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紅茶を飲むとバカになる。

傘の形をした茶こしの紹介ページに、雨傘を世界にひろめた人物として18世紀のイギリス人貿易商ジョナス・ハンウェイについて、なかなか興味深いエピソードや雨傘が英国紳士の象徴になるまでの話などが記載されていました。

傘の茶こしで淹れた紅茶を、そんな歴史を感じたり一角の人物の半生に思いを巡らせつつ飲んでみたら、さぞ美味しいのかもしれません。

しかし、もしもハンウェイ本人がこのページを見掛けたりしようものなら大いに憤慨したに違いないはずです。

例えば、石川五右衛門が自身の名前がついた風呂や、釜揚げパスタの飲食店を見掛けたらどんなことを思うのでしょう。

フェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵が、燃え落ちる飛行船の写真で有名なレコードジャケットを見掛けたらどんなことを思うのでしょう。(本人でないけれども親族・子孫はやはり大いに憤慨し、名誉ある名前を無断で使用されたとして訴訟を起こしていたとのこと。)


で、何故ハンウェイが憤慨するのか。 それは彼が大の紅茶嫌いだからです。そのことは当時のイギリスでも割と有名で、詩人や文学者・知識人たちと紅茶文化の是非について論争を引き起こしていたそうです。150年ほど時代が下った1900年代に岡倉天心がニューヨークの出版社から発表した「茶の本」にも書き記されているほどです。

かなりトンデモな内容がほとんどではあるけれども、中には鋭い意見もあって簡単には見過ごせないので、彼の言い分というか主張を確かめてみたいと思います。

・男性は背が低くなり、見栄えが悪くなる。

・女性は美を失う。

・口臭が酷くなり、容姿が醜くなり、神経を衰弱させる。

・健康を悪化させ、産業は停滞し、国が貧しくなる。

紅茶なんてロクなもんじゃないから飲むのを止めなさいとイギリス中の市民に向けて発言していたのが上記に挙げた通りで、信ぴょう性や科学的な根拠なんかは全く無さそうです。

紅茶を飲むとバカになる。とは言ってませんが、それよりもショッキングで過激な発言です。

しかし紅茶のせいで国が貧しくなっていったのは事実で100年後の未来を予見してしまう結果となりました。

茶の生産国であった中国から”銀”を対価に輸入をしていたのですが、産業革命やアメリカの独立戦争の費用捻出のため銀の輸出を制限することにしました。

そして銀の代わりに支払われたのは”アヘン”で、厳密にいえばインドを仲介した三角貿易というか密輸という不平等な取引で、アヘン戦争を引き起こすキッカケとなります。

クスリを売りつけ、茶を奪っていく。気に入らないなら暴力に訴える。

正気の沙汰とは思えません。まさに狂気の沙汰です。紅茶に対するハンウェイの主張は酷いものですが、茶を巡る貿易が経済的損失を生み、国防に反するという意見は正しかったようです。

しかし正しい意見や合理的に優れている行為が人々に受け入れられるとは限りません。

18世紀のイギリスでは雨が降ってきたときには馬車で移動するのが常識であったようです。現代でいえばタクシーに乗るような感覚でしょうか。馬車やタクシーを手配したり利用したりするのは手間も暇もかかり金銭的にも負担がかかります。

貿易商としてペルシャを訪れたハンウェイは偶然に見掛けた書物で、東洋においては雨除けのために傘を用いることを知り驚いたそうです。当時のヨーロッパでは傘は女性のもの、しかも日除けの為に用いるものでした。さっそく女性用の日傘に防水加工を施し雨の日にさして街を歩いたそうです。

市民の目には奇異に映ったことは想像に難くありません。雨の日に日除けのための傘を、女性用のそれを男性がさして歩いている。おそらく狂気の沙汰に見えたでしょう。

しかし、その合理性に気付いた市民たちの間に少しずつ雨傘の利用が広まり、やがて英国紳士の象徴とまで言われるようになりました。


傘といえば、ハンウェイを連想してしまうのは当然だと思います。


ただ「紅茶と傘」だったらメリー・ポピンズが良かったんじゃないかなぁーと思ったりもしますが、たぶんネズミーランドの人たちから勝手に商品紹介でキャラクターの名前を無断使用しないでくださいって怒られちゃうんでしょうね。


以上です。最後までお読みいただきまして有難うございます。

紅茶を飲んでもバカにはならないと思います、たぶん。




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