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寒さ

寒さ、と一言で言っても様々な寒さがあると私は思っている。

私には好きな寒さがある。『寂しい寒さ』だ。

休日明けの月曜日。鉄筋コンクリートのオフィスに朝早くに1人、もしあなたが学生なら講義室でもいい、部屋の奥の窓際の席に腰掛ける。

エアコンの唸り声は聞こえるが、雪男の腹の中に入ったかのように冷たく重たい空気が少しずつ自分の体に染み込んでいく。

手の親指の付け根辺りが少しずつ薄く紫色になり始め、ものを書いたりパソコンを叩いたりするのが難しくなってくる。

気づけば肩に変な力が入って、手は股の間か太ももの下に挟んで暖める。時々、ブルブルッと体に力を込める。

肌に触れてる空気は暖かいのか冷たいのか、室内は風がないからわかりにくい。ただ、体が表面だけでなく筋肉、血液、細胞までが冷えていくような感覚に包まれる。

やがて、やっとエアコンが冷気を暖め始めて窓の向こうで高くなり始めた朝日がそれに加勢する。

その瞬間、冷えきっていて震えている体が少しずつ暖かくなっていく。そんな瞬間が私は好きだ。寂しくも、しかしもうすぐ同僚や友人が来ることや部屋が暖まりつつあることに対する安心感がある。

えっと、何の話だったか。そうだ。寒さの話だったか。

「おい!聞いてるのか!」

今私は上司から遅刻のことで怒られている。遅刻は悪いことだ。怒られて当然である。

ただ、感染対策とかなんやらでこの真冬に窓を開け放たれている会議室で怒らなくたっていいではないか。風が吹き込んできて寒いったらありゃしない。

……あぁ、だめだ。向こうは顔を真っ赤にして怒ってるから寒いなんて思ってないな。長くなりそうだ。

〈完〉

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