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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第23話「不死身同士の激闘中断! そして、崩壊の中の追跡開始…」

「ブモウーッ!」
 バリーが『オリハルコン』製のつのカバーをかぶせた二本の角で俺の右脇腹を突き刺そうと、またもやバカの一つ覚えの様に猛突進してきた。

 俺は、ライラの『オリハルコン』製の超音速鞭を、神速のフットワークでかわしたり『ヒヒイロカネ』のつるぎを使っていなしたりしながらも、バリーの動きはしっかりと察知さっちしていた。
 今の俺は、360度全周囲に対して死角は全く無いと言えるほどだった。
 ライラやバリーの動きももちろんの事、旧友の鳳 成治おおとり せいじの動きも全てが手に取るように分かったのだ。
 そして、それら個々の動きにそれぞれ対応出来る余裕まであった。
 頭で考えて対応するのではなく、身体が勝手に反応して動くのだ。
 しかも自分でも驚く事に…
 俺は、ずっと目を瞑ってこれらの判断や動きが可能なのだった…

 俺は『ヒヒイロカネ』の剣を左手に持ち替えてライラの鞭をあしらいつつ、バリーの突進をかわす事はせずに右手でヤツの左つのつかみ、右角は大きく開いた口の牙で噛みしめてガッシと受け止めた。

「ズザザザザーッ!」
 バリーが渾身こんしんの力で押してくるのだ。ヤツよりも軽量の俺は床をどんなにん張っても押されていく。俺はえてバリーの力にさからう事無く逆に利用する事にした。
 床に背中から受け身を取りながら倒れ込んだ俺は、右足をバリーの腹に当てて倒れ込む反動を利用しながら一気にり上げたのだ。
柔道の『ともえ投げ』の要領である。
 自分の突進力に加え、俺の強靭きょうじんな蹴りによる凄まじい力で投げ飛ばされ、バリーは進行方向に向かって飛んで行った。
 広い地下フロアだが、バリーの飛んで行った先にはコンクリート製の壁があった。
 バリーの250㎏はあろうかという体重の巨体が、すさまじい勢いで激突した壁の方はたまったものでは無かった。上下は4mを超す天井から床に達し、横も7~8mほどに渡ってコンクリート壁が瓦解がかいした。
 バリーは自分の激突でくずれ落ちた何十トンもの膨大ぼうだいな量のコンクリートと鉄筋の瓦礫がれきの下敷きになり、外にのぞいているのはヤツの両膝から下だけだった。
 今のバリーの激突で、この地下2階フロア中に爆発の様な轟音ごうおんが響き渡り、まるで地震の様なれが起こった。
 このビル全体が崩壊ほうかいするんじゃないかと、俺は少し心配になった。

「バリーッ!」
地下2階フロア中にライラの絶叫が響き渡った。
 だが、コンクリートの瓦礫の隙間すきまから覗いているバリーの両膝から下の脚は、ピクリとも動かなかった。

 しかし、俺と同様にライラもバリーがこの程度で死んだなどとは思っちゃいまい。不死身のウシ野郎のバリーの奴が、この程度の激突やコンクリートの瓦礫の下敷き程度で死ぬはずが無いのだ。
 ただ、少しくらいの脳震盪のうしんとう程度は起こしてくれたかも知れない。それと瓦礫の下敷きから抜け出すのに、ほんの少しばかり骨が折れてくれるかもしれない…
 俺の期待はその程度の可愛らしいものだった。ライラの心配も、どの道その程度に違いない。
 それが証拠に、ライラの攻撃が再開した。バリーの激突の前よりも、さらに激しさを増して…

「このクソ野郎っ! よくもバリーに、こんな事をやりやがって!」
 
 怒鳴りながらライラは、まるで扇風機の羽根の様に超音速鞭を俺に向かって振り回してくる。だが、それは決して闇雲やみくもにでは無かった。
 ライラの鞭は正確に俺の急所となる部分をねらってくる。
 ライラは見かけはじつに魅力的で美しい女なのだが、それだけに怒りの形相が般若はんにゃの様な迫力のある恐ろしさを俺に与えてきた。
じつに美しくも厄介やっかいな相手と言えた。

 さらに、こんな時でも美しく良く透るつやっぽい声でライラが俺に向かって言う。

「だけど、バリーはこんな程度じゃ死なないよ。
あんただって分かってるだろ?
 もう、こんなビルはらない… あんたとの戦いも今日はここまでにしておくよ。
 あたしの仕事は川田 明日香かわた あすかを連れ戻す事。そして、明日香を追ってくる連中を皆殺しにするか、明日香を連れ去るまで足止めすればいいんだ
 相手があんただったから、これほど手こずっちまったけどさ。
 あたし達の仕事は十分に果たしたんだ。そろそろ引き上げるとするよ。」

バリーッ! いつまで寝てるんだいっ!
とっとと、ずらかるよ! 早く起きな!」

 そう言ったライラは、瓦礫からはみ出ていたバリーの脚に向けて『オリハルコン』の鞭を手加減無しに超音速で叩きつけた。

「ブ、ブモウーッ!」
「ガラガラガラーッ!」

 俺の巴投げで壁に激突し、数十トンもの瓦礫の下敷きになって気絶していたバリーが、相棒のライラの情け容赦ようしゃ無い鞭の一撃で目を覚ましたのだろう。
 さすがのバリーも痛みにわめき声を上げて、身体をうずめていた瓦礫がれきを振り払って一気に立ち上がった。

 すっくと立ち上がったバリーの、まるで中世ヨーロッパの絵画かいがに描かれる様な筋骨逞きんこつたくましい灰色の身体は、コンクリートの破片や粉塵ふんじんまみれなのを除けば、どこにも怪我けがを負ってる様には見えなかった。

「フッ… まったく、あきれるほどタフな野郎だぜ… お前は。」
 
 俺は不死身の自分の事は忘れたかのように、バリーのタフさに苦笑しながら言った。
 だが、今ライラの言った事が気にかかった…

「ライラ… お前達二人が、川田 明日香を逃がすための足止めをしていたって言うのか?
それじゃあ、明日香は…?」

俺の問いかけにライラが答えた。

「ああ、今頃はこのビルの屋上に駐機しているヘリに乗せられて、飛び立つ準備をしてるだろうよ。あたし達が二人が合流すれば、このビルを脱出する手筈てはずになっているのさ。
 だからさ… お前とのお遊びは、ここまでってわけ。
 また今度遊んであげるから、楽しみに待ってな。
 ああ、そうだ。あたし達の脱出と同時にこのビルは木っ端微塵こっぱみじんに爆破されるから、死にたく無きゃ逃げたほうがいいよ。
 もっとも…あんたが死ぬ事なんて無いだろうが、そっちの二丁拳銃のお兄さんがね。
あっはははは!
じゃあね、風俗探偵さん。
行くよ、バリー!」

 そう言うやいなや、ライラが自分とバリーの立つ位置と俺との中間の位置の天井を、『オリハルコン』の鞭で超音速の激しい打撃を数回加えた。
 いくら鉄筋コンクリート製の天井でも、この打撃に持ちこたえられる訳が無かった。
 鉄骨以外の天井部分が、爆発の様な打撃によって破壊されくずれ始めた。

「グワンッ! ミシミシッ! ガラガラガラーッ!」
 天井から破壊された照明器具の破片や、崩壊したコンクリートの瓦礫がれきが降りそそいできた。

「危ない! おおとり、逃げろ!」
 ライラが言った様に、不死身の俺なら生き埋めになったところで平気だ。服が破れてほこりまみれになる程度で済む。
 だが、俺と違って生身なまみの人間である鳳 成治おおとり せいじは、下敷きになれば確実に死をまぬがれ得ない。

「またね、ダーリン!
次は、あたしのテクでたっぷりとイカせてあげるわ!
ほほほほほほっ!」
 ライラの嘲笑ちょうしょうが立ち込める粉塵ふんじんの中で響き渡った。

「くそっ! 何とでも言え! おおとり、大丈夫か?」
 俺は崩壊したコンクリートの粉塵が充満した、視界のかないフロア中に聞こえる様な大声で叫んだ

千寿せんじゅっ! 俺は大丈夫だ!
お前は、奴らを追え! 川田 明日香を取り戻すんだ!」
 姿は濛々もうもうと立ち込める粉塵ふんじんで見えないが、鳳 成治おおとり せいじの無事な声を聞いて俺は安心した。

おおとり! 奴らはこのビルを爆破する気だ!
 連中の追跡は俺に任せて、お前は早くビルの外へ逃げろ!」
 
 俺はおおとりにそう叫んだあと、ライラとバリーの跡を追った。おおとりの事なら、心配はるまい。アイツは陸自りくじの特殊部隊と、我が国の諜報ちょうほう機関を渡り歩いてきた男だ…

 俺はライラとバリーの後を追った。姿はとっくに見えなかったが、俺には犬以上にく臭覚と聴覚がある。
追跡に困る事は無かった。

 俺の入って来た非常階段とは反対方向の壁にエレベーターが二機あった。 向かって左側の一機は明らかに人の乗る通常のエレベーターだが、右側のもう一基は主に資材等の搬送作業用に使用しているエレベーターの様だ。
 左側の通常のエレベーターは、ライラとバリーの二人が乗って上昇中だった。階数表示灯の点灯が上へと向かっている。
 俺は躊躇ためらわずに、右側のエレベーターに飛び乗った。
 屋上階を示す『R』のボタンを押す。扉が閉まり、エレベーターが上昇を始める。
 ヤツらに追いつけるか…?
 俺がイライラしながら階数表示灯を見上げていると…

「ガタンッ!」

 嫌な衝撃音と共にエレベーターのケージが上昇を止めた…
 
「むっ? 止まった…」

 だが、停電では無かった。ケージ内の照明もいているし、階数表示灯は6階を示したままで止まっている。

「屋上まで、あと5階… これは故障か、それともヤツらのわなか…?」


【 to be continued …】

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