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#6 どこにも言えない

あの別れのラインが来て2週間後、彼は退職した。

どうにか悲しい顔を見せないように、でも会えなくなるまで彼を見ていたくて、朝、会社の駐車場で遠くから彼の後ろ姿を見つめていた。

ラインのトーク画面は、私が送ったメッセージに既読がついて終わっていた。それから、メッセージはやり取りしていなかったが、彼が退職した日にもう一度「今までお疲れさま!引っ越しても元気でね」とだけ送った。ずっと未読のままだ。

私たちは別れた。

1週間ほど経つと、涙は枯れてきたけれど、気持ちはふよふよと落ち着かない。ずっと彼のことが頭から離れない。

この半年間、彼からちゃんと愛されていた。
私も愛していた。

今さらだよね。たぶん、初めて会った時から恋に落ちていた。始めは恋だと気づかなくて、ただ会えるのが嬉しくて楽しくて、気づいた頃には彼はいなくなってしまった。

別れたから忘れなくちゃいけない、と思う。でも、忘れようと思うほど、好きな気持ちばかり溢れてくる。

私の人生で1番好きになった人。彼の隣は居心地が良くて特別だった。

趣味や好みは全く似ていなくて、たぶん価値観や考え方は少し似ていたのだと思う。違うのに一緒なようで、それがおもしろかった。たばこの匂いは嫌いだけど、彼の匂いは好きだった。ドキドキというより安心する温度だった。私の気持ちを1番に尊重してくれる、そんなところが何より好きだった。

よるくんに出会えてよかった。
好きになってくれてありがとう。

たくさんもらったのに、返せなくてごめんね。

全部ぜんぶ、今さらだよね。
もう誰にも言えないのに。

隣にいた頃より、今のほうがよっぽど好きだという感情に浸ってしまう。あの頃だってわかっていたはずなのに、失くして初めて気づくものなのか。

ほんとうは、ちゃんと会ってお別れしたかった。でも、彼に拒まれたからできなかった。言いたかったな、ちゃんと。

それだけが心残り。

クリスマスプレゼントに彼からもらったハンカチはかわいすぎるという理由でラッピングされたまま部屋に飾っている。

彼に言ったら「インテリアにするなよ、使えよ!」とツッコまれそう。笑

でも、まだ大事だから、このままインテリアにしておくね。

彼のことが大切なように、私の気持ちも大切にしたい。もう誰にも言えないのなら、私の心に残しておきたい。彼のことを忘れたくないこの気持ちも全部、私の大切な一部なんだ。

ねぇ、まだ好きでいたい。


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*物語の始まりはここから。


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