デンマークで出会った、陶芸の道。若き職人が挑んだ「Japan Expo」
こんにちは。ガッチ株式会社広報部です。
私たちは、福島県双葉郡浪江町の大堀地区で約350年間生産されてきた国の伝統的工芸品「大堀相馬焼」松永窯の4代目である松永 武士が始めた会社です。日本各地の伝統工芸品の魅力を、世界に向けて発信する商社・メーカーとして活動しています。
7月にフランス・パリで行われた日本文化の総合博覧会「Japan Expo 2024」に、「FUKUSHIMA KAWAII KOGEI」として、現代美術家・増田セバスチャン氏の特別監修で、15社の工芸事業者が参加しました。
松永窯は、相馬の武家文化と「KAWAII」を融合したアートピース「武士」を発表。飾りつけを担当した釣谷華子さんは、海外で焼き物の魅力に出会い、修行の道へ飛び込んだ職人です。「Japan Expo 2024」を経て、釣谷さんが見ている景色を伺います。
デンマークで、日本の陶芸の魅力に出会う
――そもそも、陶芸職人を志したきっかけは何ですか?
大学卒業後に銀行で3年間働いた後、デンマークのフォルケホイスコーレに留学しました。そこは「人生の学校」と呼ばれていて、どんなことをして生活していきたいか、何が好きなのか、暮らしながら探す学校です。手芸、アート、木工、農業など、様々なことを学び、一番楽しかったのが陶芸でした。
――日本ではなく、デンマークで陶芸に出会ったんですね。
逆輸入ですよね(笑)。日本が焼き物の本場であることを海外で知りました。デンマークの陶芸学校に入学しようと思ったんですが、向こうで教わる知識は日本のことが多い。それなら日本で学ぼうと学校を探すなかで、大堀相馬焼の地域おこし協力隊の募集を見つけました。
それまで私は、大堀相馬焼を知りませんでした。しかも、美濃焼や有田焼など他の焼き物の産地がどこにあるかもわからない。ほぼ初心者の状態で、2022年10月に福島へ移住してきました。
思っていた以上に楽しい、職人の修行の日々
――着任して2年経ちますが、普段はどんなお仕事をされているんですか?
「松永窯」と「いかりや窯」で月の半分ずつ働いています。「いかりや窯」では、箸置きを制作したり、ろくろ職人が作った器をなめらかに仕上げる「バリ取り」の作業をしていて、「松永窯」では、ろくろで商品を作ることも増えてきました。
ろくろは難しいんです。力が入りすぎて穴が開いてしまったり、指が触れてうつわのヘリが落ちてしまったり、最初は全くできませんでした。仕事のあとに練習を重ねて、少しずつ上手になってきました。
――職人の修行は、厳しいイメージがあります。
想像していたイメージと違って、すごく面白いですよ。会社で働いていた時は「今の仕事が嫌だけど、他にやりたいこともないしな……。」と思っていたんです。今は「こういうことをやりたかったんだ!」と毎日感じます。畑の野菜をおすそわけしてもらったり、窯元のみなさんも優しいです。
パリで開催される「Japan Expo 2024」への挑戦
――「武士」の制作は、いつごろ始まったのでしょうか?
今年の春ごろ、ガッチ株式会社の松永さんから、7月に「Japan Expo 2024」に参加することを聞きました。「せっかくなら、作品製作をしてみたらどうか」と、ろくろ職人の吉田くんが形を作り、私が飾りつけを担当することになったんです。
「KAWAII」というコンセプトをどう形にするか、悩みました。好きな花のモチーフで一つ目を製作して、二つ目は松永さんがAIで作成した参考画像をもとに、相馬藩の家紋を入れてアレンジしました。
――技術的な難しさもありましたか?
粘土の乾燥との闘いでしたね。1日で終わる作業ではないので、土が乾かないようにタオルを被せて、霧吹きで湿らせながら作業をします。でも水をかけすぎると、器がひび割れてしまう。一つ目はうまく行ったんですが、二つ目はフランスへ運んでいる途中で割れてしまいました。
――お客さんの反応はいかがでした?
大好評とは言えなかったですね……。「Japan Expo 2024」で感じたことは、これが売れると予想していたものと、実際に求められるものとの乖離でした。ヨーロッパでは丁寧に作られたものであれば評価されると私は考えていたのですが、そうではなかったです。
その反面、予想もしていなかったものが評価されたりします。言葉の壁もあるし、工芸品の良さを伝えるためには、まず注目を得ることが必要なのかもしれない。伝統工芸を海外に発信するときには、なかなか自分の予想通りに行かないこと。その現実を目の当たりにしたことは、職人として良い経験でした。
手づくりの焼き物の魅力を、海外へと発信したい
――これからどんな作品を作っていきたいですか。
伝統にとらわれすぎず、大堀相馬焼らしさを大切にしたものを作っていきたいです。パリでは、その良さを上手に伝えきれなかったのですが、私が思う大堀相馬焼の魅力は、人の手で作られていることだと思うんです。
焼き物を知らない所から大堀相馬焼の修業をして、手作りのすばらしさを感じるようになりました。人の手で作られている焼き物は、全国にそんなに残っていない。その魅力は、お客さんだけじゃなく、窯元も十分に気づいていないのかもしれないと思います。
ーー手づくりの焼き物の良さを伝えていくんですね。
はい。作り手としてだけじゃなく、焼き物の魅力を海外へ発信する仕事もしたいです。それは、海外で陶芸に出会い、パリでの経験を経て強く感じたことです。海外の小売店や飲食店に、手作りの器を紹介する仕事に携わりたい。
地域おこし協力隊の任期は3年。あと1年あります。これまでの2年は技術を学ぶこと、窯元のお手伝いを中心に従事してきました。これからは、将来に向けた活動も少しずつ進めたいと思っています。
(text.ガッチ広報部 荒田詩乃)
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