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#2 恋を知らない私

彼と出会って、初めて恋を知った。

自分から誰かを好きになったこともなく、誰かから好意を寄せられたこともなく。アセクシュアル(無性愛者)かどうかまで深く考えたことはないが、ただ、25年生きてきて恋愛とは無縁だと思っていた。

だから、彼との出会いはとにかく不思議で、何も知らないまま恋に落ちていた。

2度目のデートの時、彼に好きなタイプを聞かれて答えが出てこなかった。だって、今まで誰かと付き合いたいと思ったことがないから、考えたことすらない。正直にそう答えた。

彼は困っていた。彼としては自分は恋愛対象なのかどうかヒントが欲しいのだろう。「タバコはいい?」「こういう人はどう?」と聞いて、答えを引き出そうとしてくる。それでも、少し考えを巡らせたところで、私にはよくわからない。

「そうなってみないとわからない。もし嫌だったらその時に言うね」

その流れで勝手に口をついて出た。

「でも、私、よるくんと付き合ってみたいと思ってるよ」

彼に答えを返そうと思って言葉だ。告白しようだなんて微塵も思いやしない。私の意志ではないようで、本心から出た言葉だった。

彼は驚いたように一瞬沈黙したが、
「いやー、俺はそんなつもりじゃないよ」

あれ…気があると思っていたけれど、そんなものか。私、恋愛を知らないからタイミングを間違えたんだ。

「そっかそっか、変なこと言ってごめんね」

それから数秒間、気まずい空気が流れたが、別の話題に逸れていって、その日は海を見て帰ってきた。

その日以降も連絡は続いたし、何度か会っていた。あんなことを言って気まずくなったものだから、私にそこまで気がないのならもう会えないかもしれないと思っていたが、そんな不安は杞憂だったようだ。

彼と会う度に、彼のことを好きになっていった。彼のほうが6つ歳上で、お兄ちゃんと遊んでいるような感覚だった。実際には私が長女で、兄はいない。感じていたのは、恋愛というより、家族みたいな愛情だったと思う。彼といるのは楽しいし、そばにいると落ち着くから。この安心感が好きということなのかと、よくわからないままそう納得していた。

4度目のデートで(※まだ付き合っていない)、待ち合わせ場所で彼の顔を見た時に、はっきりと、このまま恋人になれたらいいなと思った。2人の時間が続きますように、これからも彼に会えますようにという願いを込めて。

そんな私の想いが届いたのか、彼が言った。

「実は、俺もありかと付き合いたいと思ってて。2回目に会った時から、告白しようと思ってたけど、言うタイミングがなくて…。告白は俺からしたいから、ちょっと待ってて?」
「今言ったらいいんじゃない?」
「このタイミングはよくないよ!ダサいって!」
「そう??じゃあ、待ってるね」

もうこの時点でダサいのでは?
というツッコミはなしで。笑

ちなみに、2度目のデートで私が放った「よるくんと付き合いたい」を却下したのは、自分から告白したかったからだそう。

次に会った時、予告通り、彼から付き合ってほしいと告白された。私でよければ、よろしくねと返した。

恋人になったら何か変わるのだろうか。付き合うってどんなふうにしたらいいのだろう?
今はただ2人で出かけて、楽しい時間を過ごしているだけ。それが幸せなのだけれど。

次のデートでは、手を繋いでみたいな。

でも、本当の恋に気づくのはもっと後のこと。


*この物語には続きがあります。


*物語の始まりはここから。


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