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【特別連載】noteと共に振り返るマイスター合格への道2021 -Ⅱ-

ヘッダーのカウントダウン/航(書道アーティスト)
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 おはようございます。副音声note2日目です。この連載は下描き無しでバーッと直接noteの記事編集ページに書き進めているのですが、思っていた以上に文章を盛り上げる機能が満載で驚いている所です。普段と違う事をするとやはり発見がありますね。


 第2回目の今日は昨日の連番にあたります4月4日公開の「パン職人への第一歩」を振り返ります。逃げも隠れもしないドストレートなタイトルで清々しいですね。ちなみに各話のタイトルですが、いつも本文を書き終えてから決めています。看板になるので割と頭を捻っていますが、この時は完全にサボっています

 いかにも挑戦が始まると言った安直なタイトルですが、まさしくマイスター学校が始まった時の話です。確か3月30日の火曜日に始まったのですが物凄くキリの悪いタイミングです。しかもその週の金曜日から翌週の月曜日までイースターの祝祭日があったので、この週は木曜日までの3日間でした。物凄くキリの悪いタイミングです。

 と言う風に授業初日を迎えた当時の私も同じように考えていたのですが、いざ実際にたった3日間の授業を終えてみると「この4連休があってくれて助かった」と思っていました。ただでさえ新しい環境に慣れるストレスがあった上に、喋る筆記体ことバイエルン方言も相まって心労が事前に覚悟していた分を大きく上回る通常の3倍だったからです(バイエルン弁を喋る筆記体と表現した当時の自分に拍手)。

そして先生が読むのを聞きつつ、手元の文字を目で追っていくのだが、どうもバイエルン弁と言うのは筆記体の様である。

「*15 馬に乗るまでは牛に乗る」より

 しかしそんな中で同居人のトーマスがいてくれたことは今思っても救いだったなと感じます。本文にもそれが表れています。

 下宿先に新しい同居人が入った。名をトーマスと言った。月曜日の事である。

 帰り道、家までの五分程度の道程をトーマスと歩く。一日中バイエルン弁を浴び続ける私の耳と脳はそれだけで過活性化されている筈であるが、疾風の如き飛び交う方言に我が標準語を差し込む事はおいそれとはゆかず、会話における不完全燃焼をこの帰り道に幾らか片付けられるだけでも救いであった。

「*14 パン職人への第一歩」より

 それだけでなくオンライン授業も含め学校に通っていた約半年の間、様々な場面で助けてもらっていた事を思い出します。そんな彼も無事にマイスター試験を合格したと聞いたのでその内にまたお祝いでも出来ればと思います。ちなみにほとんどの登場人物が仮名で登場する中、彼だけ本名でした。


 そうして迎えた最初の日は、ここ最近で最も機嫌の良い空が広がった。学校までの五分程度の道程を、トーマスと共に歩く。桜が咲いているわけでもなく入学式があるわけでもないその道は、私の心をどきどきした童心に還す事も無かったが、それでも門出を賑わす特別な空気が漂っており、ひょっとするとはたから見た私の足や心は弾んでいたのかもしれない。

 思い返すとこの初日は当然緊張もしていたんですが、「いよいよ始まった!」という興奮の方が強くて「よしやってやる!」という気持ちで前傾姿勢になっていました。クラスで唯一の外国人だったので「だからこそ良い成績をとって他のクラスメイトをびっくりさせたい!」という持ち前の逆境フェチが疼いていたんですね。
 ところが翌日に本格的に授業が始まると翌々日までのたった2日で、スタートダッシュを決めたかった私は早速膝をつくことになりました。

 これまで私が過去に何度も繰り返し、出来るものと思い込んでいた作業は、それらしく真似る事が出来ると言うだけで、まるで技術が不十分であるという現実をまざまざと思い知らされたのである。詰めが甘いという己の弱点を面前に突き付けられたのである。もっと言葉を選ばずに言えば、私は容易に見えたその基本を甘く見縊みくびっていたのである。

 自主性を持ち、先生の説明が終わるやいなや忽ち作業に取り掛かり、己の目的に向かい一心不乱で作業を進める生徒を目の当たりにし、様子を観察する内に少々出遅れた私は不図ふと我に返り、彼らの積極性を自らにも取り込まねばならぬ事を悟り、これまた直ちに心を入れ替え己の作業に集中した。

 クラスメイトの自主性、積極性、それから落ち着き。もうすでに1回マイスター学校を経験しているんですか?というくらいの立ち居振る舞いを目の前にして、物凄く焦りを感じて、急に弱気になってしまったんですよね。上で引用した部分では何となく冷静沈着に周囲を観察して相手の出方をうかがっている風ですけど完全に強がってます

 思い返して「懐かしいな。初々しいな。」と穏やかに思い出に浸れると思いきや全然そうじゃないんです。昨日投稿した記事で「ニート期間を思い返すと怖い」みたいに書きましたが、マイスター学校に通っていた、特にこの初期の頃も思い返すと震えます心か脳がギューっと縮みます。本当にヤバかったよな、心折れそうだったよな、と当時の自分と酒を飲む機会があれば朝まで背中をさすってやる必要があるレベルです。


 なので直後に4連休があって本当に助かったんですね。「外国人が誰よりも良い成績を取ったらびっくりさせられる」とかっていう初日のモチベーションがそもそも不純で激甘で脆弱ぜいじゃくで、背伸びを禁止してもっとひたむきに純粋に臨まないといけないと、気持ちを入れ替えて、体勢を整えて、ギアを1つ上げるという事が出来た4連休でした。めちゃくちゃ鮮明に思い出せました。

 ところがそんな私の元に、大家がオスタークランツと卵や兎を模ったチョコレートを皿に乗せて「良いイースターを」などと言って持って来てくれたのである。

 そんな4連休の初日の夜でした、たしか。心の弱っている時でしたから、まさしく神の救いの手の如く、またイエス・キリストのみならず当時の私の復活さえも意味しているかのような優しい出来事でした。

 最後にそんな当時の私が振り絞った渾身のジョークをご覧下さい。

 新しい環境に身を投げ入れ、授業の様子や私の実力などを一通り目の前に並べた所で、イースターの祝日になった。来週の月曜日まで休みである。その時間を使って私は学校から持って帰って来た練習用の生地で、基本の編みパンの練習に励む事にした。それ以外にも来週の授業の準備や予習等、挙げ出したらきりが無いのだが、とにかくイエスキリストを崇拝していない私は彼の復活を祝っている場合では無いのである。

さて、イエスキリストの復活を祝っている場合ではない筈の男は、有難く笑顔でそれを受け取るなり、神の恵みを授かるが如く幸福感を味わった。全く都合の良い男である。


【クリスマスの物語、小説作品特別公開まであと9日】

#振り返りnote #副音声note  

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