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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第26話「『黒鉄の翼』有人発進!! 明かされる青方少年の正体とは⁉」
俺と鳳 成治は、この『wind festival』ビル1階の全フロアを俺の愛車『ロシナンテ』のためだけに使用している専用駐車場兼整備工場に入った。
そこには、俺の乗車を待ちかねている『ロシナンテ』の姿があった。
『ロシナンテ』はいつでも発車可能な様に、俺の優秀な秘書の風祭聖子が、『ロシナンテ』専用メカニックの若者である青方龍士郎に常日頃から整備させている。
「この車は先日、榊原家の庭でミノタウロスのバリーと戦闘を繰り広げた例の…」
鳳が『ロシナンテ』の周りを歩きながら、感嘆したようにつぶやいた。 (※1)
「ああ、そうだ…
こんなところでグズグズしている暇は無いぞ、早く乗れ。」
鳳が頷き、助手席のドアを開けて乗り込んだ。
俺も運転席に乗り込み、鳳が助手席に座りシートベルトをかけたのを確認して『ロシナンテ』のエンジンをスタートさせた。
エンジンの始動に連動して『ロシナンテ』の前方で、車庫の入り口を塞いでいたシャッターが自動で上がって行く…
「待ってろよ、ライラにバリー… これから、この俺が相棒と共に川田明日香を救い出しに行く。さっきの空での借りもたっぷりと返しにな。
行くぜ、鳳。冒険の旅にな…」
俺はカブキ町にある『wind festival』ビルの駐車場から、愛車『ロシナンテ』を発進させた。
「ようこそ、マスター。」
車内のオーディオスピーカーから、聞く者の誰もが心地よくなるような美しい女性の声が聞こえてきた。
「よう、ロシーナ。
今日は激しい戦闘も予想される追跡行になるが、よろしく頼むぜ。」
「了解しました、マスター。」
「な、何だ…? この女性の声は…?
千寿、誰と喋ってるんだ…お前?」
俺と『ロシーナ』との会話に鳳が驚き、とまどっていた。
「お前が驚くのは無理も無いが、この声は『ロシナンテ』に搭載しているメインコンピューターの頭脳である完全独立思考型AI(人工知能)、通称『ロシーナ』が合成して作り出した女性の声だ。」
『ロシーナ』が話す女性の声に、機械的な響きは一切無い。
完璧な発音の流暢な日本語でしゃべるから、聞く者には人間の女性が自然に話している様にしか聞こえなかった。
この女性の声というのは、完全に製作者の風祭聖子の趣味である。
俺としては、もっと勇ましくてカッコいい渋い男の声の方が良かったんだが…仕方がない。
「『ロシーナ』は俺の運転する『ロシナンテ』の走行及び戦闘システムを含む全ての機能を完全に制御しコントロールしてくれる、俺の忠実かつ頼もしい相棒さ。
この『ロシーナ』システムは、さっきお前も会った俺の秘書である風祭聖子君が作り出したものだ。彼女は天才科学者でもあるからな。」
俺は車を走らせながら、初めて『ロシーナ』に接する鳳に説明した。
「驚いたな… あの美しい女性が… まさに才色兼備とはこの事だな。」
鳳が感心しているようだが、こいつは聖子の才能の凄さの半分も分かっちゃいない。
もっとも、あの女性の素晴らしさは俺にも理解不能だが…
『ロシーナ』がカーナビの液晶画面に映し出した地図に、俺が川田明日香の服に放ったGPS発信追跡弾から受信したヘリの位置を赤いポイントとして表示した。
「東京湾に向かって… いや、すでにレインボーブリッジを超えて東京港あたりだな。
航続距離を考えるとヘリのまま逃げ続ける訳にもいくまいから、東京湾を超えたどこかで仲間の船に合流するつもりか…」
カーナビの画面を見ながら、鳳がつぶやく様に言った。
鳳 成治…
こいつは、日本で唯一と言える国家が創立した諜報組織『内閣情報調査室』の中で、国の内外での特殊な諜報活動を専門に担当する機関『特務零課』における事実上トップの存在なのだ。
だから、情報分析能力と読みの鋭さは俺でも一目置く人間と言えた。
「おそらく、お前の読みが正しいだろうな… とにかく船で逃げられたら、この『ロシナンテ』での追跡は難しくなる。
となると、船と合流する前にヘリを押さえるしか無いな…」
俺の吐いた言葉に引っ掛かったのか、鳳が目を剝いて俺を見ながら言う。
「お前、何を言ってるんだ…? この車で海へ逃走中の空飛ぶヘリを、どうやって抑えようって言うんだ?」
「ふふ… さっき言ったろ。『黒鉄の天馬』に乗せてやるってな。
『ロシーナ』、敵ヘリの様子はどうだ?」
俺は『ロシーナ』に呼びかけた。
「はい、マスター。
現在逃亡中の敵ヘリ『UH-60 ブラックホーク(UH-60 Black Hawk)』は、機体本来の最大速度である295 km/hはおろか巡航速度の278 km/hすら出せていません。150km/h以下の速度で飛行を続けています。
速度低下の考えられる原因として、機体に何らかの損傷を負っているものと思われます。」
『ロシーナ』が美しい声で明確に返答した。
「だろうな。俺が機体に取り付いて後部左側のドアを引き千切ったのは覚えてる。もっとも、そのおかげで俺はヘリから落とされたんだが…
きっと他にも機体に損傷を与えたと思う。
俺は『完全なる白虎』となった時は意識を消失するから、自分でもハッキリとは覚えちゃいないが…
だがな…鳳、おかげで希望が見えて来たぜ。
『黒鉄の翼』の最大速度は、理論値だが650km/h出せる。つまり、今のヤツ等の5倍に迫る速度で追跡出来るんだ。
『黒鉄の天馬』となって、積載上限まで載せた状態でも600km/hの速度は出せる。
SJB(スーパージェットブースター)を使えば、短時間だが700km/hは出せるはずだ
追いつけるぞ。いや、必ず追いついてやる!」
鳳 成治は、俺の説明をポカンと口を開いたまま聞いているだけだった。まあ、無理もない。
「何も言うなよ、鳳。説明している余裕は無いんだ。
このまま、お前自身が身をもって体験すれば一番理解出来る。」
鳳は開いていた口を閉じ、黙って頷いた。
「『ロシーナ』、聖子君に繋げ。『黒鉄の翼』始動だ!」
********
「了解… 分かったわ、『ロシーナ』。
青方君、黒鉄の翼の発進準備! 屋上ゲートを開いて!」
風祭聖子が最上階の10階にいる、メカニックの青方龍士郎に命じた。
「でも、風祭さん… 『黒鉄の翼』の初めてのフライトなのに、『黒鉄の天馬』をリモート操縦で実行するのは無茶です。
ぶっつけ本番で出来る様な技じゃないんだ…
無人飛行では危険すぎます!」
青方からの通信が、探偵事務所にいる聖子に返って来た。
「仕方が無いわ、青方君。緊急事態なのよ!
『スペードエース』と『ロシーナ』の連携を信じるしかないの!」
だが、青方龍士郎も最高の腕を持つメカニックとしての立場上、雇い主の聖子に対してでも自分の考えを譲るつもりは一切無いようだった。
「危険です! 下手をすると千寿所長と乗客の人を乗せたまま、『ロシナンテ』は空中で木っ端微塵になります。」
聖子が怒鳴り返す!
「青方君… 今、ここで議論をしている暇は無いの!
でも… とにかく、メカニックとしてのあなたの見解では『黒鉄の天馬』を実行するのは無謀だと言うのね。
分かった… 所長に言って、この作戦は諦めてもらうしか無いわね… 」
聖子の落胆した声が事務所に響いた。
「いえ… 風祭さん、一つだけ手はあります…
『黒鉄の翼』を有人で操縦するんです。
そうすれば、『スペードエース』を補助に使ってマシンの微調整を行なう事で、成功する可能性は格段に上がります。」
聖子は青方の提示した案に驚いた。
「そんな… まさか、あなたは…」
「そうです、そのまさかです。
僕が『黒鉄の翼』に乗り込んで手動で操縦します。この機体は僕がすべて知り尽くしているんだ。
風祭さん、これは僕にしか出来ないんです!」
聖子は色を失って叫んだ。
「ダメよ! 青方君! そんなの無謀よ!
高校生のあなたに、そんな事させられる訳が無いじゃないの!」
聖子の悲痛な叫びを聞いても、青方からの返事は落ち着いたものだった。驚いた事に、彼は笑ってさえいる様だった。
「僕だからこそ出来るんですよ、風祭さん。
僕は『ロシナンテ』と『黒鉄の翼』のメカニックだからというだけで言ってる訳じゃない。
これは『青龍』である僕にしか出来ないんだ。あなたも承知しているでしょう、僕の正体を…」
聖子は青方からの通信に、ゴクリと喉を鳴らした。
そうなのだ、青方龍士郎の素性と正体を私は知っている…
「それに… 万が一の事が生じても、僕には先祖より受け継ぎし二本の魔剣と一本の魔槍があります。
なあ、『斬妖丸』に『時雨丸』…そして、魔槍『妖滅丸』よ。
こいつらが僕と共にある限り、この時代における『青龍』である僕が、こんな事で死ぬなんて絶対にあり得ませんよ。」 (※2)
聖子は自分だけが知る、青方少年が言う彼の秘密を考えた。
確かにこの作戦は、彼にしか不可能なのは間違い無かった。成功するためには青方龍士郎の人間を超えた力が必要なのだ。
「分かった… どうやら、あなたに賭けるしか無さそうね。
でも、約束して… 必ずこの作戦を成功させると。
そして、あなたも必ず無事でここへ帰って来ると!」
聖子は、自分の頬を伝う涙を拭おうともせずに青方に告げた。
「ありがとうございます、風祭さん。
約束しますよ、必ず元気に帰って来ます。若い僕には、まだまだやりたい事がいっぱいあるんだ。
それに神獣『白虎』である千寿 理所長を救うのは、彼と同じ四神獣の一つであるこの僕…『青龍』の役目です。
僕たち二人には、神獣としての大切な役目があるんです。
それを果たすまでは、決して死ぬわけにはいかないんだ…」
聖子は頷きながら、青方少年に応えた。
「分かった、青方君。『黒鉄の翼』に乗りなさい。急いで、発進準備を!」
聖子の命令に、青方龍士郎の明るい返事が返って来た。
「了解っ!」
********
「マスター! たった今、『黒鉄の翼』が、『wind festival』ビルの屋上から離陸しました。」
『ロシーナ』の美しい声が『ロシナンテ』の車内に響き渡った。
「おい、千寿。離陸したって言うが、『黒鉄の翼』って飛行機か何かだろ…?
滑走路が無くて離陸出来るのか?」
『ロシーナ』の告げた話に驚いて、助手席に座る鳳 成治が俺に聞いてきた。
「心配するな、鳳。
『黒鉄の翼』の正体は、米軍の『V-22オスプレイ』と同じ垂直離着陸機能を持ったティルトローター機だ。
離陸に滑走路を必要とはしない。
うちのビルの屋上から発進できるんだ。」
俺の説明を聞いた鳳が、納得したように頷いた。
この鳳は内調(内閣情報調査室)に入る前には、自衛隊の防諜部隊である「自衛隊情報保全隊」に所属していたのだ。
元自衛隊員である鳳は、軍事兵器に関しても詳しくて当然なのだった。(※3)
「なるほど、その事に関しては理解した。だが、お前はどこに向かうつもりなんだ…?」
鳳の次なる質問にも、俺はニヤリと笑って返答する。
「ああ… 東京港の有明埠頭に行く。
そこに聖子君が所有する土地と倉庫群があるんだ。
そこで、『黒鉄の翼』と落ち合う。
そこから先は、見て体験してのお楽しみだ。
お代は俺とお前の仲だから、後払いで構わないぜ。
金額も負けといてやるから安心しろ。」
鳳は不思議そうな顔をして、不承不承といった態度で俺に頷き返した。
俺は可笑しくなって笑って言った。
「まあ、見てろ。これからお前に最大のショーを見せてやる!
飛ばすぞ、『ロシーナ』!!」
********
wind festival』ビルの、屋上の一画が真っ二つに割れた。
そして、それぞれの扉が左右の反対方向へと開いていく…
屋上ゲートが開いたのだ。
まだ朝日が昇る前の暗い屋上に、ぽっかりと開いた空間から何かがせり上がって来た。
それは、大きさが数mに及ぶ物体で…形状はおかしな事にトランプのスペードの様な♠の形をしていた。色も黒っぽい事から、見かけはまるで巨大なスペードのエースそのものである。
♠の尖った先端部分から少し中央に寄った部分にコクピット部があるのであろう、その操縦席を覆う透明なキャノピー(天蓋)が設けられていた。
コクピットに座っている一人の男こそ、先ほど風祭聖子と話していた青方龍士郎、その人であった。
彼が乗る、その♠の形状をした機体こそが『黒鉄の翼』である。
その機体は表面が艶の無いガンメタルに塗装されていた。機体表面をコーティングしているのは光を吸収する素材の塗料らしく、金属製のボディは光を反射する事は無かった。
見る間に機体の下部から直径4mはあろうかというサークル状のガードに囲われたローターブレードが、♠の形状をした機体の左右それぞれに展開する様にせり出して来た。
これこそが『黒鉄の翼』の翼であった。
続いて♠の尻尾に当たる部分も後方へとせり出し、さらに左右へとスライドして広がっていく。これが尾翼に相当するのだろう。
そして驚くべき事に、『黒鉄の翼』の艶消しのガンメタル塗装の機体表面が、見る見るうちに人間の視認し難い色へと変化していった。
完全に見えない訳ではない… だが、光の屈折を変化させたのだろうか…?
『黒鉄の翼』の機体は、見る者に向こう側の景色が透けて見える錯覚に陥らせてしまう状態へと変化した。
「『黒鉄の翼』、左右ティルトウイング及び尾翼の展開開始。
ステルス機能ON、機体表面の位相変換により光学迷彩モードに入ります。レーダージャミングシステムON。
左右両メインローター始動… サイレントモードを保ちつつローターの回転数を上げます。
左右メインローター回転全開、垂直離陸開始可能レベルに到達…
垂直離陸を開始します。
『黒鉄の翼』テイクオフ… さらに垂直上昇。
高度300mに達し次第、水平飛行に移行する。
高度オーケー…
予定高度に達した。ティルトウイング可動開始、水平飛行モードに可変する。
ティルトウイング、巡航形態に可変完了。
風祭さん、『黒鉄の翼』行きます!」
青方龍士郎からの報告を聞き、風祭聖子は命令を発した。
「行きなさい、『青龍』!
『白虎』の元へ!」
(※1: 第8話、第9話 参照)
(※2: 幻田恋人著「妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』」 参照)
(※3: 幻田恋人著「ニケ… 翼ある少女」:第11話 参照)
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