トランスジェンダーは婦人科を受診しちゃいけないの? 当事者や医師に聞いてみた【活動報告No.2】

「リハビリテーション業界は、ジェンダーやセクシュアリティに対して課題意識が低いのではないだろうか…」
そんな疑問を持ったメンバーが集まり、月1回程度のペースで勉強会を開いています。この記事は、その活動報告です。

ジェンダーやセクシュアリティはセンシティブな面もあり、日常生活の中で触れる機会は少ないでしょう。しかし、誰かの人生の一部に触れ、時にはプライベートな領域まで踏み込んで支援をする立場のわたし達にとっては、見過ごすことのできない問題でもあるのではないでしょうか?ひょっとすると、「勉強してみたいな」と思っている人は少なくないのかもしれません。

このリポートは、どこかの誰かの、そんな些細なきっかけになることを願って書いています。

はじめに

2021年11月5日、『リハ職のジェンダーとセクシュアリティを考える会』にて、2回目のシェア会を行いました。今回も様々な立場からの意見が生まれ、とても有意義な時間となりました。

(1回目の活動報告は下部の記事をご覧ください)

参加メンバーは、
橋本さん(@daigo7
ジュンさん(@reha_jun
なおこ(@torunitarinumon) の3名です。

今回、取り上げた記事はこちらです↓
※この記事は、トランスジェンダーに対する差別についての内容を含みます。読んでつらくなる可能性があるので、ご留意ください


記事のご紹介

記事を書かれた遠藤まめたさんは、ご自身もトランスジェンダー当事者であり、LGBT(かもしれない人を含む)が集まれるオープンデーを定期開催している一般社団法人にじーずの代表をされています。

トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別と異なる性自認を持つ人のことを指します。
ことの始まりは、「トランスジェンダーの人が婦人科を受診するのは迷惑だ」という匿名のツイートでした。これをきっかけに、トランスジェンダーの婦人科受診を揶揄する書き込みが殺到し、記事にあるような心無い言葉が飛び交いました。
これを目にした遠藤さんは、実際のところトランスジェンダーは自己満足のために婦人科を受診しているのか、そしてTwitterの外では婦人科医たちはトランスジェンダーの受診についてどう語っているかを明らかにするため、婦人科を受診している当事者と、トランスジェンダーの診察をしている婦人科医にインタビューを行いました。詳細は、リンク先の記事をご覧ください。


感想の共有

この記事を踏まえ、参加メンバーでそれぞれが感じたことを共有していきました。以下にその一部をご紹介します。

・トランス女性の経験談を遠い世界の様に思ってしまい、自分は医療職なのにこれで大丈夫か?、とハッとした
・多様な人々に接することを前提とすると、専門職としてのあるべき姿が問われるのではないか
・経営をしている立場で考えると、受付の事務、看護師、助産師など様々なバックボーンをもっている人に、トランスジェンダーに対する差別についてどう教育していくのか、それまでの経験や認識が異なる中で、どう標準化するのか難易度が高いと感じた
・医師の意識が変わっていても、医師と対面する前に接するスタッフが差別的では意味がない、教育の標準化が重要
・トランスジェンダーに対する差別は、婦人科だから問題視されているのか
・医療職だけでなく、事務職のように看板になるスタッフがきちんと教育されていない状態では、当事者が受診するのは難しいのではないか


また、トランスジェンダー当事者であるジュンさんからは、以下のようなコメントをいただきました。

・当事者の視点で読むと、とても苦しい記事であり、自分の経験を思い出して辛い部分もあった。婦人科への行きづらさがあるのは事実。
・冒頭でのトランスに対する差別・中傷は、気持ち悪くなるくらいの酷い発言。『記事にあるような発言をする医療職がいる』というメッセージ自体が当事者にとっては怖いものである。自分が患者の立場になって受診した際にこういう医療職がいるのは絶対に嫌だ。
・身近に当事者がいるから理解している、という認識も危険。
・トランス男性の友人が婦人科を受診した際に、トランスジェンダーにフレンドリーと謳っていたにも関わらず「普通のトランスジェンダーは…」という言い方をされてすごく傷ついた、という話を聞いた。そういう場面を目撃する度に“研修するだけでは全然ダメ”、と感じる。医療職側が「普通は〜」という考え方をしていると、ふとしたはずみでそれが言葉や行動に現れて傷つけてしまう。傷つき体験をした当事者は受診をしづらくなり、病気の発見が遅れる悪循環も生まれる。
傷つき体験が当事者から医療を遠ざけるのはリハビリテーションの場面でも言えること。骨折や外傷で整形のクリニックに通う当事者に対しても、リハ職がふとしたはずみで発する言葉が当事者を傷つけてる可能性もある。傷ついた経験から受診や通院を止めてしまうのは容易に起こりうること。やはり、リハ職にも理解が必要。


ジュンさんのコメントを受けて、わたし達は「普通は~」という言葉が持つ暴力性について話し合いました。

ジェンダーの問題に限らず、「医療職の無意識な言葉や振る舞いが、知らず知らずのうちに相手を傷つけているかもしれない」、そういう可能性の存在自体に、気づいていない人は決して少なくありません。そもそもリハビリテーションの語源は『全人間的復権』。その人がその人であるための権利を取り戻す行程であるにも関わらず、そこに関わるわたし達リハ職は、『人権』に対する意識が低いのではないか。この会がスタートしたきっかけには、そのような思いもありました。

わたし達にできることは?

とはいえ、個人で取り組むには限界があります。では、どうすれば自分の中の『無意識の偏見』に気付くことができるのでしょうか。また、病院や施設などの組織全体として、気付きを促すにはどのようにしていくのがよいのでしょうか。

ここで橋本さんから、マイクロアグレッションについての理解を深めるために、実際に行った研修の紹介がありました。

先日、橋本さんが代表を務める一般社団法人りぷらすにて、ルッキズム(外見や容姿による差別)やマイクロアグレッションに関する資料を読み、感じたことやそれまでの経験を共有しました。
このような無意識の行動に対する学びは、“いかに自分で気づけるか”が重要で、そのためには一方向性ではなく双方向性の学習が大切なようです。


マイクロアグレッションとは?

実際にトレーニングで使用した記事(『私の人権の話』)はこちら↓


マイクロアグレッション(Microaggression)とは、明らかな差別には見えなくても、ジェンダーや人種などのステレオタイプ・偏見に基づく発言や言動で、無自覚に相手を傷つけることを指します。

何気なく発した自分の言葉が、意図せぬところで相手を傷つけているかもしれない。これは、一度や二度だれかから言われて簡単に受け入れられるものではありません。ましてや悪意なく、時には良かれと思って発信したメッセージを、「傷ついた」と拒否され遠ざけられるのは、決して気持ちの良い経験ではないでしょう。

しかし、傷ついた側にも、傷つくまでのストーリーがあり、そこには大切にされるべきひとりの人間の“尊厳”が存在しています。他人の気持ちを真に理解することはできなくとも、相手の立場に立って何を感じ何に傷つくのかを想像し、自らの言葉や態度を選ぶ程度の嗜みは、医療職にはなくてはならないものなのではないでしょうか。

おわりに

今回は、トランスジェンダーの婦人科受診をテーマに感想を共有しました。

他者の人生のストーリーに深く関わるリハビリテーション職種にとって、ジェンダーに限らず、人種や貧困、社会的格差に関わるマイクロアグレッションは、看過できるものではありません。医療職自身の思想や信念を変えるまでの強要は困難ですが、クライアントの前に立つひとりの専門家として、身につけるべき態度はあるはずです。

今回、橋本さんからご紹介いただいた研修は、こういった自分の中の無意識の偏見や差別的な思考・言動に気づくのに有効なトレーニングであり、今後この会でも実際に行ってみてはどうか、という声も上がりました。今後の活動を進めていく上で、そのような機会を持てるよう、計画していきたいと考えています。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

記事:楠田菜緒子

本のご紹介

今回、記事のテーマでもあったトランスジェンダーについて、詳しく勉強してみたいと思われた方におすすめの書籍をご紹介します。

はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで 石田仁(著) ナツメ社

改訂新版 LGBTってなんだろう?:
自認する性・からだの性・好きになる性・表現する性   
藥師 実芳 (著), 笹原 千奈未 (著), 古堂 達也 (著), 小川 奈津己 (著) 合同出版


マイクロアグレッションについては、以下の文献がおすすめです。

日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション――人種、ジェンダー、
性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別
デラルド・ウィン・スー (著), マイクロアグレッション研究会 (翻訳) 明石書店


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