「こういう挨拶するとさらに素敵ですよ」という働きかけまでしてくれたりするので、結果その利用者さんはいい表情で楽しそうに仕事してますし。だから挨拶の訓練はやはり必要なかったんだと思いましたね。その利用者さんらしくないと思うので。それは小谷さんにも繋がる話かなと思うんですよ。

g:そう思って聞いていました。マッチングする企業で得意を活かして働けることが第一で、企業側も個人の強みや得意にフォーカスして採用をしていけば、結果として個人が仕事の幅を広げていけるものなんだなと感じますね。

佐藤:インザーギ(※1)に「守備しろ!」と言うようなものですよね(笑)

g:その通りですね(笑)、それは無駄だなぁと思います(笑)。やはり得意なプレーで活かされないと、ですね。まだまだ皆一様に「守備もしろ」と求める企業もある中で、得意なプレーを活かそう伸ばそうとする企業が徐々に増えてきつつあると。

佐藤:はい、そう思いますね。

(※1)フィリッポ・インザーギ:サッカー選手。1990年代後半から2000年代にかけて活躍した、イタリアを代表する名ストライカー(点取り屋、攻撃的な選手)。


 障害者採用について考える時、どうしても「配慮ありき」になりがちですが、それは決して特別なものでも、「障害者だから」とされるものでもなく、根底にあるのは「人に対して、一個人に対して」なのだろうと、取材の度に感じます。
 「障害者だから特別な配慮がないと働けない」のではなく、得意を活かして力を発揮するために、苦手に配慮する。その苦手や配慮を必要とするものが、障害特性に由来しているだけで、考え方としては障害の有無で隔たりのあるものではないはずです。
 障害者採用が「やれること」を用意するものだと捉えている企業はまだまだ多いと思われる中、「できること」で力を発揮してもらおうとする企業が少しづつでも増えてきている理由の一つに、「自分らしい就労」を支援する人の存在があるのだろうと強く感じる取材となりました。

次回は再び編集後記戻ります。
vol.021の取材経緯やそこでの気づきなど。ご期待ください。

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