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【僕の自転車】

僕が小学生の頃である。当時の遊びの中のひとつに〈サイクリング〉があった。

〈サイクリング〉と言っても、そんなに遠くまで出掛ける訳ではなくて、せいぜい半径4・5kmの中をウロウロするくらいのものだった。

当時は〈子供用の自転車〉なんて洒落た自転車を持っている小学生なんて居なくて、皆んな家にある大人が乗る自転車を使っていた。

そして、自転車には「男乗り」と「女乗り」の2種類の仕様があった。

「男乗り仕様」というのは、補強の為か、サドルの下とライトの下の位置が1本のパイプで水平に繋がれているものをいう。真横から見ると、フレームパイプが逆三角形になった感じになるのだが、背の低い小学生には、その水平なパイプが高いハードルになって、サドルに股がるのには大いに苦労した。

「男乗り」に乗るには、先ず自転車の左側に立って両手でハンドルを握り、左足をペダルに乗せ、残った右足でケンケンして自転車を転がし、左足だけで支えて進めるようになったら、残った右足を後ろ側に大きく回してサドルに座るのだ。なんとかサドルに座れたとしても、脚が地面に届かないんだから、結構怖かったことを覚えている。

片や「女乗り仕様」の自転車というは、例の、「男乗り仕様」の補強パイプのサドル側の片方がずっと下の方に付いていたので、ハンドルとサドルの間に空間が出来て、足を後ろに広げて乗る必要がなかったのである。スカートを穿いた女性に好都合な自転車だったので「女乗り」と呼んでいたのかもしれない。

ところで、友達たちは「男乗り」や「女乗り」の普通の大人用自転車でやって来ていたのだが、そんな中にあって、僕の自転車だけが異彩を放っていたのである。

と言うのも、その自転車というのが、親父が買ってきた「国鉄払い戻し」の〈実用自転車〉だったからなのだ。ゴツくて茶色くて重たい「男乗り仕様」のその自転車は、丸で自家用車の中に軍用車がいるような風情であった。荷台に米俵が乗せられるくらいに頑丈そのものの自転車だった。

さて、時が流れて中学生になった頃である。世の中には流行というものがあって、自転車も変速機付き自転車の時代になっていった。

最初は、右ハンドルのグリップ部をひねるようにクリックして変速する、「内装型3段変速機付き自転車」が登場したのだが、変速機が徐々に進化エスカレートしていって、仕舞いには、ドロップハンドル付きの「10段外装変速付き自転車」などが出てきて、子供たちの羨望を集めることになったのだった。

友達は、5段、10段だと言って、買って貰った自分の自転車の自慢合戦をしていたが、僕の自転車だけが、相変わらず「国鉄払い戻し自転車」のままだったので、恥ずかしくて悔しくて、人知れず泣いたこともあったよなぁ~と、当時を思い出すと切なくなるのである。

漸く憧れの「変速機自転車」を手にしたのは、それから数年後のことであった。


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