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「数十万円のエルメスのバッグ(800円)」 2018/11/05

新品のエルメスのバッグ(800円)

使いふるされた長靴(800円)

どうしてもこのどちらかを買わなければならないとしたら、きっとだれもが前者を選ぶんじゃなかろうか。

だがしかし、あなどるなかれ。ここは泣く子も黙る過疎地域、南房総市。世の中様の価値観など通用しない!ここに住む人たちの多くは、使いふるされた長靴、を選ぶ。

私は今日、新品箱つきのエルメスのバッグを800円で購入してしまった。ブランドものにはそこまで興味がない私は800円でも買うのを迷ったが、ちょうど欲しいデザインだったので購入した。帰ってふと調べて、同じものが中古で23万円で取り引きされているのを知ることになる。

私は今、千葉南房総の実家に帰省している。その地元の喫茶店が離れで中古品販売を始めたので、お昼を食べに行くついでにのぞいでみた。
そこには狭い部屋に服やアクセサリーの服飾品から雑貨、調理器具に至るまで、様々なものがぎゅうぎゅうに置かれている。
だれがこんなもの欲しがるんだろうと思う薄気味悪い置物や、昭和に発売された当時は最新機器だったであろう化石のようなミキサー、ひいおばあちゃんの遺品の化粧箱から引っ張ってきたと言わんばかりの重厚なアクセサリー......などなどがごったになっている。私はこういうお店が大好きなので、足の踏み場もない店内をワクワクしながら物色した。

しかも私が商品を手に取ると、レジに座る手足の不自由なおばあさんが「おやお客さん、若いのにお目が高いっ」などと誉めてくれるのでさながらどうぶつの森のつねきちの店に迷いこんだみたいだ。るんるんである。

喫茶店の店の方にもリユースゾーンがあり、そこにはハイブランド商品が置かれていた。
そこにはだれもが知る有名ブランドの商品がこれまたところせましと並んでいる。まったくこんな魚とイノシシしかいない田舎でどこから持ってきたのだか。
私はその立派すぎる品々を掻き分けながら口をあんぐりとしてしまった。信じられないのは、その値段だった。

レディースジャケット(クリスチャンディオール):800円
レザージャケット(バーバリー):650円
クラッチバッグ(エルメス):800円

これは商品のごく一部。しかもどれも新品同然だ。この値段の異様さがお分かりになるだろうか。
どの商品も新品で買ったら数十万円はくだらない。

そうなるとそれが偽物なのではないかという疑念が出てくる。今回学んだことなのだが、エルメスは、本物には隠れたところに刻印が施されいて、その記号によって製造年や製造場所がわかるようになっているそうだ。おそるおそる確認してみると、バッグの中の折り目を開いたところに、○とNの記号があるではないか。調べてみると1978年製らしい。
つまり、少なくとも私が購入したものは本物の可能性が限りなく高い、ということだ。

もちろん型が古いだとかで値段が下がることもあるだろうが、これはあまりに安すぎる。

しかも、この隣に、ホームセンターで買ったであろう少し泥のついた長靴が、2300円で売られていたのだ。
それをおじいさんがさらりと買っていった。

これがタネだ。つまりこの地では、ここに住むほんのわずかな人々にとっては、ブランドもののバッグなど要らない。それ以前にそれを知らない。つまり、価値がないものなのだ。多分100円で売られていても買われることはないだろう。
対して、泥がついていても必要な長靴は、遠くに買い物に行けないそれがほしいおじいちゃんおばあちゃんにしたら、5000円してもしょうがなく買うような品。つまり価値があるものなのだ。

商品タグに書いてるのが
「トップバリュ」でも「エルメス」でも価値は変わらない、そんな土地なのだ。

何に価値を感じて何にお金を使うかというのは、その人によって違う。
食費を削って多額の服飾品をたくさん買うのも、必要なものを必要な分だけ少しお金をかけて買い大事に使うのもその人の価値観次第で、自由。

勉強のできない私が、身を持って経済哲学を学ばせられたようなできごとだった。

さて、その地域の価値観の誤差によって生まれた800円のエルメスをありがた~くくすねてきた、半南房総人、半東京人の私。なんだかずるいことでもした気分になっている。

さすがブランドだけあって、デザインは秀逸だし形は丁度欲しかったものだしで、エルメスなんてハクを無しにしてもとっても気に入った。

...と、思いたいのだが、その「気に入った」の喜びの中に「これ、”えるめす”っちゅうブランドんがで、何十万もすんだでよぉ」というダサい気持ちが確かにあるのは否めない...。

とにかく、このバッグがちゃんと似合う、その”価値”以上にステキな大人になって、かっこよくこのバッグを持ち続けよう。年々、”田舎の中古屋からほじくってきた数百円のエルメス”から、”互いを引き立て合う相棒バッグ”になるように。

このバッグの”価値”を決めるのは私なのだから、その”価値”を作るのも、私だ。大事に使っていこう。

いい買い物をした。

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