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幽閉returns ③俺が家族を護る…
どうしたっ?
居間にいた俺はくみの悲鳴を聞き
急いで店まで出て来た
どうしたんだ、くみ?
俺は、くみの立つ場所へ駆け寄った
くみは店内掃除用の箒を握りしめ
震えている
娘の指さす部分を見た俺は
小さな赤いカニを見つけた
くみのズボンを這っているカニを取ってやった
まだ指を指す場所を見た俺は
十数匹いたカニが床を這っているのを見た
くみから取り上げた箒で俺はカニを掃き集めて
塵取りに入れ店の外へ捨てに行った
殺す事はあるまい
そう思った俺は道路の向こうまで行き
排水溝にカニ達を捨てた
店に戻った俺は
椅子に座り込んでいる娘を見た
何だあんなカニぐらい…
俺は笑って言ってやった
くみはまだ怖いのか
床を見回していた
俺も一緒に探してやったが
もう店内には一匹もいなかった
やっと安心したくみは
俺に訴える様に話し出した
最近おかしな客が出入りをしていること
その客が自分をじっと見ていること
その視線が気味が悪くて仕方が無いこと
その客が今日店を出た後も
車を停めて自分を見ていた
くみがそっちを見ると
慌てて車に飛び乗り走り去ったこと
その直後に店内に
カニが現れたこと等を
懸命に俺に訴えた
俺は黙って聞いてやった
考え過ぎだろう
俺は肩を叩いてそう言ってやった
くみは美しいから
店に来る客の男どもは
くみ目当てが多いのは知っていた
その中の気弱な男の一人だろう
恥ずかしくて声もかけられないが
やはりくみが気になって
店に何度もやってくる
そして見つめるしか出来ない気弱な男
よくある話じゃないか…
俺はくみの肩を叩いて
店の電気を消して
一緒に家に入った
俺達の家は店の奥に続いている
家に入るとくみも安心したようだ
風呂に入ると言い出した
俺は居間に戻りソファーに座った
女房は台所で晩飯の支度だ
何があったのかと聞くので
俺は女房に話して聞かせた
俺達家族は、くみの監禁事件以来
何でも隠さず話す事にしていた
もう終わった事だったが
家族の秘密がまた悲劇を生む事になる
それを無くすように努力している
女房も俺の説明で安心したようだ
晩飯の支度に台所へ戻った
俺は夕刊を広げた
だが文字は頭に入ってこない
あの監禁事件…
俺達には悪夢としか言いようがなかった
俺は左腕に重傷を負い
くみは心に重い傷を負った
心の治療を受けている様だったが
あれだけのひどい体験をしたんだ
心に抱えたトラウマは
容易くは治らないだろう
だが、もう終わったんだ…
俺はあの後、刑事を辞め
喫茶店を始めた
女房も入院先から家に戻り
三人の暮らしが始まった
もう半年になる
くみも俺もあの事件の話は
お互いに触れないようにしている
やはり二人にとって命がけの
脱出劇だったのだ
あの事件は俺達の禁忌になっていた
もう忘れよう
俺は毎日そう思っている
もちろん、くみもそうだろう
だが、今日のくみの怯えよう
あれはただ事じゃなかった
くみは俺が命がけで救い出した
大切な一人娘だ
もう誰にも傷付けさせない
そんなヤツが現れたら
俺は何をするか自分でも分からない
もう警察は辞めたんだ
俺が家族を護らなければ
命を懸けても…
俺は固く心に誓って
くみの入っている浴室の方を見つめた
ん…?
何だあれは…?
赤くて小さなモノが動いていた
それは浴室に通じる扉の表面だった
俺は立ち上がり近寄って見た
何かが扉を這っていた
それは…
赤い小さなカニだった…
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