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【特集】もう一度観たい、やばいB級映画 第12回「痴漢ドワーフ」

以前、障害者を題材にした映画の記事をあげたが・・・ああいう記事を上げると後悔がくる。

「なんであれを取り上げないんだ!!」とか「あれを忘れてた!」とかそんなもんだ。本作はそんな中ふとなぜあれをあげなかったのか・・・と心底後悔した作品の一つだ。

なんと本当の身体障害者を使ったホラーポルノだ。ポルノとはいったが・・・ぶっちゃけエロシーンはほとんどない。ホラーといっても過激なシーンや怖いシーンはない。

しかし、その間のちょうどいい微妙なバランスを行き来する映画だったりする。本作はなんとアメリカ・デンマークの合作映画だったりする。

主人公は小人症の男性だが意識高い系映画に出てくる純粋な性格はほぼなく性格は下劣で性欲が強く下品でどうしようもない人間だ。

こいつはかつて高級娼婦だった母親や叔父さんを名乗るサンタクロース(実はケツ持ちのマフィア)にこき使われながら生きている。

仕事といえば表向きは不動産の管理人だったが、女を適当に誘拐し強姦し麻薬付けにして娼婦にするという・・・まあどうしようもないクズだった。まともな友人はぬいぐるみぐらいでダレも彼のことなど相手にはしなかった。

このぬいぐるみの中に覚せい剤があり、さらにいうとぬいぐるみ屋の正体は実は麻薬の売人であったのだ。だが主人公はそんなぬいぐるみたちを愛でて愚痴を漏らしながら生きていた。

そんな中、表向きのシノギであったマンションに新しい客が入る。さえない若手小説家とその妻だった。奥さんは主人公を心底キモがる。ちょっと可哀想だ。

そして、主人公の母親は例の如く「あいつら売っちゃいましょー!」みたいなノリで誘拐を提案する。

(主人公はどうしようもない最低なクズだが、中年になっても実家にいないと生きてけず相手をしてくれる女すらまともにいない)

主人公母子はすさまじい手際の良さでバカ夫婦の嫁さんを拉致、薬物で精神をおかしくさせるとレイプしたり拷問したりしながらうだうだと生きていた。

当然夫にバレるのを阻止するために「甲斐性なしのあんたに失望しました、実家に帰ります」というウソの手紙を書いたことにして裏工作を図る、なかなかあなどれないやつだ。

しかし、そんな生活は長く続くことはなく……当然主人公の家にもガサが入り込んでしまう。そしてバカ夫婦の夫にも気づかれてしまい母親は殺される。売人の玩具屋は捕まり、ケツ持ちだったサンタも捕まってしまう。

逃げる主人公は警官を一人しとめることに成功するが‥‥バカ夫に追い詰められ転落死をする…とここまで書けばありきたりな映画だがオチはかなりおもしろい。

(どこがありきたりやねん!)

死ぬ直前ギリギリ意識があった主人公のもとへ、ずっとかわいがっていた犬の玩具がやってくる。まるで意志があるかのようだ。


「俺はもうおしまいだ…一緒に逝こう」


死にゆく主人に近づいた犬の玩具は彼の手に触れると、まるで主人と同じように息絶えたかのように電池切れを起こし動かなくなってしまう。バックには繊細なピアノが流れていく…。まるでパトラッシュとネロのようだ。

そして主人公は死んでいった。

彼は救いようのない人間の屑だったが、それでもこうしなければ生きていけない人間でもあったのだ。

退廃的なノワールだったのが、最後の最期でファンタジーになる。このエンディングの悲壮的な感じがたまらなく好きだったりする。

確かに奇天烈な映画だが、障害者の雇用が結局こういうアウトロー系がひろっていくという現代社会の悲しさと限界も描いている。こういう光景は割と普通にある。

古い風俗街に行くと、呼子や客引きとして口のうまい身障者がいたりすることがいまだにあったりする。売られているのはどこから来たのかわからないような娘ばかりだ。

本作は1970年代に生まれた映画だが、その時代から今まで何も変わっていないのだ。結局、しょせん障害者雇用の限界を痛烈に風刺した映画の一つだといっていいだろう。

結局、社会がいくら障害者にも雇用の機会を・・・といっても現実はこの程度でしかない。理想を語るだけしか能がない人間ではこれを理解することは到底不可能だろう。

さらに主人公を演じたトルベン・ビレはデンマークでは有名な小人症の俳優であったらしく、本作では小道具の設置や装飾までしていたそうだ。才能あふれる人間に障害は関係ないのだろう。

演技もかなり気合が入ってる。ただの変態キャラでは終わらない悲哀と不気味さが入り混じっている。70年代風味だが、一流のホラー映画としても機能しているだろう。残念ながら、長生きすることはできず47歳の若さでこの世を去ってしまった。

だが、ピーター・ディングレイジやワーウィック・デイビスなど名だたる小人症俳優たちの大先輩といっていいだろう。

ただの見世物小屋的な映画では本作が終わらないのはそういったセンスのキレ味があるからだといえる。

こういった映画を本当は意識高い系の人にこそみてほしいが、連中はみないだろう。せいぜいお涙頂戴映画しかない。こういう下世話な物を見て初めて障害者の現実を知るというものだ。


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