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広瀬香美がくれた楽しい冬を日本列島にもう一度。

ウィンタースポーツ(スキー・スノーボード)人口が、1990年代のピーク時から4分の1にまで減少している。

その原因については、スキーやスノボが他のレジャーに比べて技術習得の難易度や怪我のリスクが高いこと、ギア一式を揃えるための初期費用が高額なこと、遠方のスキー場に行く煩わしさ、などが言われているが、私は「広瀬香美のメディア露出が減ったこと」も大きな原因の一つだと考えている。


広瀬香美は和歌山県生まれの福岡県育ち。両親の方針で小さな頃からピアノや和声学といったクラシックの英才教育を受ける。
高校卒業後に国立音楽大学の作曲専修に進学。在学中に聴いたマイケル・ジャクソンやセリーヌ・ディオンに衝撃を受け、ポップミュージックの作曲・プロデュースへと関心が移り、以後ロサンゼルスと日本を行き来しながらポップミュージックの作曲を学ぶ傍ら、両立してセス・リッグス(マイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーなどUSトップスターたちのボイストレーナーとして高名)のもとでボイストレーニングを行う。

広瀬は作曲家志望としてレコード会社各社に自身が作った楽曲のデモテープを送っていたが、音源に吹き込まれていた彼女の歌声に耳を留めたビクター音楽産業から歌手としてのアルバム制作を打診され、1992年に作曲家としてではなくシンガーソングライターとしてデビューを果たす。しかしながら、リリースしたアルバム1枚とシングル2枚はいずれもセールス的に伸び悩み、ビクターは広瀬の新たな楽曲制作に対して後ろ向きな姿勢になり始める。

そんな中、インパクトのあるTVCMを打ち出したい反面、有名アーティストを起用する際の高額な広告費に頭を悩ませていた当時のアルペンの水野社長(現取締役名誉会長)が、デビューしたてで売上的にもくすぶっていた広瀬香美の歌声と楽曲に目をつける。そして楽曲制作費をアルペン、ビクター、広瀬の所属事務所の3社折半する形でアルペンのCMタイアップソング『ロマンスの神様(1993)』を制作し、TVCMとともに世に送り放った。

冬の恋を予感させるCM映像と見事にマッチした『ロマンスの神様』は175万枚の大ヒットを記録し、日本中の若者たちをゲレンデに駆り立てた。
ちなみにこのシーズンのアルペンの広告費は『ロマンスの神様』の売上により逆にプラスになるという異例の収支となっている。

その後も広瀬は『幸せをつかみたい(1994)』『ゲレンデがとけるほど恋したい(1995)』『DEAR...again(1996)』と毎年ウィンターシーズンにアルペンのTVCMとともにヒット曲を世に送り出す「冬の女王」として、アルペンと二人三脚で日本の冬を盛り上げた。
広瀬の作るキャッチーで起伏の大きな独特のメロディと彼女の抜群の歌唱力は、新たな気持ちや新たな出会いを求めて真っ白で広大なゲレンデに飛び出したくなるようなポジティブなバイブスに溢れていた。

ロマンスの神様(1993)


幸せをつかみたい(1994)


ゲレンデがとけるほど恋したい(1995)


真冬の帰り道(1997)


promise(1997)


ストロボ(1998)


広瀬香美は2001年に自身初の全国ツアーを開催。その後、シンガーソングライターとしての表舞台から徐々に退きはじめる。
後に広瀬は、当時の自分は「歌手」よりも「作曲家」としての自意識や承認願望が強く、人前やカメラの前で歌うことへの違和感や抵抗感があったことをインタビューで語っている。

「日本生産性本部「レジャー白書」」の調査によると、日本国内のスキー・スノーボード人口は『ロマンスの神様』が発売された1993年にピークを迎え、広瀬香美がアルペンTVCMのタイアップから退いた2003年から急激に落ち込む。
以下の図を見ていただきたい。

『ロマンスの神様』発売が93年。
広瀬香美とアルペンの最後のタイアップが02年。


要するに広瀬香美の楽曲がテレビから流れなくなった瞬間から、日本でスキーやスノボを楽しむ人が減少し始めたのである。恐ろしい相関関係である。というか、もはや因果関係である。

信じるか信じないかはあなた次第だが、少なくとも広瀬香美の音楽と歌声は、寒さとか雪の冷たさとか、淋しさとか物悲しさとか、冬のネガティブなイメージを全部丸ごと吹き飛ばす前向きなパワフルさあったし、2024年の今、改めて聴いてみても変わらない魅力が詰まっている。

現在の広瀬香美はコロナ禍でのSNSバズリを期に歌い手としての活動を活発化し、今年はコンサートツアーも控えている模様。


今年は雪が多いです。
寒いの嫌いです。
雪道の運転イヤです。
みんなそうです。

だからやっぱり日本の冬には、広瀬香美が必要。

部屋の隅っこで埃を被っている私のスノボ板を再び引っ張り出すには、やっぱり広瀬香美が必要。

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