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【合同葬】

ある男が〈リスザル〉を飼っていた。

ところが・・長年、家族同様に可愛がってきたその〈リスザル〉がとうとう死んでしまった。

彼は〈リスザル〉の遺体をどうしたものかと考えあぐねた。最愛のペットである。無碍むげには扱いたくなかった。

色々調べた結果、ペットの葬儀屋があることを知った彼は電話を掛けてみることにした。

「トゥルルルル・・・トゥルルル・・はい、●●ペット葬儀社でございます」

電話に出たのは男性社員だろうか、低く落ち着いた声だった。

「あっ!もしもしぃ・・あのぉ~~可愛がってた〈リスザル〉が死んでしまったんですが・・そちらでペットの葬儀をやっておられるってことなので電話させて頂いたんですけど・・」

「あっ・・それはご愁傷さまでございます」

葬儀屋はペットと言えども誠に丁寧な対応をしてくれるのであった。

葬儀屋によると、葬儀には〈個人葬〉と〈合同葬〉のふた通りのやり方があって、〈合同葬〉の方が少しばかり料金が割安になるのだという。予約状況を確認して貰うと、運良く他のお客さんとの日程が合致したので、彼は〈合同葬〉にすることを決めたのである。

さて・・やがて葬儀の日がやってきた。箱に納めた〈リスザル〉の遺体と共に彼は葬儀屋を訪れた。ところが一緒に〈合同葬〉を弔うもう一組のお客さんが中々来ないのだ。

(なんだよ・・これじゃ〈個人葬〉になってしまうじゃないかぁ・・料金上がるんじゃないか❓️)

そんな心配をしていると、ギリギリの時間になって、1人の中年男性が息を切らせながら駆け込んできた。

「すいませ~ん❗️・・ハァハァ・・遅くなってすいませ~ん❗️」

手にはクーラーボックスをブラ提げている。

・・・・・・・

やれやれ、これで〈合同葬〉が出来るなぁ、良かった良かったと、胸を撫で下ろす彼であった。

ところで、ペットの葬儀と言えども〈遺影〉を作成するということなので、持参していた〈リスザル〉の顔写真を提出することを彼は忘れなかった。彼を見た中年の男性も思い出したように写真を提出している。男性が差し出したものは〈魚の写真〉であった。死んだペットは魚だったのだ。彼は目を疑った。

(魚❗️)

・・・・・・・

何はともあれ、こうして、愈々いよいよ愛するペットたちが火葬炉の中に入っていくこととなったのである。

火葬が始まると、お骨上げまで暫く待合室で待機しなければならないのだが、この葬儀場では、待ち時間に料理を提供することになっていた。料理を頂きながら焼き上がるのを待つ訳だ。人間の葬儀と同じである。

料理のメニューというのが2種類あった。〈肉料理〉と〈魚料理〉である。

中年男性のペットが魚なので、ここで〈魚料理〉を食べる訳にはいかないと忖度した彼は〈肉料理〉をチョイスした。続いて中年男性も注文する。

「あっ、すいません・・〈魚料理〉のほうでお願いします・・」

(えっ❗️〈魚料理〉❓️それもメニューには確か焼き魚って書いてあったじゃないか❗️)

どうやら自分のペットと料理の魚とは次元が違うようであった。それにしても、ペットの魚が〈焼き魚〉になっている最中に、悲しみに暮れる飼い主が〈焼き魚〉を喰うか❓️そんなことを思いながら、運ばれて来た〈肉料理〉を彼は黙々と食べた。中年男性はと言えば、魚を火葬するほど繊細な人だけはある。〈焼き魚〉の身と骨を箸で上手に取り分けながら綺麗に食べていた。

・・・・・・・

小1時間も経っただろうか、お骨上げの時がやって来た。火葬炉のある部屋に案内された2人は、各々それぞれが焼き上がった〈おこつ〉に対面した。

彼の〈リスザル〉は真っ白い骨になっている。そして中年男性の〈魚〉はと言えば、男性が先ほど食べた〈焼き魚〉の骨の残骸と同じような姿で灰の上に横たわっている。

2人は丁重にお骨を拾っては〈骨壺〉に納めていった。

やがてお骨上げが終ると、小さな〈骨壺〉に入れられた〈お骨〉は祭壇に安置れ、葬儀屋の担当者が簡単なお悔やみの言葉を述べるのであった。

在りし日の〈リスザルの遺影〉と、魚の顔を真正面から撮った妙ちきりんな〈遺影〉とが、各々の〈骨壺〉の側に飾られていた。


(怪談師:下駄鼻緒氏のYouTubeチャンネル〈下駄のチャンネル 〉より、ゲスト島田秀平氏の怪談話を要約・編集して引用 )

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