星映る川沿いの短編集

「ここの地名、川に星がきれいに映っていたから星川っていうんだよ。比喩でもなんでもなくって。犯人がたくさん泳いでいるわけじゃもちろんないし、川が干されたわけでもない。現にこの川はきらめいている」


2019.5.21

7限が終わって21時。帰るのがなんだか惜しくって。駅の近くの川沿いをふたりでぼんやり歩いていた。川の流れていく先を見ながら、すこし勇気を出して、「死ぬなら入水かな」って告白をした。彼は「それは文学的だから?」と尋ねた。

「まあそれもある、でも、1番は誰にも死んだと思われないで消えたい。死体を見つけられたくないからかな。錘付けて海に行くよ」

「それだとすぐ沈んじゃって見つかるよ。遠洋漁船に忍び込まないと……。」

「いいね。少しマグロと一緒に泳ぐよ」

「さみしい」

陳腐だけれど自分なりの美学はもっていたい。雨上がりの晩春の夜、これぐらいはゆるされる。



2019.7.31

今日も7限、21時。帰るのがやっぱり名残惜しくって、夜の川沿いを散歩していた。小道を分け入ると、小さな飲み屋が連なる知らない小さな街があったり、よく通る道に箱庭のようなかわいらしい飲み屋を見つけたりした。「今度行こうね!」と彼に言うと、「行きたいところがどんどん増えてゆくね」と気弱に笑う。

二時間ぐらい歩いて結局収まるのはいつもの川沿いのはずれ。そこで他愛のない話を延々としていたら、2匹の猫が寄り添い目の前を歩いていった。猫もデートをしているね、と彼と顔を見合わせる。なんだか親近感がわいてきた。

黒猫とアメリカンショートヘア。彼の方を向くと、彼の服は真っ黒だった。私の服はモノクロームのしましま。見た目も同じ。猫たちと私たち。デートに干渉しないよう、こそこそ見ていたら、彼らもちらちらこちらを見ている。

或るものに人格を投影するのは、理解できないものを認めない、あるいは人間の極めて利己的な行為だと思うので好きではない。けれど、彼らも私たちを同類だと認識したと思わずにはいられない。おんなじ模様のやつが二人デートしとるなと。2人と2匹で様子を窺い合いながら、猫たちはくっついたままゆっくりどこかへ消えた。

その後しばらくして猫が同じ道を引き返してきた。
すると、いきなり「4ショットを撮りたい!」と黒い彼はスマホを構えた。アメショは黒い彼に自ら近づき誘惑し、それに驚いた黒猫はひゅっと足早に通りすぎた。が、その先に縞の私が偶然にもいてしまった。物陰から黒い猫が出てきた瞬間、バチリとまんまるい目が合う。お互いにびくりとし、無言の内に「ぎゃん」と叫んだ、叫んでいるのが聞こえた。2匹は跳ぶように逃げた。

2人は猫達が跳んでいった方を覗きこんだ。そこには、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。

猫たちの行方ゆくえは、誰も知らない。

なんてね。きっとまた会える気がするよ。良い夜を。


p.s.どちらも月の彼と

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