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コロナさんの影響がこんなかたちで。

新型コロナウイルスによる外出規制がはじまってから、イチコのいるここ、フランスでは早くも1ヶ月半が経とうとしています。それも、きょうの時点ではまだ5月11日までは続くもよう。長いながーい外出規制。

その外出規制がはじまってから、パートナーのマキシムとイチコは、それはそれは規制をきちんと守ってお家にこもっていました。買い物は2週間に1回のまとめ買い、1時間限定で許されているご近所の散歩すら、しない。特にマキシムは、子どもたちを元奥さん宅へ迎えに行くときも、マスクに手洗い、寄り道なんて言語道断。外出証明書や、コロナウイルスのニュースは毎日欠かさずチェックするのも忘れずに、細心の注意を払いました。

ところが、つい3週間程前。マキシムの身体に異変が。

それは、コロナウイルスの感染によるものではなく、延長が続く外出規制と、細心の注意を払ったとしても、コロナウイルスがいつ、我ら家族に襲いかかるかわからない、という、終わりの見えない不安によるものでした。初めての、不安障害。

外出規制がはじまってすぐ、元奥さんに、少しコロナウイルス感染の兆候があったこともあり、もしかして子どもたちに感染してはいないか、そんな恐れもあったようです。

不安は、少しずつ、でも確実にマキシムの心を覆い尽くしていきました。それは、「大丈夫、終わりのない難はない」と、自分に何度言い聞かせてもおさまることはなく、安定剤などお薬を飲まなければ呼吸が苦しくなるほどに。ご飯もろくに食べることができず、夜は全く眠れない日々が続きました。やっと眠りに落ちれそうだ、という瞬間が訪れても、急に息が苦しくなって飛び起きる、ということが何度もありました。ついには彼自身、死への不安を少なからず身近に感じていたように思います。

このままではマキシムの身体がもたない、そう思ったイチコは、隔週でお世話をしている子どもたちを、引き続き元奥さん宅に留まらせてもらうことをマキシムに提案。つらく苦しい姿を子どもたちに意地でも見せまい、と必死にがんばっていることが、さらにマキシムのストレスを増幅させていたからです。このままでは、子どもたちに「一緒に遊ぼう」と言われたところで、まともに相手をすらできないのは、目に見えていました。マキシム自身もそれはわかっていたようで、「うん、今はそのようにした方が良いね…」と、子どもたちに会いたい思いを抱え涙を流しながら、元奥さんへその旨をメールし、快諾してもらいました。

幸い、私たちのお家と元奥さんのお家は歩いて25分程とそう遠くはないので、「体調がそう悪くないときは、気晴らしの散歩がてら、いつでも子どもたちの顔を見に行こう。もう少し良くなったら、少しずつ、子どもたちを家に呼んで一緒に遊ぼう」、そう言って、今は彼の体調を整えることをいちばんに考えるようにしました。

在宅勤務のお仕事も、有給休暇と、さらにしばらく休ませてもらえるようにお医者さんに相談することに。他にも、スカイプでセラピストと話をしたり、両親と連絡を今まで以上に取り合ったり、閉塞感から少しでも逃れるために毎日欠かさず散歩をしたりしました。また、少しでも不安を吐き出せるよう、たくさん話をしました。行ったり来たり、登ったり降りたり、三寒四温の日々。

お医者さんによると、季節の変わり目の春や秋は、特に心がストレスを抱えやすいようです。気温の大幅な変化も影響しているのかもしれません。それに合わせてマキシムの場合は、コロナウイルスからくる家族への不安、私生活や仕事において、先の全く読めない状況(楽しみにしていた日本への渡航も延期)、またそれらに付随する多くの不安要素が、多大なるストレスをズンズンと生み出してして、ついにはドカン!と爆発してしまったみたい。

ええっと、そう言えばあなたはフランス人でしたっけ?と思うほど、繊細かつ真面目で、何事も前もって取り組み、こうと決めればすぐ行動、最後まできちんとやり遂げる。そんな、イチコとはまるで正反対の完璧主義者マキシム。彼にとって、今の状況はあまりにもストレスが多すぎた。

「100%なんてしなくていいよ。70%達成できたらもう万々歳。大事なのはそれを続けること」

かつて、イチコが少し苦しかった時に聞いたことばをマキシムへ伝えるも、それがすぐさま身体になじむわけもなく、少しずつ、苦い思いをそしゃくしては吐き出す日々。


ある日、今や日課となった散歩中、「いつものほほんといられるイチコがうらやましいよ」と、マキシムがポツリ。そのことばの裏に(イチコのように振る舞おうとしてみたところでできない。僕がこんな性分であることはどうしようもないね)という、あきらめに似た気持ちをイチコは感じながら、「ハハハ。いいやろー」と笑うのでした。


そしてそれからさらにしばらくたった今日、そろそろ大丈夫そうだということで、マキシムは在宅勤務を再開することになりました。でもいかんよ、がんばりすぎては。ゆっくりゆっくり。


医療従事者や最前線でがんばってくれている方々のおかげで、私たちは今ここ、お家にいる。そんな私たちができることと言えば、自分と家族が健やかでいられるよう務めること。ずっとお家にいると、まるで何もかもが止まってしまったように思えるかもしれないけど、そんな今こそ、自分自身を見つめ直して、自分自身を抱きしめてあげるときなんだよ、きっと。これまで感じてきていたはずの、その辺の引き出しの奥にしまいこんでいた思いを、ひとつずつていねいに取り出して抱きしめて、一緒に泣いたり怒ったり、笑ったりしよう。そこにはきっと、新たな気づきが待っている。そうしてコロナウイルスが終息する頃には、なにかびっくりする変化があるかもね。

イチコはいつもとなりにいます。『となりのトトロ』ならぬ『となりのイチコ』。なにが起こっても、その変化を一緒に「ハハハ」と、楽しもうではないか。歩こう、あるこう。

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