マガジンのカバー画像

短編集

11
運営しているクリエイター

記事一覧

ガン横の2、3分程度で読める短編ミステリー「困惑させる子供」後編

茂雄は以前全校生徒1300人程いるマンモス小学校に在籍し、ひとクラス40人の生徒を受け持っていた
それが今では1クラス3人足らずの廃校寸前の小学校に赴任しこのクラスを受け持つ事になるなんて思いもよらなかった
そのクラスで給食費が盗まれるという事件
なんとやりがいのない事件だ、昔は40人の生徒を操り支配していた茂雄
3人などちょろいもんだ
茂雄は唇を舐め、戦闘態勢に入った

「よーし!ホームルームを

もっとみる

2.3分で読めるミステリー短編「困惑させる子供」の校閲

カタンカタントントンカチャ
大田原茂雄は今日使う資料をバックに詰め家を後にした
海風が顔にあたり少しばかりの潮の匂いが茂雄の鼻をついた
高潮が断崖絶壁に打ち付け飛沫をあげ無数の海鳥が舞っている
道中茂雄はもうすぐ卒業式だなと感慨にふけりながら徒歩20分のところにある小学校へ到着した
職員室で授業の待機をしていると、同職の南先生が不敵な笑みを浮かべながら茂雄に歩み寄って来た

「あなたの生徒が給食費

もっとみる

ガン横の10秒で読める超短編「断捨離の悪夢」

人間は何もすることがなくなると片付けをしたくなる生き物である
あー暇だ暇だやることがひとつもありゃしねぇ
こういう時は断捨離しかねぇな
洋服もいらない、飯もいらない、ドアもいらない、窓もいらない、もう風呂もいらねぇか
トイレもなんだかいらなくなってきたな
もう夫も捨てちゃおう

そして何もなくなっちゃった

捨てる女

ガン横3分程度で読める短編「昼休み」後編

「うちのチャーハン異次元に飛ばしてるんです」

何回頭で反芻しても聞いたことのない言葉だ

「うちの旦那未だにオシッコ便器の外に飛ばしてるんですよ!」

これは何回か聞いたことある

「うちの息子マラソン大会まだ序盤なのに最初から飛ばしてるんですよ!」

これは何度も聞いたことある

「うちの彼氏自分が悪いくせにさも相手が悪いかのようにガン飛ばすんですよ!」

これはあまり聞かないがなんとなくある

もっとみる

奇妙短編「昼休み」

暑い
暑い
うだるような暑さだ
本当にジリジリと音を立てているかのような陽が頭上から放射線を僕のアタマに容赦なく当ててくる。
ハンカチで何度となく額を拭くも、毛穴からは滝のような汗が容赦なく首元まで垂れてくる。
誰か僕の首元で滝行ならぬ汗行でもしに来ないかと思ってしまう。
朝からNHK集金作業で散々住民にうやむやにされること10件、暑さのせいもあり精神的にも肉体的にも僕は参っていた。
さぁもう一件

もっとみる

宮沢賢治雨にも負けず風回転寿司

「蟹にもマケズ」

蟹にもまけず、トロにもまけず、サバにもサーモンにも負けぬ、丈夫なツブツブをもち

味はなく
決してイカらず

いつも静かに回っている
1日五、六食分握らされ
トロと少々のカニの間にはさまれ

あらゆる寿司ネタを
自分をネタだと思わずに
よく回りよく乾き
そして忘れられ

ホールカウンターの寿司職人の
小さな手のひらにわさびを付け

もっとみる

ガン横の2.3分程で読める短編恋愛小説最終章2

妻が死の直前に書いた手紙にケンジは目を落とした。

「あなた・・・
これがわたしがあなたに送る最後の手紙になります
今まであなたに言ってなかったことを洗いざらい言います」

ケンジはこの手紙の序章を見て息を呑み込んだ

「おい、おめー」

おい、おめー?ケンジは一瞬自分の目を疑った

「いい大人が何も出来ねぇってどういうことだよ、なんでトイレの漂白剤を食器に入れちゃうんだよ、なんとなくこれは危険だ

もっとみる

ガン横の2.3分程で読める短編恋愛小説最終章

ケンジは妻が残したきめ細かい美しい字体のメモ書きを丹念に見回した。
そこにはケンジが一人で生きる為に必要な事柄が丁寧に綴られていた。
冷蔵庫には「冷蔵庫の扉は押すのではなく引けば開きます」
キッチンには「右のコンロは火力が強いので中華に向いています。左のコンロは弱火なので煮物に向いています。最もあなたは料理などしないでしょうけど万が一料理をする事があったら参考にしてください。後、火をつけたら必ず消

もっとみる

ガン横の2.3分程で読める短編恋愛小説後編2

ケンジはドアノブを回し扉を開いた。
薄暗い玄関には乱雑になったケンジの靴と整頓された亡き妻の靴が並んでいた。
妻の靴は今にも外の世界に飛び出していきそうな気配を漂わせ凛としていた。
どうせなら自分の靴も直してくれたらいいのにと悪態をつきそうになったが誰にも届かない悪態ほど無味なものはないと逡巡しやめた。
なんの活気もない薄暗い伽藍堂とした廊下を軋ませながら歩き、ケンジは妻の部屋へと赴いた。
部屋の

もっとみる

2.3分程で読める短編小説後編

西日の残滓がケンジのもつ妻の骨壺を照らしていた。
鼻の奥につんと来る冬の匂いとともに悲しみが混じり合い目頭に熱いものが込み上げてきた。
葬儀での仮面お酌の振る舞いで仮面が溶けドロドロになった悲しみのダムが決壊し
齢60にもなる男が玄関前にへたり込みおんおんおんと奇怪な声をあげケンジは赤ん坊のように泣きじゃくった

おんおんおんおん
おんおんおんおん
おんおんおんおーん
おんおんおーんおーん
おんお

もっとみる

がん横の2、3分程で読める短編小説 

妻である
田辺あつこが死んだ
それはあっけなく、あっさりと、この世になんの未練もないような最後だった。
あつこの顔上には夫の田辺ケンジの顔があった。
苦労人のケンジだったせいか60歳にしてはシワが多くそのシワをさらにしわくちゃにしてそのシワを伝って涙が無秩序に流れていた。
それはまるで上空から見た四万十川のようだった。

四万十川は最後の清流と呼ばれていて、全長196キロメートル、四国最長の川だ

もっとみる