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25.作業管理の落とし穴

はじめに

3管理の2つ目である「作業管理」についてです。作業管理といえば、作業時間や作業量、作業姿勢などを、より適正化することで労働者への負荷を減らすことです。この作業管理における落とし穴についてご説明いたします。

法的根拠

労働安全衛生法における作業管理の位置付けは以下の通りです。

第六十五条の三 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

標準化の落とし穴

作業を標準化させることはとても重要ですが、一方でこれは、労働者が決まった作業だけを行うことにも繋がりますし、そこで働く労働者は歯車のように代替可能性の高い人材となってしまう可能性があることにも注意が必要です。機械のように壊れたら交換すればいい、人材の使い潰し、人間性の軽視といった考え方にも繋がってしまいます。なお、こうした傾向は特に非正規社員(期間社員・派遣社員など)においてその傾向が高くなりえます。また、ネジを一日で1万回締める作業や、重たいものを何百回も持ちあげる作業といった、同じ作業を繰り返し行うことには人間は不慣れです。こうした繰り返し作業によって腰痛やテニス肘、ばね指、腱鞘炎といった筋骨格系疾患を引き起こす懸念もあります。
なお、このような作業の標準化の対となる概念として、作業をある人しかできない状態(作業の属人化)や、作業を複数人ができる状態(作業者の多能工化)という概念も理解しておく必要があります。労働者ごとの特性や業務適性を考える上ではいずれも重要な考え方です。

人事マターの落とし穴

作業管理は労働者の働か方そのものであり、時間外労働や夜勤、交代制勤務、出張、転勤、人材配置といったことにまで及びます。産業保健の目的である適正配置の考え方は、「作業を人に適合させる」ことであり、産業医として労働者の健康保護を図るために、これらの働き方の改善や就業制限に関する産業医意見を提出することは往々にしてあります。しかし、これはときに企業としての問題であったり、人事部門の業務範疇である場合が多く、そうした意見は嫌われる場合もあります。ときに「労働者の健康のため」を錦の御旗のように掲げて、働き方を変えていく姿勢はときに人事マターにまで言及せざるを得ないこともあります。もちろん、重篤な健康障害が発生・予見される場合には、勧告権を行使することも辞さない姿勢も重要です(参照:「勧告権の落とし穴」)。一方で、産業医はあくまで安全配慮義務の履行の補助を行う立場であり、助言する立場であるという前提も重要です。労働者個人の利益(健康のため)として産業医が介入しすぎることは疾病利得にも繋がりうる点にも注意が必要です。昨今の働き方改革の中で、柔軟な働き方の導入を支援していくことはとても大切なことですので、人事マターも含め健康の専門家として関係者と協働していく姿勢も強く望まれます。疾病利得の落とし穴」)。

ルール化の落とし穴

安全衛生を考える上でルール運用はとても重要です。ルール違反が即生死に関わるような現場もあり、ときにルールはゼロかイチか(白か黒か)で定める必要もあります。しかし、以下のようなルールは形骸化や、組織のガバナンスの低下、不公平感・不満感につながり、結果的に現場の安全衛生は保てなくなりますので注意が必要です。

〇中途半端なルール運用
 例:違反しても注意や指導がない、チェックする仕組みがない
   周知や表示がない、トップが守らない、
〇実現可能性が低いルール
 例:手洗い場がないのに手洗いルール
   突然の敷地内禁煙ルール
〇到底守れないルール(守りたくないルール)
 例:夏場に熱い作業着を着る
   業務が減ってないのにノー残業デー
   始業前の掃除
〇納得感のないルール:
 例:トップの一存で決めたルール
   従業員の負担があるルール(マスクが自腹など)

そうした事態を避けるために、ルールを定める際はしっかりと運用するか(義務)、あくまで推奨レベル(努力義務)とするかも事前に話し合っておく必要があります。

ヒューマンエラーの落とし穴

人は様々なエラー(間違える、忘れる、勘違い、過信、疲労、怠慢)を起こし、それがヒューマンエラーという概念です。作業管理として、作業マニュアル(作業標準)を作成したとしても、ヒューマンエラーはゼロにはなりません。ヒューマンエラーが起きる前提で、フールプルーフや、フェイルセーフといった手法を用いて、最悪な事故を防ぐこと重要です。フールプルーフはミスができない設計であり、フェイルセーフはミスをしても安全側に作動する設計のことです(「労災ゼロという落とし穴」・「職場巡視の落とし穴」でも触れています)。例えば、保護具の着用ルールがあっても守らない労働者が出ることも一つのヒューマンエラーです。しかし、それを叱って守らせるという対策では、保護具を破る人がなくならずイタチごっちになってしまいます。保護具を装着しやすくすることや、装着しないと作業ができなくするといったルール設定も有効です。こうしたヒューマンエラーの概念は、作業状況・作業標準の確認、職場巡視、安全衛生教育などの場面でも念頭におくようにご注意ください。

保護具の落とし穴

保護具は作業場に存在する危険・有害要因から作業者の身体を守るための器具であり、作業管理の重要な要素です。保護具を突破されたら作業者は有害物にばく露するため、作業者の最後の砦とも言えます。しかし、リスク低減措置は次のような順番で行う必要があり、①-③を十分に講じずに、短絡的に個人用保護具を装着させるという対策にならないように注意が必要です。保護具装着の前に十分に①~③について関係者との協議検討を行ってください。

①危険な作業の廃止・変更
危険な作業の廃止・変更、危険性や有害性の低い材料への代替、より安全な施工方法への変更等

②工学的対策
ガード、インターロック、局所排気装置等

 ③管理的対策
マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練等

④個人用保護具の使用
上記①-③の措置が十分に講じることができず、除去・低減しきれなかったリスクに対して実施するものに限られます。

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