源氏物語の色 1「桐壺」 ~この物語の行く末を暗示~

源氏物語を読んだことがないと思っていても、高校の古典の教科書に出てくる「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに・・・・・・」の冒頭部分だけは知っている、という方は多いと思う。
そう。あれが源氏物語。

どうしても「古典は難しい」「文法が分からない」などと思われがちだが、これは高校のテストや大学受験のための暗記、正解を導くための方法、このことに終始してしまっているからだと思う。
考えてみてほしい。所詮日本語。所詮物語。
今の時代、小説を読めば読んだ人の数だけ、感想があって、思いがある。
村上春樹の小説を読んで語り合うように。

紫式部はどう思うかわからないけれど、私は私なりの解釈で一帖ごとに「色」を読み解いていきたい。

「桐壺」のあらすじ
ーーー桐壺帝に寵愛された身分の低い桐壺更衣は、他の妃に妬まれ苛められ、幼い皇子を残して死ぬ。生まれながらにして美しい光のようなこの皇子は、のちに光源氏と呼ばれることとなるーーー

この帖に出てくる色彩表現は白と紫。
白は、「白き大袿」という決まりごとの褒美の品として書かれている。

紫は
「結びつる 心も深きもとゆひに 濃きむらさきの 色しあせずに」
という和歌の中に登場する。

この場面は、天皇である桐壺帝から、「自分の息子である光源氏ものとに、娘の葵を嫁がせないか」と言われて答えた左大臣の歌。
現代ならば尻込みしてしまうところだが、この時代ならば娘個人の幸せな結婚というだけでなく、左大臣家も安泰になることが約束されるわけなので、それはそれは大喜びで受け入れる。
初めて結ぶ元結の「濃い紫」があせないように、と願っているわけだ。

この時代の「紫」は高級な色。その中でも濃い紫は最高級。
その紫が色あせないように……と願わずにはいられないこの心理。

紫の色を光源氏にかけているのだ。
どうか紫が色あせないように……。
どうか光源氏が心変わりしませんように……。

源氏物語の始まりとなる「桐壺」の帖に紫。
この物語の行く末を、紫という色で暗示しているように思えてならない。

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