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システム設計での技術部門組織体制|トヨタ流開発ノウハウ 第14回


メカ設計が主役の古い組織体制

現在、この世の中に創出されている製品の多くはシステム製品です。元々メカだけで駆動していた部分を電動化することにより、多くの機能の実現を可能とします。

さらに、単なる電動化だけではなく制御により更なる市場や顧客要求に答えようと、日々進化しているのがシステム製品です。
では、このシステム製品はどのような組織体制で設計が進んでいるのでしょうか。

多くの企業は、元々メカ屋発祥のため、システム製品と言いながら、メカの大部分が決定した後に、メカで実現できない部分を電動化し、その電動化されたユニットをソフトウェアで制御するといった設計の進め方です。

このように3つの設計部門がバトンタッチにより、開発を進めています。
メカ設計が決まらないとエレキに関連する部分が明確にならず、さらにエレキ設計が決まらないとソフトの制御するべき内容が決まらないといった構図です。

その結果、開発の主役はメカ設計であり、メカ設計者が全体をマネジメントするといってもいいでしょう。もちろん、この組織体制が間違っているわけではありませんが、メカ設計が完了してから設計をスタートしているとエレキ設計やソフト設計で実現したいことができない可能性があります。
メカ設計で不具合が生じると、その不具合の影響をエレキ設計やソフト設計も受けてしまい、再度設計をやり直さなければならなくなります。
また、開発終盤になってきた時点で性能がでない場合や目標品質に届かない場合、メカを修正するのは時間とコストがかかるため、なんとかソフトウェアで対応できないかどうか検討します。結果、ソフト設計が実現したことを見直さなければならなくなるといった状況が発生しがちです。

このように技術部門内でヒエアルキーができあがってしまっており、システム製品とは言っているものの、過去からのメカ製品から脱却できていません。
設計者の人数割合もメカ設計がダントツに多く、エレキやソフトは少人数であることが多いのです。
このような組織体制では、付加価値の高いシステム製品を生み出すことができず、今までのメカ中心の製品+αのような改良製品の設計が中心になってしまうでしょう。
その結果、環境変化の速い昨今のグローバル環境についていくことができません。 

ソフトウェア・ファースト

では、具体的にどのように組織体制を見直す必要があるのでしょうか。
2020年3月にトヨタ自動車が宣言した内容として、「ソフトウェアファースト」があります。
宣言の中に「ハードウェアとソフトウェアを分離してソフトウェアを先行して開発すること」とあります。開発の主導権をソフト設計が担いなさいという意味だと考えます。ソフトウェアにより実現するべき機能を最初に検討し、そのソフトウェアの動作を可能とするハードウェアを選定、設計していくという流れに変わっていくでしょう。

重要なのは、以前のようにメカ設計後、エレキ設計、ソフト設計のようにバトンタッチにて設計を進めていくのではなく、ソフト設計が先頭には立つものの、構想設計内容をエレキ設計、メカ設計にインプットし、コンカレントに設計を進めていくことです。

このプロセスを進めていくためには、ソフト設計がエレキ設計やメカ設計のこともある程度理解していなければ進めることができないでしょう。設計全体をマネジメントしていくため、単なるソフト設計屋ではいけないのです。

このようにソフトウェアファーストにて設計を進めていくために、ソフト設計屋からシステム設計屋に変わるべきだと私は考えています。

システム設計者とは、各設計内容(メカ、エレキ、ソフト)の全てを理解し、設計を進めていく設計者のことだと定義しています。とは言え、全ての設計ができる設計者はこの世の中でも限られていますし、すぐにそのような人材が育つわけではありません。よって、主軸の設計業務はソフト設計だが、開発の全体をコントロール、マネジメントするように変革していくべきであると考えています。

このように変革が求められている今、設計組織を見直すと同時に開発プロセスも見直さなければなりません。
先ほど解説したようなバトンタッチではなく、コンカレントに設計を進めていくためのプロセスです。そのプロセスの中で最も重要なのがハードウェアとソフトウェアの役割分担でしょう。この検討が開発プロセスの最初に実現できていなければなりません。 

システム設計者はハードウェアとソフトウェアの切り分けを検討するの中で、機能の実現方法として最良となる方を選択します。その最良の考え方は、いくつかありますが、まずは性能&品質についてでしょう。
性能&品質を最も実現しやすい方法やお客様にとって付加価値が最も高くなる方を選択しなければなりません。また、競合他社との差別化の実現も考慮にいれなければならないでしょう。その次にコストの検討でしょう。(優先順位をつけるものではないかもしれませんが…)。

このようにソフトウェアファーストにより、今までとは大きく開発プロセスの在り方が変わります。
また、変わると共に設計者に求められる役割も変わるでしょう。

これからの時代に合った設計組織に変革すると共に開発プロセスを改革し、付加価値の高い製品を創造していきましょう。


講師プロフィール

中山 聡史 |株式会社A&Mコンサルト 取締役専務 経営コンサルタント
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。2015年、同社取締役に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2023年9月現在の情報です

近著





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