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マイクロアグレッションとは何か?【活動報告No.5】

「リハビリテーション業界は、ジェンダーやセクシュアリティに対して課題意識が低いのではないだろうか…」
そんな疑問を持ったメンバーが集まり、月1回程度のペースで勉強会を開いています。このリポートは、その活動報告です。

ジェンダーやセクシュアリティはセンシティブな面もあり、日常生活の中で触れる機会は少ないでしょう。しかし、誰かの人生の一部に触れ、時にはプライベートな領域まで踏み込んで支援をする立場のわたし達にとっては、見過ごすことのできない問題でもあるのではないでしょうか?ひょっとすると、「機会があれば勉強してみたい」と思っている人は少なくないのかもしれません。

このリポートは、どこかの誰かの、そんな些細なきっかけになることを願って書いています。

はじめに

2022年2月4日、『リハ職のジェンダーとセクシュアリティを考える会』にて4回目のシェア会を行いました。
今回の参加者は橋本さん、ジュンさん、ゆりこさん、そして記事を担当しているわたし(なおこ)です。

今回の記事はこちら↓
マイクロアグレッションとは何か?様々な立場の人が「日々」積み重なるように体験している【解説】

マイクロアグレッションとは

皆さんは、マイクロアグレッションという言葉をご存じですか?

マイクロアグレッションとは「簡潔に言うとしたら、特定の個人に対して、その人が属する集団を理由に、おとしめるメッセージを発する日々のやりとりのことです。障害者、高齢者、女性、セクシュアルマイノリティ、人種・民族的少数者などが日常的に経験していること」です(記事より抜粋)。

“「小ささ」を意味する「マイクロ」がついていますが、被害者側が「毎日・日々」積み重なるように体験しているという意味でとらえて下さい。日常的に侮辱や侮蔑にさらされているものの、差別だとはっきりと認識・指摘しづらい部分があり、心理的な不安にさいなまれています”(記事より抜粋)

この記事は、『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション』を翻訳したメンバーへのインタビューが中心に書かれており、本書を読んでいない方でも、マイクロアグレッションとはどういったものなのか、イメージしやすい内容になっています。ぜひ、ご一読ください。

今回は、この記事をもとにそれぞれが日常生活で感じるマイクロアグレッションや、それに対してどのように対応していくべきか、について話し合いました。

シェア会の様子

1.記事を読んでみての感想は?

なおこ:わたしは原著を読んでいますが、本を読んでいて「自分が知らず知らずのうちに誰かにマイクロアグレッションをしているのかもしれない」と怖くなりました。いずれにしろ、無意識下でやっていることなので、自分ではなかなか気づきにくい。振り返ることが必要だなと思いました。

橋本:マイクロ“アサルト”(突撃、猛攻撃)って、怖い表現ですよね。暗殺者みたいな。マイクロアグレッションの中でも種類があるということが、なるほどとなりました。
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ずっと同じ環境にいたり、同じコミュニティ内にいると、そういうコミュニケーションが当たり前になってしまう。自分のコミュニケーションを振り返る機会が大切だと思います。
一言でコミュニティといっても、地方だったり障害者だったり女性蔑視だったり。そもそもマイクロアグレッションとして認識していないのかもしれません。いわゆる文化となっている。そうならないためにも、自分と違うコミュニティや文化と関わることが必要だなと思いました。

なおこ:その通りだと思います。とはいえ、自分が居るところとは違う環境やコミュニティに入るのって、すごくエネルギーが必要なことでもあるんですよね。

ゆりこ:私は記事を読んでハッとさせられました。記事の中に出てきた「差別って直接されたことがあるの?」という質問をする側の気持ちがわかるなって。
自分は根底に差別意識を持っていると感じました。差別意識に気付くための訓練をどうしたら良いのか、どうしたらそれが差別だと気づけるのか、知りたいと思いました。

ジュン:記事の内容はきちんと言語化されていて、「嫌だと思ったことを嫌だと思っていいんだ」、と感じました。“過敏”や“繊細”という言葉をかけられ、「自分がよくないのでは?」と悩んだ時期もあったので。差別というカテゴリーがあることに気づいて、自分が感じていることは正当だと気づくことができました。
たとえば、在日コリアンの問題など日本社会の気づきにくさは、自分のいるコミュニティでも感じています。海外にルーツのある方の生きづらさなどは知らないことが多いので、ちゃんと勉強していきたいと思いました。

なおこ:気付くことが大切ですよね。差別は悪いものだ、という気持ちが先行して、自分が差別をしていた事実を受け入れられないというのが、特権を持っている側の特徴なのかな、と思います。

橋本:指摘してもらうにしても、マイクロアグレッションの知識を持ってないと難しいですよね。組織としてだったり、同じような課題意識を持っている人だったり。関心のある人だけだと広がっていくのも難しい

なおこ:『日常生活に埋め込まれたマイクアグレッション』は海外の例が多いので、日本に置き換えるとイメージしづらいように思います。ひょっとしたら、日本だと差別がないと思われているのかもしれません。

2.自分の中にあるマジョリティ性とマイノリティ性
橋本:自分のマジョリティ性としては、セクシュアリティだと異性愛者。男性女性も同じくらいの割合ですしね。

なおこ:神戸大学の稲原美苗先生が、「マジョリティ・マイノリティというのは数の問題ではなくて、社会の規範になっている特性になっている人のこと」と話していました。日本でいうと、男性/日本人/異性愛者/大卒/既婚者/企業勤め/…というような。そうすると規範になっている人の数は、その他よりも少ないはずなのに、社会の仕組みはその人たちを規範に考えられている。スタンダードが固定されているので、マイノリティの生きづらさは不可視化されてしまう。

橋本:そういうので言うと右利きというのもそうですよね。

中西:日本で言うと日本語話者でっていうのもありますよね

橋本:あとは、人口の多いところに住んでいる、とか。

なおこ:リハビリテーションの業界だと理学療法士っていうのも当てはまるのかもしれません。厚労省の文章などは、セラピストは理学療法士“等”になりますね。わたしは理学療法士だけど、違和感を感じます。

橋本:世代間では、上の世代がマジョリティ性ですね。所得もそうだし土地とかもそうだし。

中西:あとは正社員とかかな。

なおこ:身近で感じた出来事などはありますか?

橋本:僕は息子が左利きなんですよね。世の中は右利きが多いので、生活していると改めていたるところで右利き中心の世の中だと感じます。

なおこ:理学療法士になって間もない頃、患者さんを怒らせたことがありました。脳梗塞や脊髄損傷などで感覚が障害され、痛覚を感じない方がいらっしゃいます。そういう方に、うっかり「痛いですか?」と聞いて怒られたことがあるんです。わたしは普段から確認するのが癖になっていて他意はないのですが、相手にとっては「痛みを感じない」という事実はセンシティブなことなんですよね。

橋本:僕の場合、地方に住んでいることでマイノリティ性がすごく高いと感じています。具体的には、同じように税金を払っているのに使える資源がとても少ない。医療もそうだし福祉もそう。文化とか風習とか、原因はあるのかもしれません。とにかく、生きる選択肢が少ない。

なおこ:わたしの実家は山梨なのですが、小さい頃からとにかく早くここを出たいと思っていました。思春期の頃に読む漫画やテレビは都会のキラキラした世界で溢れていて、可愛い制服を着ておしゃれなところに出かける情報ばかりが入ってくる。でも、わたしの現実には山と田んぼしかない。情報は都会の規範に合わせられているんですよね。

ゆりこ:わかります笑。わたしも小学校のころ和歌山に住んでいました。大好きなコロコロコミックの漫画がアニメになっても、テレビ東京が映らないのでぜんぜん見れませんでした。

なおこ:そう考えると、マイクロアグレッションが全くない状況で過ごすというのは難しいのかもしれません。

ジュントランスジェンダーとして受けるマイクロアグレッションはたくさんあります。臨床業務でもスタッフ間での会話でも。結婚の話題などは特に感じますね。
でもマイクロアグレッションがあると気づく人は少ないですし、それを発信する労力も計り知れません。当事者にそんな苦労を背負わせていいのか、という気持ちにもなります。
反対に、自分とは違うアイデンティティを持つ人、たとえば在日コリアンや海外にルーツを持つ人へのマイクアグレッションについて考えると、疲弊しているのも事実です。「マイクロアグレッションだ」、「嫌だ」と声を上げるのはかなり勇気がいることです。自分のマジョリティ性、加害性を常に学んでいく必要があると思います。

ゆりこ:自分の身体とか、自分の好きなように選べることが普通になったり、いろんな人がいることが普通になればいいのにと思います。

橋本:他の分野や技術の応用もできそうですよね。

3.マイクロアグレッションを無くしていくために、これからできそうなことは?
なおこ
:最近、臨床研究の資料を作っていたとき、基本情報シートの性別欄に「男性・女性・その他」と書きました。指導してくれた上司は「あれ?」となっていたけど、「まあ、そういう時代だしね」と流してくれました。小さい配慮だけど、少しずつ伝わっていけばいいのかな、と思っています。

ゆりこ:「そういう時代だもんね」で終わるのは良いですね。

なおこ:奥さんとかお嫁さんとか妻、旦那さん、ご主人も人によっては違和感を覚えるんですよね。でもなかなかそれに代わる言葉が見つからなくて…

橋本:高齢者の方には“パートナー”は通じないですもんね。相手に合わせたコミュニケーションをする、ということが大切ですね。とはいえ、そのラインが難しい。

ジュン:貧困だったり虐待だったり、正しい知識を知りたいと思います。読みやすい記事もたくさんあると思うので。ただ、こういうのは自分が精神的に余裕があるときに読んでいきたいです。

ゆりこ:メディアにもたくさん溢れていますしね。

まとめ

今回は、マイクロアグレッションについて、それぞれが普段感じていることや思うことについて話しました。

シェア会では、さまざまなマイクロアグレッションが話題に挙がりました。ジェンダーや男女、地方と都会、国籍など、普段なにげなく見過ごしているものたちの中には、まだまだ可視化されていない小さな差別が蔓延っていることが伺えます。そして、わたしたちが従事するリハビリテーションの業界にも、同じことが言えるでしょう。

しかし、その存在に気づく人や、それを問題視する風潮はまだまだ足りていないようにも感じます。マクロアグレッションは“マイクロ”という言葉がついているものの、積み重ねることで知らないうちに大切な人を傷つけていることもあり得ます。

自分や相手の尊厳を守るためにも、個人だけではなく、団体や組織として「正しい知識を知ること」が大切なのではないでしょうか。

これをきっかけに、自分の身の回りにあるマイクロアグレッションについて考えていただけたら、嬉しく思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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