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【特集】もう一度観たい、やばいB級映画 第13回「シャドウオブヴァンパイア」

吸血鬼を題材にした映画は多くあるが、本作が一番好きだったりする。

プロデューサーはあのニコラス・ケイジである、この人は意外とプロデューサーとしても活躍していた人なのだ。

主演はウィレム・デフォーとジョン・マルコビッチという00年代を代表する怪優で、彼らの演技合戦もみていて楽しい一作なのだ。

本作は実際にあった吸血鬼映画の古典である「吸血鬼ノスフェラトゥ」の撮影を題材にしていて現実と虚構の中間にいるホラー映画だったりする。この不思議な空間がなんともいえない悪夢感があってまた楽しいのだ。

舞台は1920年代

神経質な鬼映画監督のF・W・ムルナウはブラム・ストーカー原作の「吸血鬼ドラキュラ」を制作しようと野心に燃えていた。そんな彼はなんと本当の吸血鬼のシュレックを俳優にしてしまう。

ちなみにシュレックはこんなやつである。

当初は「吸血鬼なんておるわけないやろー」と笑いながら、シュレックを「演技とメイクに気合の入った役者さん」と思い込んでいた撮影陣たちだったが、十字架が侮辱されたり、撮影陣が次々と不審な死に方をとげていったり、スタッフが噛まれていたりしてから・・・・だんだんシュレックを疑い始めていく。

(これ以降はあらすじ全文をかきますのでご注意ください)

それでも映画を作りたい監督はなんとしてでも周囲を強引に説得したり、シュレックに血を吸われてダウンしたスタッフを補ったりしながらなんとか撮影を続けていく。

だが、シュレックのことが怖いのは監督も同じで傲慢で血の欲望に狂ったシュレックはムルナウの意思など無関係でやりたい放題なことを咎めに彼の眠る地下室へと向かう。

「なんでカメラマンを襲うんだ!別のやつ襲えよ!」

「別のやつならいいのかね?クックックッ・・・・。それよりも主演のグレタ・シュレーダーだが、あれの血が飲みたくて仕方ないのだ。」

「もういい、貴様にはうんざりだ!!!」

ムルナウはシュレックの首につかみかかるが、シュレックにびびって逃げ出してしまう醜態をみせる。

そんな吸血鬼シュレックも、原作のドラキュラを読んでドラキュラの孤独さに憐れみを感じたり、カメラにつったフィルムの中で描かれた太陽の光をみて何かに心奪われ始めていく・・・・。

彼は実はこの映画に参加するまでは孤独に生きていた悲しい吸血鬼でもあったのだ。その心の隙間に映画という怪物がやがて入り込んでいく。

スタッフたちもシュレックが寝ている棺の中を暴いてしまうが、映画撮影が終わるまではなんとか我慢して生かしておこうという話になり、主演女優のグレタが撮影所に入るようになる。

監督のムルナウは精神的にボロボロで撮影が終わるとベッドの中で死の恐怖におびえ震え上がっていた・・・・もうだめだこいつ。

何も知らないグレタはシャブを決めながらスタジオに入る。美人だがひどい薬物中毒者で撮影以外の時はろくに歩くことすらできない。シュレックも自身の最後の撮影のためスタジオ入りをする。

グレタはシュレックの異形にびびりつつも「まあ役者魂があっていいんじゃないの?」って感じで受け流す。

だが、撮影中そんな彼女でも気が付いてしまう。

なんと鏡にシュレックがうつっていないのだ!!!


「ひえっ鏡に映ってない!!あれ・・・・本物の吸血鬼じゃないの!!!キャー!!!撮影をとめてええええええええええっ!!!!ムルナウ・・・ムルナウ!!」

暴れながら逃げようとするグレダ、だがスタッフたちはそんな彼女を押さえつけ始める。一体どっちが吸血鬼なんだろうか?

監督やスタッフはさっさとこの撮影を終わらせたいため彼女にモルヒネを打ちおとなしくさせる。

この映画製作者たちにもはや人間の魂など消え失せていた。あるのはただ目の前にある恐怖から逃げたい、それだけだった。

モルヒネの入ったグレタの血を吸い、満足そうなシュレックはいびきをかきながら睡眠をする。

「よし、あいつ寝ているな。」

「もう昼間だから、撮影所の門を開けよう。そうすれば日光があのシュレックの体を焼くはずだ・・・・。」

そう思い、スタッフたちはドアを開けようとする・・・・だが開かない!!!

チェーンが外れていたのだ・・・・唖然とするスタッフたちを後目に目覚めたシュレックは高笑いをする。

「ククク・・・・私がそんなことをわかっていないと思うかね?」

そして、次から次にスタッフを皆殺しにしていくと最後に生き残ったムルナウに話しかける。

「ムルナウ、言い残すことはあるか?」

「持ち場に戻ってくれ。」

するとどうだろうか、ムルナウは異常に冷静になっていた。ストレスがいきつくとこまでいきついて狂ってしまった。そんなシュレックはムルナウの目をみつめる・・・・そして彼に魅入られるように従い再び撮影を始める。

完全に二人は映画という悪魔に魅入られてしまったのだ・・・・。


シュレックはもう一度グレタを襲う、ムルナウはカメラを動かしていく・・・・。

すると偶然撮影現場の住人(エキストラも兼ねていた)たちが撮影所の門を開け始める。

太陽の光が吸血鬼シュレックに差し込み、彼の体を焼いていく。その幻想的な光景をみて興奮状態のムルナウ。

「君は死ぬんだ、数百年と生きた最後の吸血鬼がここで死ぬ、そして・・・・終わるのだ。」

興奮したムルナウだったが、フィルムはもう完全に尽きていた。それでも彼は一心不乱にカメラを動かしていた。死んだカメラマンの男に撮影終了の加チンコをしろというが、反応がない。

そんな彼の異常な姿をみておびえたスタッフがカチンコを取り出す。ここでようやく自分の置かれた現状に気が付いてしまう。そこには死体の山があった。

そして、ムルナウは一人つぶやく。

「撮影、終了」


心が弱く完璧主義者であるがゆえ狂ってしまった映画監督と血の欲望に狂った吸血鬼、そんな彼らの心理戦を描いたホラー映画の傑作である。

確かに吸血鬼シュレックは非常に恐ろしく、完全に狂ってしまっているがよくよく考えれば彼もまた吸血鬼であり人間ではないと考えればごくごく自然のあるべき姿でいるのかもしれない。

だが、監督のムルナウはどうだろうか?映画を完成させるという妄執に執着するあまりすべてが歪んでしまった狂人にみえてくる。

おまけに彼の周囲のスタッフたちも最初はそれこそ彼を吸血鬼とおもっていないが、映画を完成させるために主演女優を平気で犠牲にする。かなり酷薄な連中だといえるだろう。

そして、本当の怪物・・・・それは「映画」というものの中にもいるのかもしれない。「映画って怖い」「ものをつくるのって怖い」ですね。

吸血鬼シュレックを演じるウィレム・デフォーは本作が彼の最高傑作だとおもっている。哀れで滑稽な吸血鬼シュレックはセンスがないやつが描けばただの道化になるところを・・・かなり不気味で邪悪な「吸血鬼」として完成してるのは間違いなくデフォーにしかできないだろう。

対抗するジョン・マルコビッチも神経質な映画監督をかなり熱演している。こんな化け物同士の殺し合いに振り回される製作者たちは哀れとしかいいようがない。

ハロウィンシーズンで、吸血鬼コスをした人間が増えるだろうが、改めて本作をみて「吸血鬼って怖い」って思いなおしてほしいもんだ。

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