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【長編小説】第8次少女大戦記

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これはお化けと戦う女の子たちのお話。戦闘少女と言うのかな。お化けは10年ごとに、この国にやってきた。そのたびに女の子たちはお化けをやっつけた。 でも、10年たったら前に戦った女の…
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2024年5月の記事一覧

第1章 祝武子の場合 第1節 1945年8月

あの戦争が終わった時、祝武子はまだ10歳だった。1945年8月。ちょうど誕生日を迎えたばかりだった。良く理解はしていなかったけれど、武子は戦争に関するすべての物を見ていた。何でも記憶してしまうお年頃だったから、世の中が手のひらを返すように変わったのも、すべて見て、記憶してしまった。大人って、こんなものかと思った。学校のお勉強は出来る方だったし、本を読むのも好きだったから、ちょっとナマイキな子だった

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まえがき

私の名前はイスマエルとしておきましょう。いずれ正体は明かしますので、ちょっとだけガマンしてつき合ってね。

これはお化けと戦う女の子たちのお話。戦闘少女と言うのかな。お化けは10年ごとに、この国にやってきた。そのたびに女の子たちはお化けをやっつけた。
でも、10年たったら前に戦った女の子は大人になっちゃうから、世代交代して新しい女の子が戦う。どうして女の子なのか、どうして私たちだったのか、それは分

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第1章 祝武子の場合 第2節 巫女学校の日々

巫女の修行は、ひたすら暗記もの、暗記もの。お経やら、祝詞やら、ご詠歌やら、意味は分からなくても良いから「うたえ」と言われたわ。ただ暗記するんじゃなくて、「経文に入り込め」と。「これが最後のお祈りなんだと思って手を合わせれば、自然と心はこもるもの」とも言われた。武子の知覚の扉の内、開くのは、音と、においと、味と、手ざわりの四つだけ。余計な物が見えない闇の世界って、実は巫女修行に向いてるの。五感の一つ

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第1章 祝武子の場合 第3節 海からの襲来者

その頃、アイツがやってきたの。海の中から、まっ黒い化け物が。口から火を吹く、大きな大きな黒い牛。いや、牛みたいな形をした物。牛鬼。

あの怪物は人を踏みつぶし、武子が住んでた海辺の町を焼いたの。戦争から5年たって、ようやく建てた家を焼いた。少しは物が並ぶようになったお店も焼いた。満州から一人で引き揚げてきた女の人が死んだ。シベリアから帰ってきたばかりの男の人も死んだ。武子はそれを自分の目で見なくて

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第1章 祝武子の場合 第4節 牛鬼と踊る

舞装束を着込んで、私は戸板の上に座布団しいて正座した。そのまま戸板ごと運ばれて行ったの。戸板は、おみこしの代わりと言うわけ。その内、みんながザワザワし始めたんで、牛鬼は近いな、と私は思った。戸板からおりて、そこから歩いた。目が見えないのに。

「お養母さん、短い間だったけど、どうもありがとう。」

お養母さんって、養い親の巫女さんのことね。さすがに、お別れのあいさつだけは、ちゃんとしたわ。不思議と

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第1章 祝武子の場合 第5節 キツいリアクション

3日後、お布団の中で私は目を覚ました。私はお養母さん(巫女さん)に介抱されてた。牛鬼が消えたあと、私は泥んこのゾンビみたいになって、ふらりと祈祷所に帰ってきたんだって。なんにも覚えていないわ。体に力が入らなくて、2週間くらい寝てた。精がつくと言われて、卵ばっかり食べてた。

ひどい目にあったのは、それから。町の人たちが、誰も祈祷所に寄りつかなくなったの。私は化け物を従わせた化け物娘。牛鬼の嫁と言う

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第1章 祝武子の場合 第6節 闇よりも暗い世界

そんなある日、ふと口をついて出たの、「我は山に行く」って。山の中に樹齢なん百年かのご神木があるのは知ってた。そのそばの古い横穴(戦国時代の金の採掘跡)に、おこもりすると言い始めたの、私。正しかろうが、まちがっていようが、この道を行くしかないと、そう思い詰めてた。お養母さんは悲しそうな声で「分かりました」とだけ言った。

今思えば、ひどい娘よね。親公認の家出宣言みたいなものだもの。そもそもお養母さん

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第2章 金岡玲子の場合 第1節 宇宙よりの使者

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これはお化けと戦う女の子たちのお話。戦闘少女と言うのかな。お化けは10年ごとに、この国にやってきた。そのたびに女の子たちはお化けをやっつけた。
でも、10年たったら前に戦った女の子は大人になっちゃうから、世代交代して新しい女の子が戦う。どうして女の子なのか、どうして私たちだったのか、それは分からない。子どもだから、あんな風に戦えたんだと思う。子どもは手荒い扱いを受けても「自分は

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第2章 金岡玲子の場合 第2節 101人の戦闘少女隊

「あの宇宙人たちは、どうして日本なんかに、きたんだろう」と最初は思った。空飛ぶ円盤と言えばアメリカが本場じゃない。直接アメリカに行けば、もっと手っ取り早く片がついたかもしれないのに。

幽霊みたいにフワフワした体しか持ってない私に、出来るのはお祈りだけ。「無力なものね」と最初は悲観してたんだけど、「今回はどうも勝手がちがうな」と、すぐ気づいた。祈れば祈っただけパワーをもらえる。誰かが地上から、この

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第2章 金岡玲子の場合 第3節 本当の勇気とは

みんなの心から恐れを取り除くには、どうしたら良いのかしら。
「みんな」って、戦闘少女だけじゃなくて、地球人みんなのことよ。
「自分はどうなっても良いから、大事な人を守りたい」と言う決意が必要なの。
「こんな身が裂けるような思いをするのは自分一人でたくさんだ。他の人にはこんな悲しみ、こんな喪失感を味わわせたくない。そのためなら、どんなことでもする」と言う決意が、立ち上がる勇気になる。祈りが力になる。

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第2章 金岡玲子の場合 第4節 踏みとどまったのは5人だけ

戦闘組織の形が出来て、まだ一週間たたない内に、戦闘少女101人の内、96人が脱落しちゃった。特に宇佐美三姉妹に抜けられたのがイタかった。これで私が考えてた作戦は不可能になった。

彼女たちが抜けた理由は「大人に止められたから」。保護者や学校の先生だけならまだしも、警察や児童相談所まで出てきたんだって。児相がきたってことは、非行少女扱いされたってこと。
そりゃ、やめたくもなるわ。
私が甘かった。隠し

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第2章 金岡玲子の場合 第5節 造反

その内、この不良娘たちは、頭が痛いとか、熱があるとか言って、サナギみたいに寝込んじゃった。サナギの中から出て来るのは白い蛾なのかな。黒い蝶なのかな。私はこの5人の、「何かに復讐してやりたい」と言ってるような目つきが怖かった。

殴られた相手に殴り返したら、10年たたない内に殺し合いになる。川をはさんで憎み合うだけの関係になる。勝っても負けても、川の向こう側にいる人たちを見捨てることになる。敵に対し

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第2章 金岡玲子の場合 第6節 小さき者の死

そのあと、円盤は日本中に現れた。
ただし、一つか二つでやってきて、ちょっとだけ攻撃して、パッと消える。
仕返しだったら、もっとハデにやるはず。警告の積もりね。

ある海辺の町で、渡し船が円盤に攻撃されて沈没し、その県で初めての死者が出た。小学生だった。
「まいったな」と私は思った。1,000人の死者を、人は4ケタの数字としか思わない。驚いてはみせるけど、すぐ忘れてしまう。
でも、一人の小学生の遺影

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