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夢離48.421km 3話

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〈登場人物〉
イチグロ カズロウ・・・音楽デュオ『病は気から』作詞・作曲・ボーカル・ギター担当

キウチ タキオ・・・音楽デュオ『病は気から』ボーカル・バイトで資金調達担当


〇東京・某刑務所・面会室(昼)

パイプ椅子に座っているカズロウ。
後ろには看守。

タキオ、入ってくる。

ガラス越しのカズロウと目が合う、タキオ。

タキオ「…」

カズロウ、立ち上がり、

カズロウ「…この度は私の反社会的な行為により、大変ご迷惑と心配をおかけしました。誠 に申し訳ございませんでした」

タキオ「…なんだよ、その後ろの看守さんにこれ言えって言われて、言ったような形式すぎる謝り方は?」

看守「…」

カズロウ「…いやぁーー!どんなテンションで会えばいいのか分かんなくてさ、もうここは思いっきり落ち込んで、反省してる姿見せようと思ってさ!どうだった?」

タキオ「…見えねーよ」

カズロウ「まじ!?気持ちはそうなのになー。やっぱ言葉と動きと表情がついていかねーわ。そう考えると芝居って難しいなー!やっぱミュージシャンは音楽だけやるべきだよな!」

タキオ「…………..おまえ何してんだよ?」

カズロウ「…………ああー、同時に3つはダメだよなー!薬物、恐喝、飲酒運転!1個でも結構罪重いの…!」

タキオ「何してんだよ!!」

カズロウ「…いやあ、結構色々参っちゃっててさ!なんかさ周りの奴はバリバリ働いて、皆で楽しく仕事の愚痴タネにして酒飲んで、彼女とデートして、バリとか行っちゃって。なのにおれは金はねえ、女は出来ねえ、楽しい事は無いし、それに夢、叶いそうもないじゃん? そういうの発散したくて…」

タキオ「それ全部自分のせいだろ?責任だろ?叶うわけねえじゃん!バイトと、賞金と副賞だけは立派な地方の祭りしか出てないんだから!金と目の前の生活の為に音楽捨てて!」

カズロウ「…でも最低限の生活が出来なかったら音楽すら作れなくないか?確かにその比率?分量は間違ってたかもしれないけど、バイトも賞金も少なくとも音楽作るために必要な・・・」

タキオ「言いわけ!?お前の中に音楽は全く無かったよ!あとそうやって笑ってごまかして、逃げるのやめてくれないかな!」

カズロウ「…それはお前もだろ。俺のやることに金魚のフンみたいに付いてくるだけで・・・」

タキオ「どういう意味?」

カズロウ「歌詞も曲もおれが作って、おまえはそれを歌うだけ。音楽に対して何もしてないのはお前だろ?」

タキオ「なんだよその言い方?」

カズロウ「作ってくれるの待つだけ。せめて何か意見やアイディア出せよ!それにおまえだってバイトばっかして、4つ掛け持ち?おれと変わらないだろ?」

タキオ「それは…おれは作れない分、お前が曲づくりに集中できるように、おれが稼ごうと思って…」

カズロウ「全然そうなってないから!現におれもバイトめっちゃしてるし、そんな時間なかったよ!」

沈黙

タキオ「・・・なんでおれに声掛けたんだよ?」

カズロウ「(笑い) ・・・なんでだろうな?失敗だったな」

タキオ「なんで誘ったんだよ!何が紅白だよ!」

カズロウ「…」

タキオ「紅白出て、巣鴨で声掛けられて、不登校の奴からも連絡来て、ライブに沢山来て、 皆がおれらの音楽聞くんじゃなかったのか?」

カズロウ「……….」

タキオ「そんな事して紅白出れると思ったのかよ!NHKは特に出演者にクリーンなイメージ求めんのに!」

カズロウ「…………………….」

タキオ「48.421㎞。何の距離か分かるか?おれらの家からNHKホールまでの片道足した距離だよ。遠いよな、緑黄色社会は4人で8.4㎞だぜ。
…教師なら学校の近くに住め、生徒を守るために。小説家になりたいなら神保町住んで、古本沢山読め。武道館目標ならその横に家建てろ!」

カズロウ「何言ってんだよ?」

タキオ「何がNHKホールだよ!!ただでさえ夢から遠いのに、住んでる場所からも遠かったら叶うわけねえんだよ。
本当に叶えたかったら、そんな願掛けみたいな事までしないと 夢って叶わねえんだよ」

カズロウ「……………………………..」

タキオ「…だから東川口に住んでるおれも悪い。ごめん」

カズロウ「…ほんとにごめ…」

タキオ「今の雑談な。ちなみに緑黄色社会の距離、あれ予想だから。知ってたらやばいだろ」

カズロウ「…ごめん」

タキオ「…おまえはもう2度と人の前でお金を取って、何かを与えるために歌うべきではないと思う。夢与える筈が、沢山の人の色々を奪ったんだから」

カズロウ「…そうだな」

タキオ「だから最後に一緒に歌ってくれ、ここで」

カズロウ「え?どういう事だよ?・・」

タキオ「歌詞書いてきたから、今、曲にしてくれ」

タキオ、手書きで書いた歌詞を出し、ガラス越しでカズロウに見せる。

カズロウ「いやでも・・・・」

タキオ「待ってるから。曲浮かぶまで。(看守に)いいですよね?」

看守「自分、未熟者なんで…」

カズロウ「(葛藤)」

タキオ、待つ。

カズロウ、脳みそを音楽に動かし始める。

×     ×     ×

カズロウ、歌詞を見ながら曲を考えている。

タキオ、待つ。

×     ×     ×

タキオ、待つ。

カズロウの動き、止まる。

カズロウ「…できた」

タキオ「…おつかれ」

カズロウ「…おう」

タキオ「…じゃ歌うぞ」

カズロウ「え?ここで」

タキオ「そうだよ。作って歌わないって、何の為の音楽だよ」

カズロウ「…。でも歌っていいの…(看守を見る)」

看守「自分、未熟者なんで」

タキオ「やるぞ」

×     ×     ×

カズロウとタキオ、立っている。
看守、2人のアコースティックギターを持ってくる。
カズロウとタキオ、ギターを持ち、ピッチなどを確認し、

カズロウ/タキオ「…」

イントロを弾き始める。

『公共放送なんて夢離( むり) 』

(Aメロ)
夢は無理無理無理叶わない
夢は無理無理無理口に出すだけ
それは定説 日本列島一般論 そしておまえもそう思う

じゃあなぜ持つ 夢はある 中には叶った奴もいる
イチロー 安室に 真田広之  
アインシュタイン サルバドールダリ ピエール瀧
(ピエールさんは色々あったよ)

(Bメロ)
ってか赤本ないのか 攻略本ないのか 指定校推薦やヒントをくれる仙人はいないのか
人には夢叶うまでの距離がある 1人ひとり違うだけ でもね

(サビ)
おれのは遠すぎたフルマラソンより距離あった
人生3週目でちばテレビ(たまにTOKYO MX) 
1週でNHKに出たいんだ 朝ドラ紅白出たいんだ
家から夢まで 片道2人の総距離 48.421キロ

(Cメロ)
距離の近さを才能という 天性と呼ぶ
なら才能天性遠い奴は 夢持たずに年末ジャンボを買うしかないのか
NOT定説 死ね一般論 動け動け考えろ 動け動け言葉出せ oh oh oh
------oh my god !おおきな

(大サビ)
おおきな勘違いトライアスロンすればいい
人生3週分考え動け(歩きスマホはやめれ)
1週間を夢に注げ 血も涙も出せ 死にたくもなれ
抱きたい女性は 鎖骨がエロスな体重 48.421キロ

叶っても 薬物恐喝飲酒運転は 絶対だめさ(2度と戻れない)

歌い終わる。

カズロウ/タキオ「…」

タキオ、舞台上から去る。

カズロウ、ただ1人になる。


〇東京・刑務所・広場(昼)

数年後。

ベンチに1人座る、カズロウ。ある受刑者が隣に座る。

受刑者A「あついね」

カズロウ「そうっすね」

受刑者A「さむいね」

カズロウ「どっちすか?」

受刑者A「分かんない。立春だもん」

カズロウ「…(反応に困る)」

受刑者A「模範囚!ようやくだな」

カズロウ「…はい」

受刑者A「溜まってんじゃないの?」

カズロウ「はい?」

受刑者A「インスピレーションとか、イマジネーションとか」

カズロウ「え?」

受刑者A「え?ギター豆」

受刑者A、カズロウの手を見ている。
カズロウの右手にはギター豆がある。

カズロウ「あ。…全然消えなくて」

受刑者A「一生消えないよぉ」

カズロウ「…ですね」

受刑者A「やらないの?」

カズロウ「もう…」

受刑者A「せっかくここ来たのに~」

カズロウ「どういう事っすか?」

受刑者A「そういうの経験したからこそ、やれる事があるんじゃないの?」

カズロウ「え?」

受刑者A「皆そうだけどさ、地上出たら、ここの事全部消して生きていくのか?おじさんとの事も忘れるの?悲しいなーー」

カズロウ「…」

受刑者A「おれが出たら聴かせてよ。カーペンターズとかサイモン&ガーファンクルみたいの聴きたいな」

カズロウ「その2つ、全然路線違いますよ」

受刑者A「頼むな。あと13年おれはここいるんだけどさ」

カズロウ「え、そんなにっすか!?なにしたんですか」


〇代々木公園・けやき並木通り(昼)

タキオ、ギター1本で路上ライブをしている。
看板には『病は気から』のキウチ タキオです!の文字。
だが誰も足を止めない。

巡回中の警官が来て、

警官「君、許可取った?」

タキオ「え、えっと…」

警官「だめだよ。片付けて」

タキオ「ああ。え、どうやったら…」

警官「撤収!」

タキオ、片付け始める。NHKホールが目に入る。

タキオ「…(無理だな)」

するとNHKホールから楽器を持った4人組が出てくる。

タキオ「?」

マスクや帽子を被っているが、緑黄色社会だ。

タキオ「…」

警官、自転車に乗り、去っていく。

タキオ「……。…あの!」

タキオ、追いかける。追いかけながら呼び止める為、声を出す。

声に反応する緑黄色社会のメンバー。走っているタキオを見ている。

警官、タキオに気づき自転車を止める。

警官「なに!?ほんとミュージシャンってルール守ら…」

タキオ「あの…すいません!この場所でどうやったら歌えますか?」

おわり

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