アスペルガーの恋 〜M氏との出会い〜①

2015年夏

私がM氏と初めて会ったのは渋谷のとある中華料理店だった。
大学の卒業から2年近く経過していた。

同じ大学に通い同じ大講義室(何百人単位の座席がある)で授業を受けていたにも関わらずツイッターでしか繋がっていないという奇妙な関係性。

数年にわたり会話し続けたにも関わらず顔を見せることも会うことも渋っていた私との初対面だった。

オフ会なんて言葉も当時から使われていたみたいだが私にはまだまだ聴きなれなかった。

いつも遅刻しがちだが今日も遅刻した。

財布忘れた事を駅で気づいたと言い訳してM氏に誤りのメッセージを入れる。

30分近く待たせてしまった。

走って店に入ると店員に二階に案内される

初めましてと声をかけると

写真でみたままの「顔」をあげた。

私の顔を見るなり少し驚いたような表情をするM君。

「ごめんなさい待たせてしまって」

「あー全然いいよいいよー」

これが2年半ネットで会話し続けた私たちの初めての「リアルな会話」だった。

もう後戻りはできない。

私は用意したセリフをテンポよく会話に当てはめていった。
何気なく見える会話はシナリオ通りに弾み、M氏とはすぐに打ち解けた。

M氏の左手の薬指には、ツイッターで絡み始めた学生時代には、当然はめていなかったであろう指輪がはめられている。

ー#同世代、#若い男、#体育会系、#既婚者ー

彼のまわりには、私には縁のないハッシュタグが幾つも幾つも、ついているように見えた。

「めちゃくちゃ可愛いし話してて楽しいのでまた会いたい」

帰宅した後、ツイッターのメッセージにはたしかにそう送られてきていた。

これはさっきまでの雑談の素直な感想なのだろうか?それとも世間でよく言う社交辞令ってやつなのだろうか?

とにかく、私が「問題のない私」を演じ切った成果はそのメッセージが物語っていた。

人は変わる。その人の努力次第でいくらでも変わっていける。
大学生になった頃の私はそう信じていた。いや信じ続けようとしていた。

でも生まれついた一生を変えることができない運命もあるんだ。
そのことも当時24歳になろうとする私は嫌という程経験してしまっていた。

私が今まで何を積み上げようと、いつかそのことが露呈してしまう時が必ずきてしまう。

その前にうまく"ここ"から逃げ切らなくてはいけない。

絶対にうまくやらなくてはいけない。

そう覚悟を決めてスマホの電源を切った。
心の隅には靄のように不安が漂いはじめていた。

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