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067.『地域価値を上げる都市開発 東京のイノベーション』山本和彦 著

“──他社がバブルの後始末をしているなか、粛々と事業を進め、「失われた20年」のど真ん中に愛宕グリーンヒルズ、元麻布ヒルズ、六本木ヒルズを完成させた。その後、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、GINZA SIX等の開発を、リーマン・ショックを挟みながらも展開してきた。激しい時代の変化に対応してきた森ビルのユニークな開発の考え方、その取り組み方、事業のプロセス、そこから学んだことを書き連ねていきたい。”

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アークヒルズ、六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、GINZA SIX…時代を画した事業の実務を担った著者が、飾らずに事実を積み重ねて率直に語る。計画・設計・地元や行政との協議、そして資金調達や完成後の運営。きらびやかな建物の裏に隠れた忍耐、苦労、工夫、危機が書かれている。不動産開発関係者必読書

●はじめに

2020年、東京ではオリンピック・パラリンピックを迎えることとなっていた。しかしながら、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により延期された。世界中で人と生活が大きく変わろうとしている。それでも、東京都心部では大規模再開発が花盛りである。
 1990年代のバブル崩壊後の日本経済をどのように考えたらよいのであろうか。アベノミクスに基づいた超金融緩和が続いたにもかかわらず、企業の設備投資に大きな伸びはなかったようだ。ところが、大都市都心部に限っては大量の投資が行われている。アベノミクス成長戦略の数少ない成果だと言えよう。しかも、大規模オフィスビルが続々と建てられているにもかかわらず、入居者は多く、空室率はゼロに近づいている。東京一極集中が続き、働き方改革の成果か、人手不足への対応もあり、入居者は快適なオフィスで効率の高い仕事ができるようになっている。複合の商業施設や文化施設等も様々な工夫を凝らし、魅力的なものが増えている。インバウンドの観光客の流入にも大いに貢献していることであろう。
 バブル崩壊後、不動産開発が停滞しているなか、このような大規模開発を最初に進めたのは2002年に竣工した三菱地所の「丸ビル」の再開発であり、2003年に竣工した「六本木ヒルズ」の再開発であろう。まさに「失われた20年」のど真ん中にオープンし、大きな話題となり成功した事業と思われる。このような大規模開発が民間の力で進んだことが行政を動かし、政府は国土政策を大転換することになった。それまでの政府の方針は、戦後一貫して「国土の均衡ある発展」を旗印に地方への投資を優先していたが、バブル崩壊を克服するための成長戦略として「都市再生」を位置づけ、都市部への投資に切り替えたのである。それを実現するための方策として、2002年に「都市再生特別措置法」が制定され、政府は積極的に規制緩和を進めた。5年の時限立法であったが、次々に延長され、その後も現在に至るまで規制緩和が進んでいる。加えて、超金融緩和も続き、このようなブームになったと思われる。
 その成功モデルが六本木ヒルズと言ってもよいだろう。不動産業界として何をすればよいのか、先のわからない暗闇の時代に、森ビルは無謀な巨大プロジェクトだと言われた六本木ヒルズを実現させた。その森ビルの軌跡を描くことは、都市開発事業がブーム化しているこの時代背景を考えると、意味あることのように思われる。
 私は第1次オイルショック直後の1974年に森ビルに入社した。たまたま運よく森泰吉郎氏(当時:社長)、森稔氏(当時:専務)の傍らで、直かに教育、指導、指示を受けながら国内の森ビルの主なプロジェクトに関わることができた。そして、プロジェクトという限られた面ではあるが、直接関わった当事者として、このユニークな会社が取り組んだ数々のプロジェクトの軌跡を綴ることは、私の役目なのではないかと考えるようになった。ちょうど大病を患ったこともあり、この機会に筆を執った次第である。
 森泰吉郎氏・稔氏親子は、自分たちが耕してきた独特な企業文化の土壌のもと、当初から開発敷地だけでなく周辺の地域価値の向上を意識していた。そのために他者との共同建築を厭わず、時代を担う企業のための事務所ビルを最大限の効率化を図りつつ建て続けた。社員には徹底した理念教育を行い、創意工夫に努め、時代の変化にも的確に対応した。度重なる経済危機に対しても、建築家、行政、事業者等と積極的なコラボレーションを行い、何らかのイノベーションを実現することで乗り越えてきた。そのうえでビジネスとしての成長を続けることができたと言える。その開発プロジェクトの姿、プロセスを時系列的に並べてみた。
 高度成長時代に開発した超効率的な事務所ビルであるナンバービル 、そしてオイルショック後の安定成長に対応したナンバービルの改革。さらには、日本初の民間大規模再開発アークヒルズへの挑戦。こうして、森ビルは本格的に街づくりに取り組むことになった。それが事業的に大成功し、ヒルズシリーズの開発に邁進するが、バブル崩壊に遭遇する。他社がバブルの後始末をしているなか、粛々と事業を進め、「失われた20年」のど真ん中に愛宕グリーンヒルズ、元麻布ヒルズ、六本木ヒルズを完成させた。その後、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、GINZA SIX等の開発を、リーマン・ショックを挟みながらも展開してきた。激しい時代の変化に対応してきた森ビルのユニークな開発の考え方、その取り組み方、事業のプロセス、そこから学んだことを書き連ねていきたい。
 自宅療養中で資料の少ないなか、私の記憶に残っている事柄をベースに書いたので、事実と異なること、不適切な表現も多々あるかと思う。研究者でない当事者が自ら書いていることでお許し願えればありがたい。また、私の師であり、敬愛するボスであった森稔氏の著書『ヒルズ 挑戦する都市』(2009年・朝日新聞出版)をぜひ併読していただきたい。彼の街づくりに対する熱い気持ち、強い意志、豊かな構想力がなければ、これらのプロジェクトの多くは企画もされず成就することもなかったことは明らかである。彼に仕えた人間としての個人的な思いはできるだけ排除して、淡々と書きたいと思う。そこから、森稔氏の強い意志のもとで森ビルが様々な不動産開発のイノベーションを果たしてきたことが読み取られることを願っている。
 最後の第10章は、現在の大規模開発ブームをどう考えたらよいのか、東京都心の開発を引退してから7年、少しは客観的に見られる立場になったと思い、極めて個人的ではあるが、私の考えを述べたものである。順調に大規模開発プロジェクトが進めば、東京は間違いなく外観上は「世界一のオフィス都市」と言われるようになるであろう。しかしながら、中身もそうなるかについて私は不安を感じている。今回、執筆をしながら痛切に感じたことは、次のことである。昭和は工場の時代であった。国中に工場が建てられ、そこから世界を動かすような企業が数多く生まれてきた。それに対して、平成は事務所の時代であった。何度か厳しいときもあったが、森ビルのビジネスが成功した一つの要因でもあろう。その後、東京には、汐留をはじめとして質の高いオフィスビルが大量に建てられた。しかし、残念ながらそこから世界を動かすような企業が生まれていないのではないか。内実とも世界一のオフィス都市に、ビジネス都市になれるのか、現時点での私の考えたことを整理してみたものである。参考にしてもらいたいし、ご意見、ご批判をお願いしたい。

●書籍目次

はじめに

第1章 森ビルの企業文化と超効率ナンバービルの開発

1 共通理念とイノベーション
2 私の最初の仕事
3 賃貸ビル会社として地位を築く

第2章 ナンバービルの改革 オイルショック後の安定成長に対応

1 ラフォーレ原宿 ファッションビルへの挑戦
2 ナンバービルの開発 安定成長時代に対応
3 1980年代初期の事務所ビルの連続竣工 会社の体力を付ける

第3章 アークヒルズ 民間初の大型複合再開発

1 19年に及んだ再開発
2 着工までの計画内容の変遷
3 着工後の計画変更
4 第三のビジネス都心に 高密度・高環境の追求
5 第1次・第2次オイルショックと不動産業界
6 アークヒルズの事業評価

第4章 ヒルズシリーズへの展開とバブル崩壊

1 御殿山ヒルズ 1種住専地区の高層複合開発
2 城山ヒルズ 幹線道路に面さない超高層複合開発
3 六本木ファーストビル バブルの頂点での入札物件
4 バブル期の不動産業界
5 バブル崩壊後の森ビル

第5章 バーティカル・ガーデンシティの都市像構築

1 バーティカル・ガーデンシティの構想
2 愛宕グリーンヒルズ プロトタイプとして
3 元麻布ヒルズ 高級住宅地での挑戦

第6章 六本木ヒルズⅠ 文化都心コンセプトの構築とコンセンサスづくり

1 プロジェクトの沿革と社会的意義
2 テレビ朝日との出会いと再開発課題の整理
3 地元活動を始める
4 準備組合活動と都市計画決定

第7章 六本木ヒルズⅡ 文化都心とバーティカル・ガーデンシティの実現

1 都市計画決定から着工まで
2 着工からオープンまで

第8章 ポスト六本木ヒルズのプロジェクト

1 同潤会を再開発した表参道ヒルズ
2 平河町森タワー シールドの地下鉄を跨いだ複合ビル
3 アークヒルズ仙石山森タワー アークヒルズを東側へ拡張
4 アークヒルズサウスタワー 二つの大規模再開発をつなぐ
5 虎ノ門ヒルズ 環状2号線を跨いだ官民協働の複合再開発
6 逆風下の中国進出

第9章 GINZA SIX 開発能力を提供した新ビジネスモデル

1 プロジェクトの沿革
2 コンサルタント契約の締結 プロジェクト前史 
3 銀座ルールと高さ プロジェクト第1幕 
4 建築計画案の策定とリーマン・ショック プロジェクト第2幕 
5 事業体制の組み直しから着工まで プロジェクト第3幕 

第10章 東京は世界一のオフィス都市になりうるか

1 戦後のオフィスブーム
2 オフィスビルづくりにとって天国のような環境
3 今後の懸念
4 昭和は工場、平成はオフィスの時代
5 日本企業の本社は水膨れ
6 ピンチをチャンスに変える
7 これからの不動産業に向けて

おわりに/追記  

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『地域価値を上げる都市開発 東京のイノベーション』山本和彦 著 ​

体 裁 A5判・256頁・本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2754-9
発行日 2020/10/20
装 丁 赤井佑輔(paragram)

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