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おい、お前はどうなんだよ。

【連載】あれこれと、あーと Vol.10

私は写真集が好きだ。
ページをめくるたび、ぐわわっと作品が現れて毎回「おお!」と新鮮な驚きを味わえるし、じっくりなめるように見たり、食い入るように近寄って見たりしてもだれにも怒られない。展覧会では気が付かなかったことや見落としていたディティールも発見できたりして、楽しみが尽きない。

いつでも好きな時に写真家の目で見た世界を体感できるから、とても贅沢な鑑賞体験だと思う。印刷や装丁、構成にもこだわったものが多いし、写真家の世界観や思想がしっかり反映されているものなどは、是非とも手にしたいものだ。上質な写真集はそれこそ一生ものである。


どきりとする眼差し

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SIGNED
荷物
梁丞佑
Yang Seung Woo / “BAGGAGE”
禅フォトギャラリー
2016年に『新宿迷子』にて外国人として初めて土門拳賞を受賞した梁丞佑(ヤン・スンウー)。ある時、街中に佇むホームレスの人々が大事そうに抱えている荷物を目にした梁は、その中に彼らそれぞれの人生が詰まっているのではないかと想像し、実際に彼らに声をかけポートレートを撮影するプロジェクトを開始、60人以上を撮影したシリーズをこの程写真集としてまとめ禅フォトギャラリーより刊行する。
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彼らが大切そうに抱えている「カバン」には、きっと人生が詰まっているんだろうと思った。
でも、実際に覗いてみたら、
「そうでもなかった。」
と私は感じた。
きっと「カバン」それ自体がとても大切な存在なのだろう。
人生を旅する相棒として。 時には枕として。

東京都現代美術館で開催されたTABFにて、梁 丞佑氏の写真集と邂逅。運命的なものを感じて、この本をお迎えした。

梁氏が今回フューチャーしたのは、「街中に佇むホームレスの人々が大事そうに抱えている荷物」である。

これは私もずっと気になっていたことで、一体中になにが入っているのか、大切そうに抱えている「それ」が何なのか、ずっと知りたいと思っていた。

それらはとにかく大きくて、薄汚れていて、ぱんぱんに何かが入っている。紙袋とか、チェックのナイロンバッグとか、キャリーケースが多い印象だ。

もちろん中身を見ることなんてできないし、そもそも人の荷物の中身を興味を持つのは、浅ましいことで、悪い事のような気がしていた。でも気になってしまう。荷物はその人の内側が表れる。生々しさがある。そして、限りある空間に何を容れるかは、とてもクリエイティブな行為だなと思う。

「片思いの人と一緒になりたい」

写真集には、荷物を持つ人たちのポートレートと荷物の中身が写されていて、名前と子どものときの夢と今の夢が小さく記されている。

こちらに向ける眼差しがどれも鋭くて、どきりとした。笑みを浮かべている人も多いけど、ちょっと怖い。その人の内側がばばっと開帳されて、「おい、お前はどうなんだよ」と言われているようである。それだけ、迫るものを感じる。

被写体にこれでもかというほどバチバチにライトあてたような、鮮烈なあぶりだし。けど不思議と暴力的な感じはない。強いインパクトの中に優雅というか、上品で穏やな空気が漂っている。 陰と陽、聖と俗がまじりあって、その人のあわいが伝わってくるようだ。梁さんはやっぱり凄い。

人を写すということ、写されるということは、なんと濃密な行為だろう。そしてそれを、傍観者的に安全な場所から眺めて愉しむというのは、我ながら随分と良い身分だよなぁ、などとぼんやりと思った。

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