見出し画像

学芸員は狭き門なのか [就職パターンはいろいろ]

突然ですが、学芸員になるまでのプロセスをあらためて説明します。学芸員という働き方に興味がある人に読んでもらえれば。

博物館法の定義では、動物園や水族館も博物館に該当しますが、そちらの世界は美術館学芸員である私には分からないので、ここではあくまで美術館・博物館の学芸員について話をします。

学芸員になるためには、国家資格の学芸員資格を取得するのが基本になります。

国家資格なんていうと、とても難解な資格のように思えるかもしれませんが、学芸員養成課程のある大学に通い、定められた科目の単位をすべて取得すれば、大学卒業時に自動的に学芸員資格が与えられます。医師免許のように、国家試験を受けないと取得できないわけではないのです。

学芸員養成課程のある大学は、全国に300校近くあります(文化庁HPより)。

毎年、何人の学芸員資格取得者が誕生しているのか、ちょっとデータがないので正確には分からないのですが、数千人単位だと言われています。結構な人数のように思えますが、教員免許の取得者は年間10万人以上らしいので、それに比べるとよほどレアケースですね(教員免許持ってるよという人は身近にたくさんいると思いますが、学芸員資格持ってるという知り合いはほとんどいないのでは?)。

それにしたって、毎年数千人ずつ学芸員資格を持つ人は生まれているわけですから、なかなかのものです。

しかし、学芸員資格を取れば学芸員になれるというわけではありません。教員免許をとったからと言って、自動的に教員になれるわけではないのと一緒です。
教員は教員採用試験に合格すれば、どこかしらの学校に配属されることになりますが、学芸員にはそういったシステムはありません。

学芸員の場合、美術館や博物館が公募をかけるので、それを見つけて応募する必要があります。

で、この公募が数えるぐらいしかありません。
それもそのはず、1つの館に学芸員は何人も必要ありません。平成30年度の社会教育調査によると、登録博物館(博物館法で一定の基準を満たした博物館、他に博物館相当施設、博物館類似施設がある)に勤務する学芸員の平均人数は3.93人。

平均3〜4人しかいない学芸員の誰かが、他館へ移る、定年退職する、などの理由で館からいなくなる時に、その欠員を埋めるためにようやく新規採用の募集がかかります。
ようするに、圧倒的に需要が少ないのです。

いや、さらに言うと、新規採用の募集があるのは若手学芸員が必要な場合に限ります。中堅以上のポストが空席になった場合は、一本釣りのような形で経験年数のある中堅学芸員によそから来てもらう、というケースが多いです。

また、学芸員募集には「大学院修士課程卒業」と条件がつけられることが多いです。4年生の大学を出て学芸員資格を取得しているだけでは、応募することができないわけです。これは学芸員に研究能力が必要なためで、ある程度大学院で資料収集、読解、解析の訓練を受けていることが求められます。ただ、学部卒でも優秀な人は優秀ですし、逆に大学院というアカデミックな世界にあまり長く浸っていると、頭でっかちになって現場で臨機応変に動けない人材になるという危険性もあります(まさに私がそんな感じでした、今思えば)。良し悪しですね。

何にせよ、学芸員資格を取得し、大学院まで進んで研究能力を磨き、自分の専門に近い分野の学芸員募集があったら、応募する。これが基本パターンとなります。

県立の美術館学芸員の正職員雇用となると、1人の募集に対し50人、いやもっと多いぐらいの応募がきます。どうしても高倍率になってしまいます。
そこから書類選考、筆記試験や実技試験、そして面接などを経て、ようやく採用にいたります。

だから、学芸員としての就職を希望する人は、募集があれば縁もゆかりも無い地域の館であっても、積極的に応募して、まずは何とか学芸員の職につくことを優先します。そしてそこで経験と実績を積みながら、上昇志向のある人はそこからより大きな館、また中央に近い館に転職していく、という流れがありますね。
住めば都ということで、その地方に定着する人もいるのでしょうが、私が知る限りまったく由縁のない地域だとやはりそこに一生いるという人は少ないように思います。

私のオススメは、若い人だったら正規雇用(つまり終身雇用)にこだわらず、任期付きの学芸員に応募して現場にもぐりこむことです。今はそういった単年度から複数年度という期間限定の嘱託職員のような募集が多いです。そして非正規職員の募集は、敬遠する人もいるので倍率が低くなります。だから狙い目なのです。

任期付きで働くというのも、お互いのミスマッチをなくすという意味では、悪いことでは無いと私は思ってます。働いてみないと、その職場の水が合うかなんて分かりませんからね。

人件費削減を理由に、学芸員はずっと非正規を使い回していけばいい、なんていうブラックな館ばかりではありません(中にはある。そうだと気づいたら全力で逃げろ!)。どちらかというと試用期間のような意味合いで、まずは一緒に働いてもらおうと考えているところの方が多い(はず)です。一度正規雇用をすると、どんなに仕事ができない人間でもクビにすることができないのが今の日本ですから、そこはどうしても慎重にならざるを得ないのです。
1年2年働いてもらって、仕事ぶりや人となりに問題が無いと分かれば、十中八九その後も働いてほしいと言われます。

倍率50倍とかの一発採用に賭けて、なかなか就職できずに年齢を重ねていくより、上記のような方法でこの世界に飛び込んでしまう方が、わりかしイージーに物事が進むように思います。

今回は学芸員を目指す人に向けて、書いてみました。何かの参考になれば。


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。


この記事が参加している募集

仕事について話そう