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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第22話「日本太古の超金属 『ヒヒイロカネ』の剣」

「な、何だ? この光は…? スタングレネード(閃光手榴弾せんこうしゅりゅうだん)か?」

ライラの戸惑とまどいの声が聞こえた。
 だが、この光はそんなもんじゃない。俺にはなぜか本能的に分かった。

 俺は閉じていた目を開いて鳳 成治おおとり せいじから受け取った棒状のモノを確認した。

「これは… つるぎか?」
 俺の手に握られたソレは銀色のさやに納まった、つかも銀色をした剣だった。
 それは日本刀の様なりのある片刃の彎刀わんとうではなく、真っ直ぐな形状をした直刀ちょくとうの剣だった。全体で60㎝程の日本刀の脇差わきざし程度の長さだ。

「抜け! 千寿せんじゅ! その剣なら『オリハルコン』に負けん!」
 
 もう、右手にも『式神弾しきがみだん』を込めたベレッタ92Mを持ち直し、両手の二丁拳銃でオニ退治を再開したおおとりが声を張り上げて叫んだ。

「何をバカな事を言ってやがる! 『オレイカルコス』にかなう剣などこの世にあるものか! 
 ええい! さっきから目障めざわりな人間め! 貴様から先に死ねいっ!」
 
 ライラが美しい顔を怒りで真っ赤に染め、雄叫おたけびを上げて頭上に振りかぶった超音速むち鳳 成治おおとり せいじに向けて力いっぱい振り下ろした。

「いかん!」
 そう叫んだ次の瞬間には、俺は振り下ろされた超音速鞭よりも速く旧友のおおとりとライラとの間の位置に割って入っていた。

 気が付くと俺は常人の目に止まらぬ超音速のライラの鞭を、左手に握った銀色のさやに収まったままの剣で受け止めていた。

「ガッシィーンッ!」
 激しい火花を散らしながらも、俺の持った剣はらぐこと無く『オリハルコン』製の鞭を、しっかりと受け止めていた。
 ライラの鞭は、俺の握る剣の鞘に何重にもなって巻き付いていた。
 だが、いにしえの超金属『オリハルコン』製の糸でまれた鞭の打撃をじかに受け止めた鞘は、その身にヒビひとつ入る事無く美しく銀色に輝いたままだった。

「電撃を喰らいな! 白虎っ!」
「バリバリバリバリーッ!」
 ライラは鞘に巻き付いたままの自分の鞭に、500万ボルトの電撃を容赦ようしゃ無く流しやがった!

だが…

鞘を素手で握る俺が感電する事は無かった。

「どういう事だ…?」
俺とライラは、異口同音いくどうおんに同時につぶやいていた。

「ふふふ… やはりな。」
 俺の握る剣と、まだ剣に巻き付いたままのライラの鞭とを交互に見つめながら、おおとりがつぶやいた。

「だから、どう言う事なんだっ? 説明しろ!」
 俺は鳳 成治おおとり せいじに向かって叫んだ。ライラも叫びこそしなかったが同じ気持ちなのだろう。おおとりの顔を怖い目でにらみつけていた。
 だが二人とも答えは聞きたくても、互いのすきを油断なくうかがう事は忘れなかった。
 バリーもおおとりの説明に、いつの間にか攻撃を休めて耳を傾けていた。

「ライラとバリーの持つ『オリハルコン』と同様の伝説の超金属が、わが日本にも古来に存在した。
その金属の名は『ヒヒイロカネ』…
そのつるぎは、その『ヒヒイロカネ』で作られている。
 それは大陰陽師だいおんみょうじである安倍晴明あべのせいめいを始祖とした、我が『安倍あべの神社』の宮司ぐうじが代々、祭祀さいしに用いて来た剣だ。
 日本太古の伝説の超金属『ヒヒイロカネ』が、アトランティスより伝わる古代ギリシアの超金属である『オリハルコン』におとらぬ事が、これではっきりした。
 また『ヒヒイロカネ』はいかづちを通さぬ金属と伝承にあるが、それが本当だった事も今証明された訳だ。」

おおとりが満足そうな顔をして説明をした。

「ヒヒイロカネ…」
俺とライラは同時に小さくつぶやいた。

「馬鹿な事を言うな!『オレイカルコス』に匹敵ひってきする金属だと?
そんな物が、この世に存在してたまるものか!」
最初に沈黙を破ったのはライラだった。

彼女の気持ちも分からないではない。
 自分の祖国がいにしえの時代に誇った超金属と同等の硬度を持つ金属が、こんな辺鄙へんぴな極東の島国である日本に存在していたなどとは、自尊心の強いライラにはプライドが許さないのだろう。

「これをごらんよっ!」
そう言ったライラが常人の目には見えない速さで鞭を振るった。

「キンッ!」
 金属の激しくぶつかる音が一瞬だけ聞こえ、俺がその音のした方を見ると先ほどバリーが頭から突っ込んで派手に壊した機械の、材質は不明だが金属の塊としか思えない箇所が、切り口も鮮やかに切断されている。
 しかも、切断されていたのは一箇所だけではなく数か所に及んでいた。
 これは、音が一度しか聞こえなかったのに、実際にはライラが数回鞭を振るっていた事を意味した。
 もちろん、俺の目と耳には数回の鞭の往復運動がとらえられていたが、この場にいる者の中ではライラと俺以外の全員が一度の音と、目に見えない鞭が残すかすかな残像だけが目にうつったのみだっただろう。鳳 成治おおとり せいじとバリーもそうだったに違いない。

「どうだい? この鞭で切り裂けない物など、この世界に存在しないんだ!」
 そう言ったライラは、いつの間にか自分の手に握っていた『オリハルコン』の鞭で切り取られた機械の金属の塊を、俺の目に見える様に突き出した。

「白虎! その剣を抜けっ! あたしの『オレイカルコス』の鞭と勝負しろ!」

ライラのヤツ、完全に切れやがった…
 だが、正直言って俺も日本生まれの『ヒヒイロカネ』の剣の威力いりょくを見てみたくなった。

「よし、やってやる! ライラ、お前と俺の超金属対決と行こうぜ!」

 俺は左手で握った銀色のさやから、やはり銀色をした剣のつかを右手で握り一気に抜刀ばっとうした。
その時だった…
 俺が初めてこの剣をおおとりから受け取った時と同じ青白く輝くまばゆい光が、抜き出されたやいば全体からほとばしった。

「またか…」

 その場に居た全員の目がくらんだはずだ。
だが、不思議な事に俺は全く平気だった。
 なぜなら、その青白い輝きは俺のきばつめが発する馴染なじみ深い青白い光と、まったく同種の光だったからだ。

「またこの光か… 安倍あべの 神社での祭祀さいしで使う時には、こんな光なんて発した事は一度も無かった。
なぜ、千寿せんじゅが持つとこんな光を…」
 
 俺には、鳳 成治おおとり せいじの不思議そうに発するつぶやきが聞こえていた。

「何だよ! そのまぶしい光は⁉ 目くらましのつもりか?」
ライラが目をすがめて俺を見ながら怒鳴どなった。

やがて、俺の手の中で輝きはおさまった。
 右手に握られた剣のつかは俺のてのひらに、普段から持ち慣れたモノの様にピタリとおさまっている。
 まるで俺専用にあつらえられたかの様だった。
『しっくりくる』という表現がぴったりなのだ。

 俺は『ヒヒイロカネ』の剣を右手に握ったまま、静かに目を閉じた。

「何のつもりだ? あたしをめてるのか? 
 目なんかつむりやがってえっ! その閉じた目のまま、あんたの顔をズタズタに切り刻んでやるよ!」

「ビュンッ!」
 俺が目を瞑った事に怒り狂ったライラの超音速鞭が、いきなり襲いかかって来た。

「カキーンッ!」
 俺は目を閉じていても… いや、目を閉じているからこそ恐るべき速度で襲いかかるライラの鞭の動きと軌道を、視覚に頼らずに聴覚と臭覚に加えて肌で感じる風の流れから完全に読み切っていた。
 
「ビュンッ! ビュビュンッ! ビューンッ! ビュンビュンッ!」
「カキンッ! カキカキンッ! キンッ! カキンカキンッ!」
 
 ライラの鞭が文字通り風を切り裂きながら、俺に向かって何度も繰り出されて来る。
 俺はその全ての攻撃を、紙一重かみひとえかわしながら右手に持つ剣で受け止めた。
 一発でもまともに喰らったら、たとえ不死身の俺でも切り裂かれた身体が元通りに再生するまで数分は要するに違いなかった。

 林大人が言ったように、俺が体得した無明陽炎拳むみょうようえんけんの技と極意ごくいがあれば、至近距離で撃たれた銃弾でも躱す事が出来るだろう。俺は、そう確信出来た。

「くっそうっ! 何で当たらない⁉ 何で『オレイカルコス』の鞭を受け止められるんだ!
バリーッ!」

「ブッモオーッ!」

 俺の右斜め後方にいたバリーが雄叫びを上げながら、『オレイカルコス』のカバーを付けた二本の角を俺に向けて突進して来るのが、気配と空気の流れで読み取れた。
 俺にはライラとバリーの両方が、別々に自分に向けて発する殺気を完全に読み取り、それぞれを同時に把握はあくする事が出来た。

 それにもう一つ驚くべきは『ヒヒイロカネ』の剣だ。
 俺はライラの攻撃が止んだ一瞬に、剣のやいばを光にかざして見た。
 あれだけの『オリハルコン』の攻撃を刀身でじかに受け止めたのに、刃こぼれ一つしていなかった。

「こいつは本物だ。『オリハルコン』に匹敵するいにしえの超金属で作られた剣… 
 今の俺には、とんでもなく頼りになる武器だぜ。」


【 to be continued 】

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