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ジャズはeSportsだ!~Splatoonで学ぶBLUE GIANT~

映画「BLUE GIANT」、(CG部分を除いて)傑作でした。

私はかねてよりのジャズ好きで、ジャズ好きを唸らせる魅力に詰まった漫画「BLUE GIANT」シリーズ作品のファンでもあり、それがついに映画化、しかも演奏を担当するのが上原ひろみ(ピアノ)、馬場智章(サックス)、石若駿(ドラム)とあらば、絶対に見逃すわけにはいかない、と初日に見に行って正解でした。

演奏中の2Dエフェクト表現を含めたMV的な演出が本当に素晴らしく、また、「映画音響の大音量で聴くジャズ」というのが新体験で、この漫画が描こうとしていたジャズの「熱さ」が間違いなくそこにありました。

感想をSNSで探しても「今までJAZZをほとんど聴いたことがなかったけど、こんなにかっこ良くて心を揺さぶるんだ!」など、まさにBLUE GIANTの作中でジャズにはじめて出会って感動する聴衆のような反応が多く見られます。

正直、PCやスマホでトレイラーを見ただけだと「そんなにすごいの?」と思うかもしれませんが、マジで劇場だと映像&音響の効果で100倍感動します!!(ただし、トレイラーでも一瞬見えるCGのクオリティは……お察しください)

しかしながら、ジャズファンの間では少なからず話題になっている本作、私の周り(主にゲーマー)では存在すら知られておらず、ジャズの魅力を大きく伝えてくれる可能性を秘めた本作が埋もれてしまうのは勿体ない……どうにかジャズの面白さを言語化して伝えられないか……と、考えていた所、

俺がジャズ大好きな理由と、俺がSplatoon大好きな理由って、完全な相似形なのではないか??

という天啓が降り注ぎ、衝動的にしたためたnoteがこちらです。

ジャズは「スゲェ熱くて激しい」音楽

一般的な方が思い描く「ジャズ」って、どんな音楽でしょうか。

  • 静かで大人っぽい

  • いい感じのカフェで流れている

  • アドリブがある(ので、耳馴染みのないフレーズが流れ続ける)

  • よくわからない

……と思われているのは少しわかりますし、BLUE GIANT の1巻でもまさにそこから話がスタートします。

「ジャズっていや、大人のオシャレな音楽だべ?」
「オシャレ!?ジャズがあ!?」

BLUE GIANT 1巻

「オレはジャズがオシャレだから好きなんじゃなくて……」
「ジャズが、スゲェ熱くてハゲしいから。」

BLUE GIANT 1巻

そうなんだよ!ジャズは最高にアツい音楽なんだよ!

まずこれを聴いてくれ!映画BLUE GIANTのメインテーマとなる超アツいナンバー「FIRST NOTE」を!

……伝わりましたか?

いや、伝わったなら最高ですよ、もう何も言う必要はない。

ただ正直、普通の方がいきなりこの音楽を、整っていない音響で聴いたところで、映画で実際に私達が受けたような衝撃、灼熱のような感情が湧き上がるかというと、それはありえないな、とも思うわけです。

それは、どうしてだろうな、と考えた所、

これって、例えばいつしかのSplatoon2世界大会の決勝「GGBoyz対FTWin」の激アツの試合を、とくにSplatoonのルールも知らない普通の人に、会場の熱気や状況も何も伝えないまま試合動画だけ見せた所で、同じように感動することはありえない、というのと近い気がしたんですよね。

ルールがわかってると↓のような理解ができ、起こったことの凄さに対して感動できる。

そこには「ルール」と「経験」から導かれる「予想」があって、それに対して「リアルタイムで予想を上回る結果」が出てくることに感動するわけで。

つまり、音楽のお約束ごとや色んな音楽に対する経験値、そこから導かれる「音楽的な予想」があって、かつ、プレイヤーがどういう思いで何を目指してプレーしているのか、といった文脈も合わさって初めて「うおおおおお」っていう感情に化けるんですよ。

ジャズとeSportsの共通点

こうして考えてみると、ジャズとeSportsには数々の相似点があります。

eSports:

  • 負けるかもしれない戦いに挑む

  • 相手の裏をかくことが勝利に繋がる

  • 生放送で見るほうが圧倒的に面白い

  • ルールを理解して、集中してプレイしないと面白くない

  • 徐々にガチ勢だけが残っていく

ジャズ:

  • 着地できないかもしれない飛躍をする

  • 聴衆の裏をかくことが熱狂に繋がる

  • ライブで聴くほうが圧倒的に面白い

  • テーマを理解して、集中して聴かないと面白くない

  • 徐々にガチ勢だけが残っていく

根本的に共通しているのはどちらも「一番盛り上がってるのはガチ勢(その結果として新規勢が入りにくくなりがち)」という傾向です。

だからといってジャズが完全に玄人向けということではなく、「自分が楽しめる程度のジャズ成分」を含んだ音楽であれば楽しめるはずなのに、ガチ勢向けの難解な音楽で意味わからん……ってなると楽しくない。

それはまさに、格ゲーやSplatoonをはじめとするeSportsが「初心者同士で戦える環境」であれば楽しく初められるはずなのに、ガチ勢向けの環境でボコボコにされるから楽しくない……というのと同じです。

ただジャズにおいて「自分が楽しめる程度のジャズ成分」ってなんじゃって問題はすごくあって。4ビートでゆったりの「簡単なスイング・ジャズ」とかそういう意味で言っているわけではなく、例えば東京事変とか、他では聴いたことがない雰囲気の新しさを感じる音楽、というのが実は入り口になっていたりするんじゃないかと思います。その理由は後述します。

個人的には、最初の入り口になったのはT-SQUAREでそこから上原ひろみを通って……という感じでしたが置いといて。

なぜアドリブをやるのか?=なぜ負けるかもしれないのに対人戦をするのか?

これはもう結論なんですが、ジャズのアドリブっていうのは「新しい境地を求める」ためにやっている、と考えています。

よく、ジャズの魅力としてアドリブが「その時の気持ちを音にして表す」なんて小洒落た表現をされたりしますが、個人的にはそれはウケが良いために受け売りで使われているだけのような気がしていて、だって「その時の気持ちを表す」ためなら「その時の気持ちに合った曲を選んで演奏」するほうがいいんですよ。一定のルールに縛られるアドリブよりも自由度が高い。

じゃあなんでアドリブしてるのか?という事が、実はジャズをやらない人には全然知られてないんじゃないか。(ジャズをやっている人は本能的に理解していたり、あるいは評論家の間では常識なのかもしれないけど)

ここで改めてeSportsとの対比が出てくるんですけど、

アドリブをするのは、「まったく新しい音を予測できるかどうか」という「駆け引き」をやるため、と私は感じています。

これがまさに、

対人戦をするのは「まったく新しい相手と展開で勝てるかどうか」という「ゲーム」をやるため、ということと対応します。

これに対して、

「最終的には主人公が勝つ」という物語が体験したければ、対人戦ではなく「一人用ゲーム」をやるでしょう。

同様に、

「最終的にこういう感情になりたい」という気分であれば、ジャズではなく「そういう物語性を持った音楽」を聴くのが気持ちいいです。

音楽に「負ける」という体験

駆け引きがあるということは、それに失敗するリスクがある。すなわち、「負ける」ことがありえる、という話です。

音楽に「負けた」経験、皆さんありますか?

とはいえ、ここでいう「負け」っていうのは、それこそeSportsでボコボコにされてキーボードをクラッシュしてしまうような嫌な感情というわけではなく、あえてゲームで例えるなら「自分も味方も頑張っていたのに、相手の天才的なプレーによってそれが覆されて、あんな素晴らしいプレーをされたら負けを認めるしか無い!」という清々しい気持ち、このゲーム面白いな!っていう気持ち、に近いかなと思います。

では皆さんにこれから、音楽で「負けを認めるしか無い」プレーを見ていただきます

……が、やはりこれもゲームと同じでルールを理解してないと「負けたかどうかすらよくわからん」となる可能性があるので、自信のない人はこのキーボードソロを弾いている人以外の人の表情とかを見ているとわかります。

動画は6分あたりから始まりますが、7分の所までは見てください。時間に余裕のある方はもっと手前から聴いて頂いても構いません。控えめに言っても神回という、Snarky PuppyとCory Henry(Key)による歴史的名演です。

聴きましたか!?

想像を超え、そのまた更に先を超え、どこまで行くのかと思ったその先をもさらに超え、多くの聴衆に衝撃を与えました。

よくわからなかった、という人は、後ろで聴いていたSnarky Puppyのレギュラーキーボード奏者であるShaun Martinを見てください。

「お前マジ?どうやったらそんなフレーズ出てくんの?」

「あーwwwこれは完全にやられたwww」

「俺もうキーボードやめよ」(ヘッドホンを脱いで席を立つ)

(※セリフは全部筆者の妄想です)(※終演後二人のキーボーディストはお互いをたたえてハグしてますし、Shaun Martinはこの後も引き続きSnarky Puppyで最高の演奏と最高の顔芸を続けています)

アドリブを演奏する初心者からプロまで、皆が少なからず意識しているのは「自分の技術と想像の限界を、どこまで超えられるか?」という戦いであり、想像を超える演奏を耳にして「やられた!!」と感じた時の気持ちよさは半端ないです。もちろん、それを「演奏している方」の立場で「やってやった!!」という方がさらに気持ち良いことだとは思いますが。

良い対人戦のゲームが勝っても負けても「いい試合だった!」と感じられるように、音楽のバトルというのも勝ち負けを超えて「いい演奏だった!」と感じさせてくれます。

極稀にですが、本当にぶっ飛びすぎたリズムにチャンレジして周りの演奏者がついてこれず、全員が拍を見失う、みたいな文字通りの「失敗」も起こります。プロの演奏では滅多にありませんが、無くはないって感じです。その意味でもライブの演奏は本当に緊張感があります。

俺より強い奴に会いに行く

私自身は、対人戦のゲームも一人用ゲームも、どちらも大好きだ!と思っていますが、じゃあ一番面白いのは何?って言われたら、、、

やっぱりSplatoonが世界で一番面白いんだわ、と今なら答えます。

↑のnoteも私です

一人用ゲームで感動した体験だって山ほどあります。

ただ、「本当に勝てるかどうかわからない相手」と戦って、ヒヤッとするほど危ない瞬間を乗り越えて、自分のその時の力を全部出し切って勝つ!という体験は、やっぱり一人用ゲームだと限られた場面(ボス戦とか)でしか得られないし、それも何度も楽しめるものではない。そういった新しい境地が見えるような体験が短時間で何度でもお互いが強くなって味わい続けられる、というのは、対人戦でなければ味わえないわけです。

これが、ジャズのアドリブの魅力と全く同じなんです。

「本当についてこれるかどうかわからない演奏」を聴いて、ヒヤッとするほどの揺さぶりを乗り越えて、自分の音楽的理解力の限界に挑戦して一緒に着地する!という体験は、楽譜が決まっている音楽では最初に聴いた時しか得られないし、何度も聴いて同じ感動が得られるわけではない。新しい境地が見えるような瞬間をまた味わいたいと思ったら、自分の想像を超える演奏ができる人のアドリブをライブで聴くしかない!わけです。

つまり、対人戦も、ジャズのアドリブも、
「自分の実力をちょっとだけ超えてくれる対戦相手(ミュージシャン)」と対峙して、それを乗り越えたい、という欲望を実現するための共通したシステムなんです。「俺より強い奴に会いに行く」ですよ。

その裏返しとして、
「自分が簡単に倒せるような素人相手に勝っても面白くない」=「自分が簡単に予測できるアドリブを聴いても面白くない」といった事も言えます。

一番楽しいのは常に、自分の想像をちょっとだけ超えてくれる相手。フロー理論における夢中になる状態のところですね。

熱いジャズと冷静なジャズ

BLUE GIANTで描かれているジャズ・ミュージシャンの葛藤は、非常に真に迫ったものであると感じます(自分はまったくプロではないですが……)。

中でも作品を通して何度も描かれるのが「熱いジャズ」「冷静なジャズ」という軸です。

主人公の宮本大は、「俺は世界一のジャズプレイヤーになる!」と豪語するキャラクターからもわかる通り、非常に熱いプレイヤーです。

それに対して、ピアニスト沢辺雪祈は余りある技術を使いこなして「冷静なプレー」をしたことで(映画のトレイラーでも思いっきり出てますが)「君、全然ダメ」とダメ出しをされてしまいます。

「内蔵をひっくり返すくらい自分をさらけ出すのがソロだろ。」
「君はソロができないのか?」

BLUE GIANT 7巻

ただ、これは別に沢辺くんが本当にダメってわけではなく、ジャズに必要な片方のプレイスタイルを持っているのにもう片方のスタイルを出していないのが勿体ない、という意味からの激励の言葉でもあるわけです。(多分)(無礼な若者にキレただけじゃない……と思うよ)

最新のBLUE GIANT EXPLORERシリーズでもこの葛藤は描かれており、やはり熱いプレーで突き通す主人公と、それを冷静にいなすドラムのゾッド、という関係が描かれています。

大「計算なんかしない。」
ゾッド「無知だな……」
「昔のジャズと今のジャズじゃ、完全に別モノさ。」
「ジャズは変化し続けている。」
「昔はノリで力一杯ガナるプレーで客は喜んだ。ノリで行けた。クスリも酒もありだ…」
「今は違う。」
「緻密に計算されたハーモニーやリズム。それを支える高々度の技術。」
「今の世界が求めるのは、そんなジャズだ。」

BLUE GIANT EXPLORER 7巻

これがどう決着するのかはまだ最新刊をワクワクしながら待っているところですが、結論を言ってしまうと「熱さと冷静さは両方必要」ということになると思うんですよね。

実はこれを、対人戦の例えに則って、Splatoonのプレイスタイルで説明することができます。

つまり、さっきの会話の「宮本大」を「ボールドマーカーネオ」、「ゾッド」を「バレルスピナー」に読み替えるとこうなります。

ボールドマーカーネオ「計算なんかしない。」
バレルスピナー「無知だな……」
「昔のSplatoon1と今のSplatoon3じゃ、完全に別モノさ。」
Splatoonの環境は変化し続けている。」
「昔はノリで力一杯ガナるプレーで敵を踏みつぶせた。ノリで行けた。無敵ステジャンもありだ…」
「今は違う。」
「緻密に計算されたライン管理スペシャルの発動タイミング。それを支える高々度の技術。」
「今の世界が求めるのは、そんなイカだ。」

バレルスピナー「無知だな……」

すみません、ついバレルスピナー使いの本心が出てボルネオ君がただの時代遅れのアホに見えてますが……でもSplatoonはバレルスピナーが4人集まったって勝てないんです。

誰かが後ろをしっかり守って管理するのと同時に、誰かが前線で相手を驚かすキルを生み出さなければチャンスは生まれません。シューターであれば場合によって両方の役割をこなす必要があります(それはバランスが違うだけで実はバレルでもボールドでも同じです)。

ここで、「攻めるボルネオ君」は「想像以上のスピードで相手に詰め寄って倒す」作戦で、「守るバレスピ君」は「想像以上にしっかり隠れて極限まで引き付けてから倒す」作戦ってだけで、どちらも「相手の裏をかいて倒す」という目標は同じなんです。

話をジャズに戻すと、

大がプレイする「熱いジャズ」は「想像以上の勢いや音圧で聴衆を圧倒させて想像を超える」ためのもので、

ゾッドや沢辺がプレイする「冷静なジャズ」は「想像以上の技術で出したい音を我慢してから解放させることで聴衆の想像を超える」ためのもので、

彼らの目標は共通して「聴衆の裏をかいて驚かせる」ことにあります。

なので、それぞれのプレイスタイルが完全に相反しているということはなく、違うスタイルのプレイヤーが共存することもあるし、同じプレイヤーでも1曲の中で熱くもクールにもなれる、というのが魅力的です。

冷静すぎて想像を超えたドラムソロ

ジャズにおいて「冷静に聴衆を驚かせる」ってどういうことか?を実感いただくため、私イチオシのジャズトリオ「Matha Kato Trio」の「After The Rain」という曲をお聴きください。

3人とも本当に天才的な技術とセンスを持っていて、また、Marthaさんのコーラスや作曲センスも相まって、ジャズに馴染みの無い人でもすんなりと聴きやすいです。時々ちょっとゲーム音楽っぽい?と思うことも。

この曲で注目して頂きたいのがドラムの小田桐和寛さんのソロ部分。多彩なリズムの取り方からして相当な技術を持っているのが伝わってくるんですが、その最後に、、、(読み進める前に動画をご覧ください)

聴きましたか?

ドラムソロの最後、ただのバスドラムで「ドッドッドッドッ」なんですよ。これ以上ないくらい、シンプル。

でも、これをやるには相当の我慢が必要です。私(一応ジャズドラムをやってました)はまず無理だと思います。だいたいソロは盛り上げようとしますし、そうすると、手数の多い癖で音を埋めようとしてしまいます(つまり、熱いほうに勝手に行きがち)。Splatoonでとにかく目の前の敵に突っ込んでトリガーハッピーしたくなっちゃうのと同じです。

ちゃんとソロの最後でどう締めるかまで想像を広げて、その手前でピッタリと他の音をミュートして、着実なリズムを刻む。Splatoonで言うなれば、敵が一人目の前に来ても我慢して、戦況全体を観察して敵4人が全員揃った所で顔を出してワイプアウトするような、そんな冷静かつ大胆なプレーです。

熱すぎて内臓がひっくり返るピアノソロ

「想像以上の勢いや音圧で聴衆を圧倒させる」ジャズは映画「BLUE GIANT」を見てください!が一番なんですが、ここでは別の例をご紹介します。

竹村一哲(Drums)カルテット」の「Black Bats and Poles(カバー曲)」です。さっきのMartha Kato Trioとは打って変わって激しい、熱いジャズです。中でもピアノの魚返明未(おがえり あみ)さんのプレーは圧巻で、、人によってはドン引きかもしれない、、けどまぁ、見てください。

声も漏れてるし体も乗り出してるし、比喩として言うならば内臓も漏れてますよね?というくらいの尋常じゃない勢いが感じられます。

これは人によっては完全に「わけわからん」の域に達していると思うんですが、色んなジャズを聴いていると徐々にこういうのにも慣れて、あのカオスの中でもある程度は予測がつくようになってきます。が、それでも魚返さんのソロには度肝を抜かれました。

これはSplatoonで言うところの「は?お前なんでもうこんな所にいんの?」っていうくらい詰めてきたボールドとかパブロを見つけた時の感覚です。

また、ドラムでありリーダーの竹村一哲さんも、さっきの冷静なドラムソロをやった小田桐さんとは非常に対照的に、一音たりとも裏切ること無く美しい手さばきで、まるで歌うように感情を爆発させる演奏が最高でした。が、やっぱりこれも生の大音響で聴かないとほんとの迫力はネットからじゃ伝わらないんですよね。。

ちなみに、映画「BLUE GIANT」ではちゃんと熱い演奏が鮮烈な映像と映画館の大音響によってズドンと届くと思うのでこれに怯まず是非見に行ってください!!(そのために書いてるから何度でも宣伝するわ)

https://bluegiant-movie.jp/

「ジャズ」と「それ以外」?

ここまではわかりやすさ優先で「ジャズはバトルだ!」みたいな論を展開してきましたが、最後に念のため「ジャズって定義はすげー広いし、ジャズが全部そうだとか、そうでなければジャズじゃない、なんてことは無いよね」という予防線を貼りつつ、「ジャズ」と「それ以外」の中間、についても考えてみたいと思います。

最近のジャズと昔からのジャズ

ジャズの一般的イメージである「ドラムは静かにサワサワしながら、ポロポロとピアノやベースが鳴る」みたいなのも、当然ジャズというジャンルに入るはずですが、それが今まで説明したような「新たな音楽的境地を目指してお前の限界とバトル!」みたいな世界観で演奏されるかっていうと別にそうじゃないですよね。

↓なんか無限に「いわゆるオシャレなジャズ」が流れるYoutube

これだけでも「ジャズ」っていうのが、そういう曲調(楽器構成)を指していることもあれば、アドリブを含めたシステムを指していることもあって、複合的な概念だということがわかります。

なので、今日ご紹介している話は主に「コンテンポラリージャズ」などと呼ばれる、「近代においてさらに進化しているジャズのいち形態」を捉えたものと考えてください。

最近のジャズでも皆が皆バトルしてるってわけでは……みたいなのはもう私は正直に申し上げてわからないので、専門家に聞いてください。
追記:今月発売のBRUTUSのジャズ特集がとってもわかりやすかったので、オススメです!

ジャズとロックの間にあるフュージョンやプログレ

色んな音楽をご存知の方であれば「フュージョンとかプログレって、ゲームで例えるならどうなるの?」と想像を働かせたかもしれません。

ご存知ない方のためにご紹介しますと、フュージョンっていうのは「ジャズを基調にロックやラテン音楽、電子音楽、時にはクラシック音楽などを融合(フューズ)させた音楽のジャンル(Wikipediaより)」のことです。

ここではわかりやすいようにArch Echoを載せておきますが(最高だろこの音楽オタクたち)、

私個人的にはT-SQUAREが最初の入り口となって、その後上原ひろみを一通り通って……ようやくジャズにたどり着いた、という感じです。

簡単に言ってしまうと「ジャズみたいにアドリブ成分も含まれるけど、全員で難しい楽譜通りに完璧に合わせるキメキメ成分の方が多めで、あとスイングするよりも16ビートが主体」みたいな(異論は認める)。

アドリブ成分のほうは確かに「想像を超えるプレーで魅せつける!」みたいな楽しみ方もあるんですが、ジャズほどには大冒険せずに、アドリブと言いつつ半分くらいはだいたい何演奏するか決めてる、みたいなパターンが多いイメージです。もちろんジャズとフュージョンのさらに中間、みたいなバンドも色々あってグラデーションになってます。

こういう難しいキメキメ曲を俺の演奏技術で弾きこなす!というプレーは、ゲームで言うとフロムゲーに代表されるソウルライクを俺のゲームの腕で乗り越える!という感覚に近いんじゃないかな、と思います。

ソウルライク:

  • 初見ではとにかく難しい

  • 何度も死んで覚えたら気持ちよくなってくる

  • アドリブ性も多少求められるが型を覚えることで攻略可能

  • 一般人には少し敷居が高いけどプレイしているのを見ると凄さが伝わる

フュージョンとかプログレ:

  • 初見ではとにかく難しい

  • 何度も聴いて覚えたら気持ちよくなってくる

  • アドリブ性も多少求められるが技術を高めることで表現可能

  • 一般人には少し敷居が高いけど演奏しているのを見ると凄さが伝わる

最後のこの「凄さが伝わりやすい」のは新規勢に間口を広げるためにかなり大事で、eSportsもジャズも解説されないと「ルールがわからん試合や演奏を見ても何が凄いのかパッとわからない」みたいな問題がある、のとはちょっと違った性質かなと思います。

どんな音楽にも「ジャズ成分」がある

東京事変を「新しさを感じる音楽」として紹介しましたが、別にジャズのアドリブじゃなくたって「新しい音楽的境地を感じる」みたいな事は普通にあるわけです。アドリブはそれを「リアルタイムで次々に試行する」というシステムなだけであって、次々に新しい曲を聴くのもある意味ではそうした驚きを与えてくれます。

King Gnuとかって多くの人にとって初見では「なんじゃこりゃ!?」ってなると思うんですよね。まさに音楽的な新境地。

ちなみにKing Gnuの旧メンバーには映画BLUE GIANTでもドラムを担当しているジャズドラマーの石若駿が。ジャズの魅力がこうしたミュージシャンの交流を通して色んなジャンルに染み出しています。

人によって何を新しいと感じるかどうかは分かれると思います。私にとって「新しい!」と思える音楽も、そのジャンルに親しんでいる人には普通に聴こえるのでしょう。

音楽というのは(極言するとあらゆるエンタメが)自分が今まで見知ったことのある経験からの予測を、いい感じに上回って気持ちよくしてくれるか、という芸術でもあるので、あらゆる音楽は誰かにとっての新しさを運んでくれるし、何を新しいと感じるかはその人の音楽遍歴次第です。

だから、ジャズプレイヤーは「何でもジャズだ!全部ジャズ!」みたいに言うこともあるし、要は「自分にとって新しくて面白ければ何でも良い」わけです。

なので、私がここで「ジャズ」と「それ以外の音楽」はこんなに違う!と主張したところで、別に「それ以外の音楽」が何か欠けているとか劣っているという話ではまったく無く、その境界線は誰にも引けません。

「あなたにとってのジャズ(新しい音楽)」に、どんなジャンル名がつけられているかはわからない。それはアニソンかもしれないし、ゲーム音楽かもしれないし、ロックかもしれないし……とにかく、なにか音楽的に新しい発見を与えてくれる音のことを、私はジャズと呼ぼうとしている、というだけです。

ジャズは「永遠に新しくなる音楽」

「君らトリオの音も、新しいね。」
「ジャズは、永遠に新しくなる。」

BLUE GIANT EXPLORER 8巻

BLUE GIANT EXPLORER最新刊でのこの台詞はまさに、作者が深くジャズを愛していることの現れではないかと感じました。

永遠に新しくなる音楽。ジャズ・ミュージシャンはその最先端を行こうと日々戦っている。

誰かにとっての「ちょうど良い新しさ」がどこにあるかはわからない。私も「最先端にいる」というわけではなく、「ようやくジャズの中のここくらいまでは理解できるようになってきた」という感じ。そこに無理やりジャンルという線を引くのは、難しいですね。

どんな形であれ、「新しい音楽を求める気持ち」というのはジャズの魅力に通じている

対戦ゲームなどで「俺より強いやつに会いに行く」という気持ちも、ジャズの楽しみ方ととっても似ている。けれどもそれは、他人に自分と同じレベル(の音楽を理解する事)を求めた途端に「新規勢を追い落とす古参格ゲーマー」と同じ問題を生み出してしまう。

なので、「その人に合った音楽的な発見」の喜びを大切にする。そして、それがいつかどこかでジャズに通じるかもしれない。そんな出会いが増えてくれたら良いなと願っています。

おわり

ゲームや音楽のnoteを書いています。

ちなみに漫画BLUE GIANTの購入リンクを何個か貼りましたが、3シリーズになってて何も知らないと前後関係がわからないと思うので説明すると

BLUE GIANT:初期シリーズ。日本が舞台。映画はここまで
BLUE GIANT SUPREME:続き。ヨーロッパ編。
BLUE GIANT EXPLORER:さらに続き。アメリカ編。最新刊はここ

となっています。

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