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学芸員は今日も全国を飛び回る(わたしをのぞいて)

小規模美術館だから良いこともありますよって話です。

どうも。小さな美術館の学芸員です(バックナンバーを見ていただければ、だいたいどんな人間かわかるかと)。

さて、展覧会と一口に言っても、いろいろなものがあります。たとえば次のような分類もできます。

(1)自館の収蔵品だけで構成した展覧会
(2)自館の収蔵品と他館から借用した作品を組み合わせた展覧会
(3)借用品だけで構成した展覧会

(1)は「コレクション展」「収蔵品展」と呼ばれることが多いです。テーマを設けていれば「企画展」とも呼ばれます。

(2)は、みなさんがよく知る展覧会のイメージでしょう。ある企画にあわせて、学芸員があちこちの美術館から、作品を借用してきて一堂に並べます。

(3)は、いわば貸し会場のような形で美術館を使う展覧会です。パッケージ化されている展覧会をそのまま持ってきて展示を行います。

さて、(1)の収蔵品展をのぞき、(2)(3)の展覧会をやるとなると、必要になってくる学芸員の重要な仕事があります。

それが「作品集荷」「作品返却」

よその美術館から作品を借用する場合、「んじゃ、宅急便で送ってくださいねー」なんてわけにはいきません。この世に一点しかない貴重な作品ですからね。

美術品輸送業者(ヤマトや日通)のスタッフと学芸員が、借用先の美術館に出向きます。

そしてまず、借りる側と貸す側、両者の学芸員の目で作品のコンディションをチェックします。作品についているキズが、借りる前からあったのか、借りている間にできたのか、あとでトラブルにならないために大事な作業です。

そして丁寧に梱包し(輸送スタッフが)、借用書をとりかわして、トラックに積み込みます。このトラックは、美専車(美術品専用車)と呼ばれる、荷台に振動吸収装置と空調機能がついた車です。

作品を積み込むまでを、双方の学芸員が確認し、借用する側の学芸員がトラックに同乗して出発します。学芸員は、貴重な作品をお借りする責任者なので、作品と常に一緒にいる必要があります。ドライバーさん1人で輸送することはありません。

展覧会が終わり、作品を返却する時もこれと同じことをします。学芸員は、作品と一緒に車に乗って、返却先の美術館にうかがい、作品コンディションに変化がないかを確認して、ようやく返却終了となります。

さて、冒頭、小さな美術館にも良いことがあると言った理由は、この集荷・返却と関係します。

大規模な美術館になるほど、自前のコレクションだけで展覧会をすることは少なく、あちこちから作品をかき集めて、広い広い展示室を埋めます。それに比べて、うちのような美術館は所蔵品をもとに展覧会を企画するのが基本であり、場合によって数点作品を他館から借用する程度です。

大きな美術館の学芸員は、この集荷・返却でトラックに乗って全国を回るというお仕事が必須です。基本的には、その展覧会を企画した担当学芸員が出向くことになりますが、集荷先が多いと、他の学芸員もかり出されます。

展覧会前になると、ほとんど机に座ることもなく、全国を飛び回る必要があります。場合によっては、海外にも。

いやー、大変だなぁ、と他人事のように思います。

いや、これ本当に大変なんですよ。結構ベテラン学芸員になっても、トラックに乗って長旅をするそうですが、はっきり言って体も楽じゃありません。

私ももちろん経験したことはあるので分かりますが、運転はドライバーさんがやってくれるとは言っても、トラックの後部座席に長時間座り続けるのって、疲れるんですよ。体がガチガチにこわばります。それが何日も続く場合もあるわけですから。

それに家族との時間も減ってしまいます。私はこれが本当にイヤ。

統計を取ったわけではないので、あくまで私の見聞きした範囲ですが、学芸員には結構離婚した人が多いのも、これと関係しているのかもしれません(まぁワーカホリックなタイプも多いからなぁ)。

展覧会が開かれるまでには、こうした学芸員の地道な苦労が隠されているのです。

正直、私はそういう働き方は勘弁願いたいという軟弱なタイプなので、自前のコレクションを大事に展示するいまの美術館が性に合ってるなぁ、とつくづく思います。

あ、私と違って、全国を飛び回れるのが超楽しい!という学芸員さんもいますよ。それはそれで天職だなぁと、感心しています。

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