見出し画像

理学療法士・ピラティスインストラクターが考えるハムストリングスの肉離れ予防方法


1.はじめに

サッカーやその他のスポーツでよくみられる、ハムストリングス(以下ハム)の肉離れ。 一度ケガをしてしまうと、プレー復帰までにかなりの時間がかかるため、大事な時期を逃してしまう恐れがあります。【文献①】

ケガ

インテルなど海外のプロサッカーの世界ではハム肉離れの予防として、ノルディックハムストリングストレーニングが主流です。ノルディックハムストリングストレーニングに関して、詳しく説明している過去のブログがありますので、そちらもぜひご参照ください。下記にリンクを添付しています。【文献②】

過去のブログURL☟


しかし、サッカーのように長時間にわたるスプリントやキック動作など様々な動きが必要とされる競技のなかで、本当に1つのトレーニングだけで十分に予防が可能なのでしょうか?

ハムの肉離れの予防をより確実なものにするために、今回紹介する『体幹トレーニング』を加えて行う事で、腰椎-骨盤帯の安定性が増しより効果的に肉離れを予防し安全にプレーを行う事が可能となります。【文献③】

なぜ肉離れが起こり、そしてその予防に体幹のトレーニングが必要なのでしょうか?
以下にその理由と方法を説明していきます。


2.なぜ、ハムが肉離れをおこすのか?

ハムは太ももの裏にあり、骨盤から膝にかけて付着している長い筋肉です。そのため、骨盤や体幹の動きによって大きく影響を受ける筋肉です。

ハムスト

現在の研究では最大スプリント時のハムの損傷リスクを調べる事は不可能です。しかし、スプリント中にかかる負担を軽減させるため、ハムには体重の10倍近いストレスがかかっていると推測されています。【文献④】

プレー動作のブレーキとして働くハムですので、キック動作やスプリント終末期により多くのストレスをかかえます。【文献⑤】

加えて前述したとおり、ハムは骨盤から膝にかけて付着しているため、『骨盤の前方傾斜の角度が増加(反り腰姿勢)になるとハムの緊張が増し、損傷しやすくなる』ことも発見されました。【文献⑥⑦】

画像3

そのため骨盤帯が安定していないと、ハムが引き伸ばされている状態が続き、損傷するリスクが増す事は容易にわかるかと思います。【文献⑧】

しかし、ただ単に骨盤を前傾(反り腰姿勢)にしなければケガを防げるのか?と、いう単純な事ではありません。骨盤の前傾(反り腰姿勢)を減らしてしまうとスポーツに必要なパフォーマンスが低下してしまい、充分に満足がいくプレーが出来なくなってしまうからです。【文献⑨】


あくまでも、骨盤帯を『安定させる』という事が、重要になっていきます。【文献⑩】


3.トレーニングの実践について

では、実際にどのような体幹のトレーニングが必要となってくるのでしょうか?その方法をこれから紹介していきたいと思います。


・正しいパターン

画像4

・今回はバランスボールを使用します。バランスボールの上に足を乗せます。
・股関節、膝関節は90度の位置にします。
・この姿勢が開始姿勢になります。

画像5

・膝の位置は変えないように、お尻を持ち上げていきます。
・お尻を持ち上げる順番は骨盤⇒下の背骨から順にベッドから離していきます。(腰を丸めるように行います。)
・恥骨を天井に向かって持ち上げるイメージです。(こうする事で下腹部に力が入ります。)


ここで少し解剖の説明です。上の説明文にある恥骨という部分は下腹部より下にある骨の出っ張りで、左右の骨盤をつなぐ部分になります。下の図でイメージできるかと思います。

画像6

画像9

・お尻を持ち上げたら、腰を落とさないように膝を伸ばしていきます。

画像8

・膝を伸ばしたら、腰の位置はそのままで膝を元の位置に戻します。
・膝を元に戻したら、背骨をゆっくりとベッドに戻し開始姿勢に戻ります。
・この流れを1回とし5~8回行いましょう。負荷量に応じて数セット行っても大丈夫です。


・誤ったパターン

間違い1

・お尻を持ち上げる際、腰が反ってしまうパターンです。骨盤⇒下の背骨の順番に持ち上げていかないと反り腰の状態となり、下腹部に力が入りません。

Inked間違い2_LI

・膝を伸ばす際、お尻の位置が下がるパターンです。この状態になると殿筋~ハムストリングスに十分な負荷がかかりません。(正しいパターンの3枚目と見比べるとお尻の位置が下がっています。)

この体幹トレーニングの目的としては、体幹を『安定させる』ことですが、ガチガチに固定するという事ではありません。ガチガチに固定してしまうと、満足のいくパフォーマンスが損なわれてしまいます。

安定した動作』を獲得する事が体幹トレーニングを行う上での、一番の目的となります。今回バランスボールを使用していますが、ストレッチポールなどでも代用が可能ですので、ぜひ試してみてください。

上記で述べてきたように、ハムの損傷予防としてノルディックハムストリングストレーニングに加えて、体幹の安定性の獲得により予防の効果がわかるかと思います。

ランニング中の体幹筋の筋活動量はハムの肉離れとの関係があります。短距離走中における体幹筋の筋活動量が多いほどフォローアップ中のハムの肉離れのリスクが減少したという報告もありました。【文献⑪】


トレーニングによる体幹の安定性の強化、特に多面的なプログラムは肉離れなどのケガの予防へと繋がり、また再発の防止にも繋がります。【文献⑫⑬】
長く、最適なパフォーマンスを発揮しプレーし続ける事が出来るようぜひ実践してみてください。

サッカー

4.まとめ

・ハムは骨盤から膝にかけて付着している筋肉で、体幹や姿勢によってかかるストレスが増減します。
・ハムは動作のブレーキとしても働きます。プレー中は多くのストレスを受けており、一度肉離れなどのケガをすると競技復帰するまでにも時間がかかります。
・骨盤の位置を安定させてプレーするために、体幹の動きを取り入れたトレーニングが必要となってきます。

理学療法士・ピラティスインストラクター 
辻川 真悟


参考文献
① Diagnosis, prevention and treatment of common lower extremity muscle injuries in sport – grading the evidence: a statement paper commissioned by the Danish Society of Sports Physical Therapy
② A. Silder, M.A. Sherry, J. Sanfilippo, M.J. Tuite, S.J. Hetzel, B.C. HeiderscheitClinical and morphological changes following 2 rehabilitation programs for acute hamstring strain injuries: a randomized clinical trial J Orthop Sports Phys Ther, 43 (2013), pp. 284-299
③ M. Kuszewski, R. Gnat, E. SauliczStability training of the lumbo-pelvo-hip complex influence stiffness of the hamstrings: a preliminary study Scand J Med Sci Sports, 19 (2009), pp. 260-266
④ Yu B., Liu H., Garrett W.E. Comment on “The late swing and early stance of sprinting are most hazardous for hamstring injuries” by Liu et al. J. Sport Health Sci. 2017;6:137–138. doi: 10.1016/j.jshs.2017.02.003.
⑤ A.G. Schache, T.W. Dorn, P.D. Blanch, N.A. Brown, M.G. PandyMechanics of the human hamstring muscles during sprinting Med Sci Sports Exerc, 44 (2012), pp. 647-658
⑥ Hennessey L., Watson A.W. Flexibility and posture assessment in relation to hamstring injury. Br. J. Sports Med. 1993;27:243–246. doi: 10.1136/bjsm.27.4.243.
⑦ S. PanayiThe need for lumbar–pelvic assessment in the resolution of chronic hamstring strain J Bodyw Mov Ther, 14 (2010), pp. 294-298
⑧ Sports (Basel). 2019 Sep; 7(9): 210. Published online 2019 Sep 12. doi: 10.3390/sports7090210PMCID: PMC6784223PMID: 31547307 Running Propensities of Athletes with Hamstring Injuries
⑨ Ruan M. "Excessive muscle strain as the direct cause of injury" should not be generalized to hamstring muscle strain injury in sprinting. J. Sport Health Sci. 2018;7:123–124. doi: 10.1016/j.jshs.2017.05.006.
⑩ M.A. Sherry, T.M. BestA comparison of 2 rehabilitation programs in the treatment of acute hamstring strains J Orthop Sports Phys Ther, 34 (2004), pp. 116-125
⑪ Proximal neuromuscular control protects against hamstring injuries in male soccer players: a prospective study with electromyography time-series analysis during maximal sprinting. Am J Sports Med 2017;45:1315–25.
⑫ Core stability training for injury prevention. Sports Health 2013;5:514–22.
⑬ A comparison of 2 rehabilitation programs in the treatment of acute hamstring strains. J Orthop Sports Phys Ther 2004;34:116–25.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?