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158_Jurassic5「Quality Control」

困った、何かこう新しいブログのアイデアというものが浮かんでこないかな。いつもは空いていない図書館の作業スペースが今日は偶然借りられて、今日はツイテいる。しかしパソコンを置いて机の上で突っ伏したままで、僕は考えこんだままだ。

とりあえずパソコンの前で唸って、何か下りてくるのを待っているようでは、たぶん、このまま一日終わってしまうな気がする。夕方にはバイトの終番が入っているから、5時半にはここを出ないと。それまでに、最初の一本の記事をなんとしても書き上げておきたい。

ゼミの近藤先輩のブログは、なかなかにバズっている。あくまで雑記ブログという体だが、人の興味を捉える文体で取り扱うテーマも音楽、漫画から小説まで幅広い。僕も読んでみたが、なかなか切り口が独特で確かに面白い。才能のある人はいいな。今ではグーグルアドセンスによる収入で月3万ほどの収入が入ってくるんだと。

先輩によると、ブログによる収益はいわゆるストック収入というもので、自分の記事が資産として蓄積されていく。自分が寝てても誰かがページを見ていれば、広告収入として自分にお金が落ちる。先輩曰く、個人で得られる新しい形の不労収入がこのブログなのだと、意識高いお言葉をいただいた。どこかしら、そういう綺麗にお化粧された言葉が僕らの世代には溢れている。

我ながら、影響されやすい人間だ。それなら、自分もと、早速見よう見まねでブログの立ち上げまでこぎつけた。今なら、youtubeなどで詳細なやり方を解説した動画で溢れていて、画面を見ながらそのままの手順を行うだけで、自分で取得したドメインのブログが出来上がった。

さて、ここからだった。あとは何本も何本も記事を書くだけ。そうだな。で、何を書くんだ?俺は。何か面白いことを書かなければ。面白い経験とか、面白い話題とか。ていうか、そもそも面白いってなんなんだろう。面白いことって、面白い人間だけが思いつくもんなんだっけ?それでいくと、自分がそれに当てはまるとは、とても思えないのだが。

小学校の自由研究でも、自分が何をやっていいかわからずに散々迷い倒した。日常で面白い題材を探そうだなんて言われても、当然そんなアンテナの高く好奇心に溢れた子供ではなかった。いっつもお前ぼーっとしているな、ってよく言われた。結局、母親が趣味で畑で栽培していた「ナズナの観察」という絶妙に地味な題材を用いて夏休み1ヶ月間を費やしたんだった。

毎朝、母親の軽自動車で町外れの家庭菜園まで行って、ナズナの大きさを図ってスケッチし、天気や気温など詳細に記録していった。自分で書いていて、なんてつまらない観察日記なんだろうと思っていた。(1日ごとのナズナのスケッチなぞ、前日の違いがほとんど見分けられないのに)

案の定、夏休み明けに自由研究結果としてクラスに提出しても、地味すぎて誰の目にも止まらなかった。クラスの面白人間の箱崎が発泡スチロールで作った巨大な迷路なんかが大人気だった。妥当な結果だ。

僕がナズナに興味があったとは言い難い。ただ、なぜかこんな「ハコ」のようなものを与えられると、突き詰めて自然と継続することができた。どんなつまらない題材であっても、それはそういうものなのだというオートマチックさが働くのだ。つまりクリエイティブさの欠片のない工場のライン作業というものが自分にあっているのかもしれない。そんな単純な工程で作成されたブログの記事というものが果たして面白いのか?

誰が何を面白がってくれるかなんて、自分がその逆の立場であればわかるだろう。これを自分で見て面白いなって思えるか?そんなものを自分が何本も何本も書けるのか?

ダメだ、考えれば考えるほど、何を書いていいかわからなくなってきた。一番最初の記事なんだから、完璧さを求めなくてもいいかもしれない。もっと気楽に書こう。そうだ、そんなに構えなくていいかもしれない。だって、好きなことを書けばいいんだろう?

近藤先輩は自分の好きなものだったら割とブログを書くことが続けられると言っていた。それなら、ずっと好きなものについて書いていけばいいんだ、簡単だ。好きなものかあ。自分の好きなものと言われると、実家で飼っている芝犬のパピーの顔が思い浮かぶ。

パピーの顔を思い浮かべると自然とリラックスした気持ちになる。ずっと実家の床で寝転がっているパピーのお腹を撫でていたい。隣県の実家に帰る目的もほとんど、パピーのためだ。パピーと過ごす時間は僕にとって至福の時間だから。パピーのことなら、いくらでもブログで書けるのだろうが、あいにくブログのネタを集めるために実家までパピーに会いに行くこともできない。母にパピーの写真を送ってくれと言っても、スマホの使い方に疎いのであまりいい結果にならないだろう。

それなら、趣味のブログということで部活でやってるアイスホッケーについて書こうか。見た目のかっこよさに釣られて入ったけれど、あいにくとアイスホッケーの練習場を確保するのがなかなか難しい種目で、当たり前の話だが、優先的に練習場を使えるのは先輩連中。大体1年生の練習時間はずっと筋トレに費やされる。結局、筋トレばかりやらされるのもだるいので、最近は部室で管を巻いていることも多い。

ペットもダメ、スポーツもダメ。そもそもここ最近、イベントや話題がない。結局、書くことがない。いや、待てよ、そもそも、普通の人がブログに書くことがあって当たり前なんかじゃないだろう。ブログに書けるようなことを、常に日常で体験したり、考えておかなきゃいけないってことだろう?ブログで書くために体験するのか?体験したことをブログに書くのか?なんか卵が先か、鶏が先かみたいになってきた。

いろんな考えが頭の中でせめぎ合って、相当に煮詰まってきた。時間を見ると、結局1時間考えっぱなしだ。記事は1文字も進んでいない。そもそもタイトルすらつけられていない。

そこで僕は稲妻に撃たれたかのように閃いた。そうだ、逆に考えるんだ。ブログに書くことがないんだったら、何をブログで書くかを考えるブログにしよう。逆転の発想だ。こーでもない、あーでもない、ってこの1時間でも相当考えたんだ、なんとなくそれで1本くらい記事になるかもしれない。僕は早速、夏休みのナズナの自由研究のくだりぐらいから、書き始めてみることにした。



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