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地獄の人事異動

「災難だったな。地獄の中の地獄で有名だぞ、あの部署」

仲のいい同期が肩を叩きながら慰めてくれた。

「作業量がべらぼうに多いって噂だぜ。大丈夫なのか」

「大丈夫じゃねぇよ。でも仕方ない。俺が悪いんだ」

そう言って大きめのお猪口を煽る。

「ほんと。上のやつも責任取ればいいのにな」

「そうだけど。ちゃんと規定の人数を誘導しなかった俺が悪いんだ」

「まぁお前の仕事は単調だったもんな」

そう言って同僚は高らかに笑った。俺も一緒になって笑った。


その翌日。

「本日からこの部署でお世話になります。よろしくお願いします」

しかし、誰からも返事はない。皆が忙しそうに行ったり来たりしている。

何も出来ずに戸惑っていると、前を通った1人が俺に気付いた。

「おめぇ、今日からの奴か」

「はい。よろしくおね……」

「着いてこい」

それ以上は何も言わずにスタスタ歩いて行った。俺も必死になって着いて行った。

「1回しか言わねぇぞ!おめぇの仕事は一つだけだ!それを今から見せてやる!見て覚えろ!」

そんな無茶苦茶なことがあってたまるか、と思ったがそいつが向かう先には小さな子供がいた。

その子供は気力を失ったように目の焦点はあっておらず、ただ機械的に石を積み上げていた。

そいつはその積み上がった石を蹴っ飛ばした。子供は少し反応を示したが、すぐにまた石積みを始めた。

俺は何が行われたかわからずにそいつの方を見ると、そいつはまた歩き始めていたから慌てて追いかけた。

「あの!仕事っていうのは……」

「あ?言ったろ!今やったことをおめぇもやればいい」

「やったことというのは、積み石を蹴る、ということですか」

「そうだよ!それ以上でもそれ以下でもねぇ!分かったらさっさと1人でやりやがれ!」

そういうとそいつは俺を置いてこの延々と続く河原を歩いていった。


ここは地獄二丁目・賽の河原。ここには親より早く死んだ子供たちが連れてこられ、石積みを永遠にさせられる。

ここで働く俺たち鬼の仕事は永遠にその積み上がった石を蹴り崩すというものだ。

楽に聞こえるかもしれないが、これがとんでもなくきつい仕事だ。

ここ何年も不届きな子供たちが増え、おかげでこの河原には人が溢れ返っている。

溢れ返っている、とは少し語弊がある。どうやらこの空間は無限でどれだけ人が連れてこられようが隣の子供との距離はずっと変わらない。ただ、俺たちの移動量だけがどんどんと増えるだけだ。


一応、いつまでもここにいる訳では無い。なんでも噂では仏さんかどなたかが許せば地蔵菩薩とか言う仏さんが連れて行ってくれるらしい。

ただ、さっきも言ったように子供たちは増え続けている。地蔵菩薩の仕事も増えているだろう。ご苦労さまはお互い様だ。


そんなわけで子供たちは朝から晩まで石積みを続け、俺たち鬼は朝から晩までその石を蹴り崩す、という訳だ。これは確かに地獄の中の地獄だ。


ちなみに俺が前にいた大釜の谷はもう少し楽だった。

その谷には大きな釜があって、朝から晩までお湯がグツグツと煮えたぎっている。その火や水がどこから来るのかは知らないが、とにかく俺は順番に人間をそこに突き落とせばよかった。

まぁそこそこの罪を重ねたヤツらが送られて来るらしい。上から5番目に厳しいって話だ。

まぁ楽ではあったが、人間の泣き喚く声ががキツイもんでそこら辺の石っころを耳に詰めて仕事していた。

そのせいで上から指示を聞き漏らし、余計な奴まで突き落としてしまった。おかげでこの河原に左遷された、という訳だ。


やがて夜になった。俺たちは仕事を切りあげ、帰路に着く。

子供たちはどうしてるのか知らないが、俺たちがいない間は石を積まなくていいらしい。だからどうだ、とは思ったが別にどうでもいいことだ。

俺は今日のことを話そうといつもの呑み屋で同僚と待ち合わせをしている。

俺は少しの憂鬱を胸に閻魔横丁に足を向けた。この地獄の人事異動は始まったばかりだ。


〈完〉

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