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業界のイノベーションは誰の手によって起こされるか

慣れや居心地の良さ、完成された利害関係など、業界の発展を妨害する要素は古い業界ほど多い、という話

先日、朝の習慣で読んでいた日経新聞のある記事に目が留まった。

「元横綱稀勢の里 早大大学院修了」

元横綱稀勢の里こと荒磯親方が早稲田大学大学院スポーツ科学研究科、修士課程を修了したそうだ。

修士論文のテーマは「新しい相撲部屋経営のあり方」だったそうで、業界の古い手法や慣習が今の時代にそぐわない面が多いことから大学院で一からスポーツの本質的な構造を学び、新しい時代に活かす取り組みを志すとのことだそうだ。元々研究熱心な性格もあり、食事やトレーニング、取り組みの審議にいたるまで、より効率的で時代に合った新しい相撲業界の構造改革を模索していくことの一助を担うだろう。

この記事を読み進めていて、素晴らしい志しに胸が熱くなる思いと同時に、どこかで聞いたような話だな、とすぐに自身が身を置く業界に少なからず同様の違和感を感じていたことを思い出した。

相撲業界とは比べ物にならないが、私のいる業界も古くは大正後期あたりから現在の業態が産声を上げ、およそ100年あまりの歴史を誇る。

高度成長期とともに発展し、世の中と同様にバブル崩壊とともに衰退していくのだが、私の感覚だとバブル崩壊以後、業界の本質的な構造はそれから30年間、ほとんど変わっていないように思うのだ。

その体質ができてしまったひとつに、倒産するほどお金に困っていない会社が多い、ということが挙げられる。よくある話だが、バブル真っ盛りの時代に、過分に余った資金で不動産を購入する、または社屋を建て直す際に、家賃収入を得られるような建物にすることで、バブルがはじけた後も本業の売上げが落ちたところで生活はひっ迫しない状態となり、業界の衰退を顕在化してこなかった要因になったのだ。

正確に言えば、業界の衰退は誰もが気が付いていたにもかかわらず、お金に困っていないため、本質に蓋をして表面上の問題提起の声を上げることでやり過ごしてしまったと言えるだろう。

私のいる業界にかぎらず、甘い汁を吸える業界や不当な利益を享受できる業界などは腐敗と言えども本質的な改革を推し進めるのはかなり困難なことになるだろう。

そこで活躍する現役の人間に影響を及ぼすも、一度味わった利己的な世界を易々と手放せるほどできた人間は多くない。

そこでNOを突き付けて、抜本的な構造をひっくり返すのはどれだけの気概が必要になるだろうか。ましてや相撲業界という歴史の古い業界でそれをやろうというのだから、その志しには感服する。

全ては現役の人間と、その先の未来のために改革の狼煙を上げたのだ。荒磯親方の真っ直ぐな気持ちが業界に風穴を開けることを期待したい。

崇高な自己犠牲を伴う、利他の精神が正しいイノベーションの核となる。



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