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中学生による展示損壊事件が突きつける鑑賞体験のジレンマ

ルーブル美術館で《モナ・リザ》にケーキを投げつける輩がいて、なんちゅーことを!と絶句していたら(「モナリザケーキ事件が突きつける美術館の無力さ [それでも展示は続くのだ]」)、またもや美術館でショッキングな事件が起きました。今度は日本国内です。そして実害という意味ではこちらの方が深刻。

新潟県は越後妻有地域を舞台に行われる「大地の芸術祭」。その会場のひとつ越後妻有里山現代美術館に展示されていた作品が、修学旅行で訪れた中学生によって損壊された、という報道がありました。

十日町市が被害届を提出とあったので、どうもうっかり壊してしまったという話ではなさそうだと思っていたら、案の定、複数名の中学生が故意に作品を損壊したということが分かりました。

「踏み荒らす」「パイプを曲げる」などの文面があり、絶句。。。

私が勤務している美術館でも、中学生の見学、団体鑑賞を受け入れることはよくあります。学校や、もしくは教育委員会から依頼される形で(2020年度に改訂された小・中・高の学習指導要領でも美術館・博物館の活用が促されています)。

実際に現場で、中学生たちに説明をし、鑑賞している様子を観察していて思うこととしては、いまの子供たちは基本的に、礼儀正しく、おとなしいです。

1人1人で行動している時は、まず問題がありません。

しかし、グループになると、時々仲間内で盛り上がって、行動が激しくなる、声が大きくなる、やや危なっかしくなるように思います(私の個人的経験の範囲で言えば、男子がその傾向にある)。

ふざけ始めると歯止めがきかなくなります。早めにブレーキをかければ大事にはいたらないので、声をあらげて注意したこともあります。

うちのような小さな美術館なら、団体鑑賞がある時は、学芸員を含め監視する人を増やせば、だいたい目が届きますが、大きな美術館や、屋外展示となるとその全てに目を光らせるのは無理ですよね。信じるしかないのです。

通常、美術館で作品を鑑賞しているのは、自分の意志で足を運び、お金を払って入館した人です。
でも、学校の団体鑑賞はそういった主体的な参加ではありません。興味がある子もいれば、いやいや来ている子もいるし、めんどくさいと思っている子もいるでしょう。それは当たり前といえば当たり前です。

学校での事前学習で子供達に美術への興味をもたせる、美術館で見学する意義を教える、それはたしかに理想ですけど、どんなに先生方ががんばっても全員の意志を統一することなど不可能でしょう。

美術館側でももちろん鑑賞する前に注意点を伝えます。館内では走らない、騒がない、作品は足下のテープをはみ出して近づかない、作品の近くで指を指さない、筆記用具は鉛筆を使う(貸し出します)などなど。

今回のような事件、事故を徹底して防ぐためには、もっと強く警告する、さらに言えば脅すところまでいかなければダメかもしれません。

でも、鑑賞前にそんなことばかり言われて、伸び伸びと楽しく鑑賞なんかできるわけがないですよね。これもまた公開と保存のジレンマです。

そして、今回の事件の報道と、その後のネットの反応を見ていると、鑑賞時に美術作品を守ることは、まだ未熟な生徒を守ることでもあるよなぁ、と感じました。

悪ふざけや軽い気持ちで取り返しのつかないことをしてしまったら、今の日本社会では、ネット上で正義感を隠れ蓑にしたストレス解消のはけ口になり、徹底的に糾弾されてしまいます。それはあまりにもむごい。

すいません。今回は、明快な解決策を書いて、きれいにまとめることはできません。

これからも美術館が子供達に鑑賞体験を提供していく上で、なるべく伸び伸びと自由に鑑賞を楽しんでもらうと同時に、誰も幸せにならない事件・事故を防止するためには、どうすればいいのか。学校と一緒に受け入れる側の美術館も頭をひねり続けなければいけないのです。

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バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。