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朗読台本「飛べない龍」

2024年は辰年。ということで「龍」をテーマにした、昔話風のファンタジーを書きました。ぜひ、読んでいただけると嬉しいです。


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朗読データ

✓朗読時間 5~10分程度
✓ジャンル:ファンタジー

あらすじ

龍商人のおじいさんは、悩んでいた。他の龍がどんどん売れていく中、他の龍に比べ見た目は美しいが空をとぶことすらできないピンヤーは、全く売れないのである。しかし、あるとき、ひとりの少年がピンヤーを買いたいと申し出る。

正直、ピンヤーの餌代すら惜しくなっていたおじいさんは、タダ同然の金で売る。少年はピンヤーに一言声をかけると、龍はどこまでも高く空を飛んだ。その様子を、見つめる商人。少年は「君を戦争に連れていくことはない」と告げたのである。

朗読台本「飛べない龍」

むかしむかしあるところに、ピンヤーという名前の美しいドラゴンがおりました。しかしピンヤーは、ドラゴンの市場に出ても、全く売れません。商人のおじいさんが言いました。

「ピンヤー、このままじゃ永遠にお前は売れない。いい加減、空を飛んでくれないか?」

おじいさんの言う通り、ピンヤーは空を飛べないのです。この世界では、ドラゴンは戦争に勝つために必要な生き物です。ドラゴンが空を飛び、炎を吹けば、街は火の海になります。そうすると、戦争に勝ちやすくなるのです。

ドラゴンを何頭持っているかで、戦争の勝ち負けが決まるとも言われています。

「そのドラゴン、ちょっと見せてもらっていいですか?」

1人の美しい少年が、おじいさんに尋ねます。少年は、とても綺麗な服を着ており、見ただけで身分が高いことが分かります。

「見るのは構わないがね。あとで文句を言われても困るから先に言っておくが、そいつは空を飛べないよ」

おじいさんが言いました。少年はピンヤーの体中を見てまわり、さらにあちこちに触れています。

「これは美しくて素晴らしいドラゴンですね。名前はなんて言うんですか?」
「ピンヤーだ」
「ピンヤーか。いい名前ですね。おじいさん、私にピンヤーを売ってください」
「さっきの話し、聞いてたか? こいつは空を飛べないんだぞ?」
「えぇ。聞いてましたよ。問題ありません」

少年がそう言うと、おじいさんはタダ同然の値段でピンヤーを売りました。おじいさんにとってピンヤーは、売り物にならず、食事代ばかりかかる厄介者だったので、居なくなってくれてスッキリしたというのが本当の気持ちなのです。

少年は、ピンヤーに何か話しかけているようです。ドラゴンは言葉を話しませんが、人間の言葉を理解するものもいるといわれています。

ピンヤーはどうやら、少年の言葉を理解したようです。そして身を沈めて、少年を背中に乗せます。その様子をずっと見ていたおじいさんは「何をやっているんだか。ドラゴンの背中に乗ってお散歩かい?」などと、嫌味ったらしい独り言を言っています。

しかし、そのとき、少年を背中に乗せたドラゴンは、大空へと飛び立ったのです。

「な、なんてこった……!」

おじさんは呆気にとられながら、ピンヤーが美しく空を舞う姿を見ておりました。

しばらくして、ピンヤーの背中に乗った少年が戻ってきました。おじいさんは、少年に尋ねます。

「なぜ、ピンヤーは空を飛んだんだ? なにか魔法でも使ったのか?」

すると少年は答えました。

「いいえ。私はただの人間です」
「それなら、なぜ……」
「ピンヤーにこう言ったんです。『私は君を戦争には連れていかない』と」
「どういうことだ?!」
「ピンヤーは、戦争が嫌いなんです。自分が空を飛び、火を吹けば、大勢の生き物が死ぬと思い、飛べないふりをしていたんです」

そうなのです。ピンヤーは空を飛べないわけではなく、空を飛ばなかったのです。自分が飛んで火を吹けば、多くの命が失われると分かっていましたから。平和を愛するピンヤーにとって、これほど悲しいことはありません。ですから「戦争には連れて行かない」と言ってくれた少年に心を開き、彼を背に乗せて空を舞ったのです。

「なるほどな。しかしドラゴンを戦争に連れて行かないでどうするんだ? ただ飯ばかり食って、何の得にもならないぞ?」

おじいさんは尋ねます。

「王宮の警備をお願いするつもりです」

少年は答えました。

「王宮……? あなたは一体……」

おじいさんが尋ねると、少年は少し照れくさそうに答えました。

「私はハオランといいます」
「ハオラン、さま……というと……」
「恥ずかしながら、この国で国王をしております」
「こ、国王さま……! こ、これまでのご無礼の数々、お許しください」

おじいさんは頭を地面に擦りつけるようにして、土下座をします。

「頭を上げてください。父が早逝(そうせい)して、急遽、国王になりましたから、まだ国民のみなさまに正式なご挨拶もできていないのです。それに、本来は私がみなさまに頭を下げなくてはいけないのです」

そう語るハオラン国王を、おじいさんは黙って見ています。

「国民のみなさまが居てくださるから、我が王国は繁栄しているのです。さぁ、どうか頭を上げてください」
「は、はい……」
「素晴らしいドラゴンを育ててくれてありがとう、おじいさん」
「い、いえ、こちらこそ……その……」
「それでは、私はこの辺で失礼します。ピンヤー、行こう!」

ハオラン国王は再びピンヤーの背中に乗り、王宮へと戻っていきました。

その後、王宮の警備役となったピンヤーは、日々、空を舞いました。

誰かの命を奪うためではなく、誰かの命を守るために飛んだのです。そのお陰か、この王国が戦争に巻き込まれることはなく、今もなお、ピンヤーは「平和の象徴」としてこの国の人々に愛されているのだとか。

おしまい。

がみのろま自己紹介

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