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美術館・博物館の運営難もクラファンで解決!なわけもなく

国立科学博物館のクラファンが話題です。

運営資金難のために科博が1億円を目標にクラウドファンディングを行ったところ、1日で目標達成、その後も支援が集まり続けているというニュースです。

いやー、よかったよかった、と簡単には言えません。
色々考えさせられますね。

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このところ、博物館や美術館などの文化施設が資金難を訴えるニュースが後を絶ちません。

世界的な光熱費の急騰により、東京国立博物館の光熱費も予算2億円のところ、4.5億円かかる見込みとのことです。 しかし、その増額分を補正予算で要求したものの、財務省からはゼロ査定で突き返されたという内容です。

美術館に身をおく者として、予算が潤沢にないのは別に今に始まった話ではない感覚があるのですが、中規模以下の館ではなく、国立の名を冠する施設が軒並み苦境を訴え始めているのは、たしかにこれまでになかった状況かもしれません。
(科博も東博も「国立」の名を冠しつつも、独立行政法人になっているので、厳密には国立施設ではないのですが)

それと時を同じくして、ここ何年かで日本に急速に普及してきたのがクラウドファンディング文化です。

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数年前ぐらいから、ネットリテラシーが特別高いわけではない(とか言うと失礼なんですが)管理職の人たちの口からも「クラファン」という単語が出るようになってきました。
「予算がいよいよ厳しくなったら、クラファンでもするか」みたいに。

言わずもがなですが、そんなに簡単にはいきませんよね。

例えば、天災などの突発的かつ防ぎようのない事態に見舞われた結果、そのピンチをしのぐためにクラファンをする、というのなら理解も得られるでしょう。

または、どうしてもこの名品を修復して後世に残したい、とか、世界各国から作品を集めた特別展を実現したい、とか目的が明確な単発プロジェクトのためのクラファンもわかります。

しかし、恒常的に運営資金が足りないものを、クラファンで穴埋めできるかといえば当然無理な話です。

例えば科博が、来年も再来年も同じクラファンをやっても今回のような支援は集まらないでしょう。
何度も同じクラファンにお金を出すような人はいないのです。

つまり、クラファンを当てにした資金繰りなどできるわけがない、というのが結論になります。

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もちろん一般の人たちが、文化施設を応援する手段があるのは良いことだとは思います。
でも、一番の応援は実際に足を運んでくれることですし、館の方はそうやって何度来ても飽きないと思ってもらえるように努力する必要があります。

すこしひねくれた言い方になりますが、美術館・博物館の資金難がしきりにニュースになる背景には、「文化にそこまでお金をかける必要なんてないんじゃないの?」という世間様の感覚があります。

最初に挙げた科博や東博のニュースが出た時は、「自国の文化を守らないなんて政府はけしからん」「自民党をぶっつぶせ」「財務省が悪い」という声がヤンヤヤンヤと湧き上がります。

でも、例えば公立美術館の新設にウン億円かかる、とか、県がウン億円の高額な美術品を購入した、とかいうニュースが出れば、「そんなことにお金を使うぐらいなら庶民の負担を軽くする方に使え」「高尚な芸術にそこまでお金をかけるなんてもったいない」という真逆の声が噴出します。

前者と後者の割合は可視化できませんが、前者のような「きちんと予算をつけなければ文化は存続できない」という考えを本心で持っている人(つまり政権批判や強者叩きの道具として声を上げているのではない人)が圧倒的多数であれば、そもそもこんな事態になってはいないはずです。

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文化に即効性はないし、わかりやすい利益などはありません。
だから、経済が停滞している時にその必要性を伝えるのは簡単ではありません。
それでも美術館や博物館がやるべきは、つまり私たち学芸員がやるべきは、クラファンで一発解決という甘い夢を見るのではなく、地道に1人ずつファンを増やしていくことなのだろうな、と今回のニュースを見て考えた次第です。

うーん、ちょっときれいにまとめすぎたかな…。


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