第2章　金岡玲子の場合　第3節　本当の勇気とは

みんなの心から恐おそれを取り除くには、どうしたら良いのかしら。
「みんな」って、戦闘少女だけじゃなくて、地球人みんなのことよ。
「自分はどうなっても良いから、大事な人を守りたい」と言う決意が必要なの。
「こんな身が裂さけるような思いをするのは自分一人でたくさんだ。他の人にはこんな悲しみ、こんな喪そう失しつ感かんを味わわせたくない。そのためなら、どんなことでもする」と言う決意が、立ち上がる勇気になる。祈いのりが力になる。

私たち戦闘少女だけじゃなくて、みんなで円盤に勝つ。そのためには、どうしたら良いの？

総そう監かん督とくの宇う佐さ美み姫ひめ子こ（宇佐美三姉妹の長女）が、おもしろいことを言った。
「実は少し前に、みんなで力を合わせて円盤を追い払はらった村がある」と言うの。

北の海の小さな漁村の話だそうよ。その村はもともと女性が強かった。海女さんの多い村で、女が稼かせぎ手だったからよ。村には「空からきた化け物が人を殺す」という言い伝えがあったため、最初に円盤がきた時もパニックを起こさずに済んだ。もう一つラッキーだったのは、その村は今いま時どき、珍めずらしい、信しん心じんに厚いお土と地ち柄がらで、お寺のお坊ぼうさんが信しん頼らいされていたこと。だから、村中の人がお寺に集まった。お坊さんは火を焚たき、淡たん々たんと祈った。村の女たちが結束したものだから、ダンナさんも子どもたちも大人しく従い、みんなで祈った。自分だけ逃にげようなんて人間は一人もいなかった。そりゃあ、逃げたくても逃げられなかったでしょうね。結局、円盤は何もしないで立ち去った。面めん倒どうな相手からは逃げるみたい。

「どうして、あなたがそんなことを知っているの？」と宇佐美姫子に聞いたら、「たまたまその村にペン・フレンドがいた。今回の襲しゅう撃げき事じ件けんで、何となくピンときたので、村の集合電話で呼び出してもらったら、案の定、彼かの女じょは戦闘少女だった。大した混乱も、犠ぎ牲せいもなく、村が一つなれたのは彼女の働きだった」のだそうです。恐おそれいりました。

また、宇佐美姫子に、こうも言われちゃった。
「肝かん心じんなのは、みんなが心を一つにすること。左右の手足がバラバラに動いたら、体は前に進めない。戦闘少女は、列の一番前で巣を守る、兵隊アリに過ぎない」んですと。

うーん。9年前、私は一人で牛うし鬼おにと戦い、そのあと、みんなからポイ捨てされちゃった。宇佐美姫子は、人に教えられなくても、徒党を組むことを知ってる。集団戦の利を知ってる。こりゃあ、あとからきた女の子たちに乗り越こえられちゃったわね。
「これなら何とかなるかな」と、その時は思ったんだけど、「私はまだまだ甘あまい」と、すぐに思い知らされることになったの。