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理学療法士・ピラティスインストラクターが考えるオーバーヘッドアスリートの運動連鎖~上肢トレーニング編~

1.はじめに


前回は野球の投球やテニスのサーブのような、オーバーヘッドスポーツに対する下肢の評価の一例を紹介しました。

下肢・体幹の運動連鎖に重要な評価項目は、『片足安定性テスト』『Yバランステスト』『股関節の内旋可動域』の3つです。
今回は上肢・肩甲帯の安定性UPを目的としたエクササイズを紹介していきたいと思います。

それでは行ってみましょう!!

2.肩甲帯が及ぼす影響

肩甲帯周囲は様々な筋で囲まれており、自由度が高い関節となっています。その反面安定性が低下していると、肩などのケガのリスクをあげます。

この症状を肩甲骨運動障害(肩甲骨ジスキネジア:scupula dyskinesia)といいます。

投球動作やテニスのサーブの際に腕の挙上に伴い肩甲骨も動きます。
この時に肩甲骨運動障害が生じていると、肩甲骨運動障害がない群と比較して、肩の痛みを発症するリスクが43%も高くなるという研究報告がありました。

この肩甲骨運動障害は、肩甲骨の動きで主に4つの分類わけができます。
①肩甲骨下角の突出
②肩甲骨内側縁の突出
③肩甲骨の早期挙上
④上肢下降時の急速な肩甲骨下方回旋

となっています。

これらの症状が単独で起きるケースもあれば、併発しているケースもあるようです。
一見①と②は翼状肩甲の特徴によく似ているようですが、翼状肩甲は長胸神経の機能不全による静的な異常所見で、肩甲骨運動障害は動的な異常所見で見られるのが特徴です。

この肩甲骨運動障害は、肩の痛みの原因に関係していますが、判断するのは難しいかもしれません。。。

前述したように、実際に肩甲骨は周囲にたくさんの筋が付着しており、姿勢が変化するだけでも、肩甲骨の位置に影響を与えます。


姿勢の評価を考慮したうえで、紹介されていた臨床評価例をあげていきます。

徒手による肩甲骨の動きの補助テストとして、肩甲骨補助テスト(SAT)と肩甲骨後退テスト(SRT)の2つが紹介されていました。

・SATでは、患者が上腕骨をあげている時に、検査者が肩甲帯の下内側縁を外側および上向きに押しながら、内側上部縁を安定させます。このテストで陽性の場合は痛みは軽減されます。


肩甲骨補助テスト(SAT)

・SRTでは、片手で肩甲帯の内側縁を安定させ、患者は検査者のもう一方の手に対して腕を等角に上げるように指示します。この操作によって痛みの軽減がみられた場合は陽性となります。


肩甲骨後退テスト(SRT)

3.上肢の運動実践

 実際オーバーヘッドスポーツを行うアスリートに対して、上肢の運動連鎖におけるエクササイズはどのようなものがあるのでしょうか?

下記に紹介するエクササイズは、肩甲上腕骨と肩甲胸郭と体幹の活性化を目的としています。

過去無作為化された臨床試験で、野球を行っている群に対して10つのエクササイズを行いました。

テスト前後で比較した所、筋と筋持久力を10~14%向上させることを発見しました。

では、どのようなエクササイズがあるのでしょうか?実際にいくつか紹介していきたいと思います。


①90/90外旋運動
両腕を90°の外旋位から開始し、弾性バンドまたはチューブで抵抗を加えます。下記の図のように一方の上肢を外旋位に保持した状態のまま、反対側の上肢をゆっくりと内外旋を行います。
これを10~15回繰り返し、そのあと反対側も同様に行っていきます。これを1セットとして実施していきます。

90/90外旋運動

②腹臥位での水平外転運動
バランスボールの上に腹臥位となり、両手には重錘を持つことで抵抗を加えていきます。
腹臥位が難しい場合には膝をついてもいいかと思います。両上肢を水平外転した位置で保持するか、左右交互に水平外転を行っていきます。


腹臥位での水平外転運動


③90/90外旋エクササイズと片側スタンス
④サイドプランクと外旋エクササイズ

これらの2つのエクササイズはオーバーヘッドアスリートの従来の肩外旋運動をより強化する目的で行われます。
外旋運動に合わせてコアスタビリティにアプローチすることで負荷をあげる事が可能となります。

ゴムチューブの強度やコアに対する不安定性を変更することで負荷を変える事が可能と思います。
ただこれらのエクササイズの目的はどれも筋力を上がる目的ではなく、機能を賦活する事が目的だと思うので、REP数は10~15回と多い回数で出来る負荷量が適切だと思います。

90/90外旋エクササイズと片側スタンス
サイドプランクと外旋エクササイズ

4.まとめ

・肩甲骨運動障害は肩の痛みの原因となり、43%もリスクをあげる。

・肩甲骨運動障害の評価として、SATとSRTがある。

・肩甲骨運動障害に対して、肩甲帯・体幹の機能を賦活させるようなエクササイズが必要である。

最後にこの記事を読んで少しでも参考になりましたら、スキまたはフォローをよろしくお願いいたします♪

理学療法士・ピラティスインストラクター  辻川 真悟

参考・引用文献

・Step by Step Guide to Understanding the Kinetic Chain Concept in the Overhead Athlete

・Robb AJ, Fleisig G, Wilk KE, et al. Passive range of motion of the hips and their relationship with pitching biomechanics and ball velocity in professional baseball pitchers. Am J Sports Med.

・Day JM, Bush H, Nitz AJ, UHL TL. Scapular muscle performance in individuals with lateral epicondylalgia. J Orthop Sports Phy Ther.

・Rabin A, Irrgang JJ, Fitzgerald KG, Eubanks A. The intertester reliability of the scapular assistance test. J Orthop Sports Phys Ther.

・Kibler WB, Sciascia AD. Disorders of the Scapula and their role in shoulder injury. Springer 2017.

・DeMay K, Danneels L, Cagnie B, et al. Conscious correction of scapular orientation in overhead athletes performing selected shoulder rehabilitation exercises: the effect on trapezius muscle activation measured by surface electromyography. J Orthop Sports Phys Ther.

・Staker JL, Evans AJ, Jacobs LE, et al. The effect of tactile and verbal guidance during scapulothoracic exercises: an EMG and kinematic investigation. J Electromyogr Kinesiol.

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