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短編小説【今宵も、知らねえヤツと晩メシを】

ネタがないので小説書きましたー。
3000文字ちょいなのでさくっとどうぞ

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今宵も、知らねえヤツと晩飯を


カズヤは自宅アパートのコタツに入っていた。いつもの、自分のアパートのコタツである。いつもと同じ、なんの特徴もないコタツ。
だが、1週間ほど前から突然変わったことが一つだけある。
それは目の前のコタツのちゃぶ台の上に、豪華な晩メシが並んでいることだった。
今日のメニューはハンバーグにサラダ、コーンスープである。しかも気の利いたことに、特に好きなエビスビールの500缶まである。何か変だ。
極め付けに変なのは、ちゃぶ台の向こう岸に、これを用意したと思しき女性が座ってることだ。

1週間ほど前から、晩メシの時間になるとこのような豪華なメニューが突如並ぶようになったのだ。
昨日はマグロとサーモンとホタテとツブ貝とタイが乗ったお造りに、カニが入った味噌汁、銀ダラの西京焼きだった。
その前はインド風のバターチキンカレーにナン(しかも自家製)、その前は天津飯に北京ダック、さらにその前はA5ランク和牛ステーキだった。

せっかくあるのに食べないのもアレなんで、カズヤは美味しくいただいた。
なぜか、目の前にいる女性が晩御飯を作っているのだ。

女性は大学生くらいだろうか。
カズヤと同じくらいの年頃なので20歳前後か。
背は小さめで髪はショートカット、ちょっと小さめだけどくりっとした目、いわゆる小動物系だ。
わりとカズヤのタイプではあった。

なぜかいつの間にか当たり前のように同居している女。
どう考えてもおかしい。
しかし、あまりにも自然にメシを作り、掃除や洗濯もこなしているので、もしかしたらカズヤの方がおかしいのではないかと不安になるくらいだった。
そんなこんなで、「君は誰なんだ!?」というスーパー当たり前の問いすらできずにいたのだ。


ヒロコは困惑していた。
いつものように晩御飯を作って食べようとしたら、コタツの向こう岸に男がいて、ごく当たり前のように飯を食っているからだ。
おかしい。間違いなくここは自分ちのアパートの、いつもの特徴のないコタツだ。
ただ、目の前の男があまりにも自然に、しかもとてつもなく美味そうに食べるもんだから、ついお代わりごはんまでよそってしまった。

男は次の日も、その次の日も、なんの疑いもない様子で晩飯時になると帰ってきた。そしてメシをウマそうに食う。
そんなに背は高くないが、肩ががっしりして顔はちょっと日焼けしている。白い歯が特徴的で、ちょっと長い前髪は目を隠しているが、時々覗く目はキラキラして純粋そうな雰囲気を醸し出している。
自分と同じくらいの歳だろう。ヒロコはまあ悪くないよね、と思った。
ヒロコは料理には自信があったので、ちょっと唸らせてやろうとメニューはどんどん豪華になった。

晩飯が終わると、特に会話するわけでもなく、それぞれにスマホをいじったり、シャワーを浴びたりして寝る。
テレビは1台しかないので、たまたま先につけた方が選んだチャンネルを見ることになっている。なぜか暗黙の了解だが、お互いに文句を言うことはなかった。

そしてそれぞれのタイミングで寝るのだが、どちらかが明かりを消せば暗くなるので、なんとなくほぼ同時に寝ることになった。
ロフト付きで布団が1セットしかないので、仕方なく一緒に寝るのだが、もちろんエッチなことにはならない。なぜかそんなに気にならずに寝付けてしまっている。

二人は同じことを思っていた。
俺・私、アタマおかしい。けど、まいっか。

朝になると、お互いそれぞれに準備して、大学に行くなりバイトに行くなり、行動した。なぜか鍵はそれぞれ持っていた。


そんな生活が1年近く続いた。
唐突に始まった奇妙な生活だったが、あまりにも自然だったのでなんとなく続いていた。

カズヤもヒロコもそれぞれバイトしていたし、就活もしていたし、友達と遊びに行ったりもしていたので、帰る時間はまちまちだった。
ヒロコはもともと自分のために作っていた晩飯だったし、さっさと作って食べて寝てしまえばよかったんだが、あの男がなかなか帰ってこないとどういうわけか、自分も手をつけずに待っていた。なんだか毎日食ってるし、食わせてあげないとかわいそうな気がしたからだ。
そういえばあの男、名前なんていうんだろう・・・?

カズヤが先に帰る日もあった。
そんな日は外でメシを食ってしまっても良かったし、コンビニで買ってきてもよかったんだが、「もしあの女が晩飯の買い物して帰ってきたら、食ってあげないとかわいそうだよな」と思って待っていた。
そういえばあの女、なんて名前??


いつの間にか同居し、毎日晩飯を囲むようになった二人の男女。
そんな二人も、就職が決まりついにアパートを引き払う日が来た。

カズヤは荷物をまとめ、引っ越し屋のトラックに自分の分は全て乗せ終えた。カズヤは荷造りしながらあの女の様子を観察していた。
(なんか荷物まとめてんな。引っ越すのか?)

ヒロコは引っ越し屋のトラックに、自分の荷物を全て積み終えた。
あの男の様子を見ていると、どうやら今日引っ越しのようだった。

アパートの前には2台のトラック。
1台はアリのマークがついている。もう1台はハトの絵が書いてあった。

男女2人の荷物をそれぞれのせたトラックはその場を走り去り、カラになったアパートが残った。


カズヤは東京の会社に入社し、アパートも東京になった。
(まさかな・・・)
と思ったが、さすがにあの女、次のアパートにはいなかった。

新しい生活に慣れないせいもあってか、カズヤは調子を崩していた。
なにしろ、家に帰ったも晩メシがないのだ。
1年も豪華な晩飯を食べ続けたカズヤには、自炊は修羅場だったのだ。

生活の乱れは仕事に影響し始め、カズヤの評価は落ちる一方だった。
当たり前だった、その見知らぬ女との生活が、懐かしかった。


ヒロコは東京の企業に就職し、アパートも東京だった。
(まさかね・・・)
さすがに新居のアパートに、あの男は帰ってこなかった。
初めはいつものように豪華な食事をつくっていたが、次第にカンタンなものになっていった。
慣れない生活と仕事の忙しさで、ほとんど自炊すらできなくなっていた。

そのうち体調が崩れ始め、仕事ではミスが多くなった。
肌つやも悪いし、髪も傷んでいる。

名前も知らないあの男との生活が、懐かしかった。


カズヤは肉体的にも精神的にも、かなり落ち込んでいた。
ある日の退勤後、ちょっと気晴らしに隣の駅まで歩いてみることにした。
橋に差し掛かると、川の向こうにはスカイツリーが見えた。

ヒロコは仕事のミスで落ち込んでいた。ここんとこ、というか入社してから全くいいところがない。
「仕事やめよっかなあ・・・」そんなことを呟きながら、会社の最寄り駅は歩いてスルーした。
橋に差し掛かると、向こうにはスカイツリーが見えた。

二人は同じ方向を見ていた。
スカイツリーをぼんやり眺めて、欄干によりかかる二人。
人の気配を感じて、首を横に向けると

『あ。』

ポカーンと口を開けて互いを見る。

(えっと、あれ?名前は・・・)

カズヤは意を決して口を開いた。
ヒロコは意を決して口を開いた。

『晩ごはん、食べない?』


・・・・・


あの夜、カズヤとヒロコは初めて会話した。

「あーーー腹減ったー。ここんとこコンビニばっかでさ」

「えーあたしもー。おかげで肌荒れ。やんなっちゃう」

「うちの近くにスーパーあるから、買っていこう。」

「そうだね、何にしよっか?」

「そうだなー。あのハンバーグは絶品だったなあ。天津飯とかもウマかったし。てかピザ焼いてくれた日もあったよね?幸せだったなー」

「ねー。あんなにウマそうに食べてくれんだもん。あたしも嬉しかったよ」

「ビールも買ってこう。やっぱエビスだね」

久しぶりの食卓は遅くまで、1年分の話をした。
大学時代のバイトのこと、ていうか何学部だったのとか、出身どこ、とか。

幸せな夜だった。


・・・・・


さらに1年後。
いつもの晩メシ時、白メシを頬張りながら、カズヤはヒロコに言った。

「結婚しよう」

白メシを頬張りながら、ヒロコは答えた。

「あ、うん」

「そういえば名前なんての?」

「あたし?ヒロコだよ。倉鹿野ヒロコ」

「え!くらかの?俺カズヤ。倉鹿野カズヤ」

「えーー!おんなじ苗字って!」

「すごいな!」

「でもさ、たぶん読んでる人ブチ切れるよね。」

「そうだな。だって」

『夫婦が他人のフリごっこしてましたーー!とかさ、クソだもんね笑笑』

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