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【辰】龍尽くしカレンダー7月・飛龍

街中では「コンチキチン」の祇園囃子が聴こえているよう。

そんな7月も龍を語る1日から始めます。

今回は、暑気払いを兼ね「飛龍」について。
どうぞゆるゆるお付き合いください。


これまでの龍はこちら ↓↓




7月のテーマ「飛龍ひりゅう



7月といえば七夕ということもあり、
カササギの渡せる橋のごとく、飛龍に隊列を組んでいただきました。

共同アトリエの仲間や
時たま訪れる客人などはちらちら見ておりまして
「今回はまた風景絵画寄りだね」と。

えぇ、いま個展の準備で作っている絵がそんなんですからね、

気がついたら飛龍よりも波の方を描いていました(’∀’)ツラレルンダナ


さて、今回の題材はこんな感じです。

参考資料は記事末尾に載せています

太子山鉾角房掛金具たいしやまほこすみふさかけかなぐ/太子山保存会
大滝神社本殿向拝懸魚彫刻おおたきじんじゃほんでんごはいげぎょちょうこく/福井県越前市 岡太神社・大滝神社、1843年建立
東照宮御水舎妻飾彫刻とうしょうぐうおみずやつまかざりちょうこく/栃木県日光市 東照宮、1618年(水盤奉納) 
大船鉾下水引緋羅紗地波濤飛魚文肉入刺繍おおふねほこしたみずひきひらしゃじはとうとびうおもんにくいりししゅう/大船鉾保存会、2016年復元新調
和漢三才図会 応龍わかんさんさいずえ おうりゅう/1712年初版発行


祇園祭の鉾も取り入れて、実に京都民っぽい!と言いたいところですが、
これまたぜんぜん類例を持っていなくてですね。
動く美術館の山鉾が頼りになりました。

といいますか、飛龍。
実にお祭り関係の鉾や山車、曳山なんかに多い印象を受けております。
唐津曳山新町しかり、飛騨高山祭屋台の龍神台しかり。


さて、ここから今月も沼のお時間です。


メジャーな呼び方としては翼龍、応龍かもしれません。
応龍も「イコール翼龍だ」「いや、特別な龍だ」など、メンド…もとい複雑な方ですけれどオイトキマス。
どうも「飛龍」は社寺彫刻畑の人がよく使うものだそう。
今回は慣れてる「飛龍」で通させてもらいます。







飛龍とは


「飛龍ってなんでしょう」
昨日アトリエでぽつりとつぶやいたところ

「え、飛ぶ龍じゃないの」


ですよね、読んで字の如くそうですよね。
しかし私という問屋が卸してくれないのです。

というか

飛ばない龍なんてそんなマニアックな話、
ベツクチでしましょう (*’∀’)!


龍はだいたい飛ぶんですよ。
ムシュフシュくらい可愛いのになると飛ばなさそうですが…
(4月カレンダーをご参照ください)

しかしまぁ「飛龍」とは飛ぶ龍と書かれるように
飛ぶためのアイテム「翼」を持っているのがポイントでしょう。

ズバリの見分けポイントがこちら。

1.翼がある
2.顔が龍


じゃじゃん。
2018年にプライベートで撮った東照宮御水舎の飛龍さん


言われなくても…ぐらいのわかりやすさです。

「では翼があって顔が龍なら飛龍でいいんですか」

いいんです。
翼があったらえぇんです(土井先生風)

ヨーロッパ圏におわすワイバーンだって飛龍でしょう。


そんなもんです。



飛龍の登場時期


そもそも「飛龍」ってどのぐらい馴染みがあるのでしょう。
私は社寺彫刻で知ったクチですが、
彫刻飛龍は、なんとなく関東圏に多いイメージです。

今回ご登場いただいた日光東照宮の御水舎のものは
さすがの東照宮さんだと興奮したものの1つ。

かの御水舎にはいくつもの飛龍がありまして、
つくりが精緻かつ、ポージングも様々で素敵なのです。

対して西日本。
あまり見かけないように思っていまして、
特に江戸時代より前の建物では少ないのではないか、と考えています。

今回参考にしたもの以外、手持ちの彫刻資料でいくとこのあたり。
私見でしかありませんが、いずれも1600年以降だと思われます。

・寳登山神社(埼玉県秩父)
・聖天山歓喜院(埼玉県熊谷)
・新羅神社(岐阜県多治見市)
・日吉東照宮(滋賀県大津)
・石清水八幡宮(京都府八幡)
・押平神社(鳥取県西伯)
・兒原稲荷神社(宮崎県西米良)

建造物は改修や再建があって、
いつからそのモチーフがあったかわかりにくいため参考にしづらい。
そこで「知恩院さんならどうだ」と思い(三門の十六羅像の衣に描かれている)調べると、羅漢像が1620年の作だったのでもうイイカナと思いました。



彫刻飛龍を楽しむなら


翼があって顔が龍なら飛龍でいい。
そんなもんなんですが、個人的に気にしているポイントがあります。

「脚の有無」と「お腹」

ここが飛龍を楽しむポイントかと思います。

〇脚の有無
脚のない、脚が見えない飛龍がいます。
絵画は脚がないものが多い印象。
滑空する様子を描く場合、脚が見えないということもあるのか
はたまた「描くの面倒」という思惑もあるのか。
彫刻もそのタイプが多く、逆にある場合はかなり注目します。
気になるのは「鳥脚」なのか「獣脚」なのかですね(*’∀’)!

〇お腹
お腹も脚と同じ理由で見えないものが多いです。
よって、見える場合にはやはり注目。
気になるのは「蛇腹」なのか「羽毛」なのか(*’ω’)

東照宮の飛龍は鳥タイプの羽と脚でありながら、魚を思わす胴体フォルム、そして蛇腹(*’∀’)


今月のカレンダーで参考にしている大滝神社さんの彫刻。
脚は龍らしいたくましさ、蛇腹、
そして巨大な胸ビレともとれそうなスタイリッシュな翼と長くくねる胴体。
火炎も持ち合わせているところに、まだまだ龍です!という姿勢が感じられます。


要は、いま見ている飛龍が「魚」なのか「鳥」なのか「龍」なのか
どれに近いかが気になるんですね。

なんでそんなことが知りたいのだと仰いましても

そこに何かトキメクとしか言いようがない。



顔は龍で翼があって、それが飛龍なんですけれど
よくよく知っているあの龍の、どこからこの翼は生えてきたのか。
これは「鳥の翼」なのか。
トビウオだってコウモリだってトンボだっているわけです。

はたしてこの翼はなんなのか!


調べていくと昔の「翼の描き方」まで気になってくる。
実に楽しい(*’∀`)=3
(余談として末尾に「1700年代の天狗の羽」絵画資料をのっけています)

そしてなんとなく、
日本における初期の飛龍は「魚寄り」だったんじゃないかなぁなどと夢想。



そんなところに大船鉾さんのブログで面白いこと発見して大興奮ですよ。

今回のカレンダーでも参考にした水引の「飛龍」、
実は「飛魚」と言い表されているそうです。

終始飛魚と申していますが、現品はどうみても「飛龍」です。四条町ではこの幕を納める箱の墨書より「飛魚」と呼ぶようにしています。

大船鉾保存会ブログ 大船鉾細見 下水引一番より (記事末尾にもリンク掲載)
http://www.ofunehoko.jp/blog/2012/12/post-57.html



今月もドキドキが止まりません。





暑気払いにならない飛龍の話、
今月も長々とお付き合い下さいまして、ありがとうございます。

大船鉾さんの「飛魚」は、ブログでも書かれているように
「神功皇后伝説」に基づくための呼び方なのかもしれません。

雨龍といい飛龍といい、島国民族の私としては
ついつい海洋生物につながりを求めてしまう傾向にあります。

さすがに今回も6000字いっては色々ダメだな…と思い、
シャチ・虵鳥じゃちょうげい鰐魚がくぎょ問題、
そこからつながるマカラの話は端折りました(’∀`)

それはまた別の場に譲るとしまして…


作ったけどお蔵に入れておこうの図


来月は猛暑真っ只中かと思います。
8月は不動明王の倶利伽羅龍でより熱くお送りすると決めています(`・ω・)!
どうぞ今月も健やかに過ごされますよう、過ごせますよう。

どうぞ来月もお楽しみに!


龍カレンダー7月の参考
①太子山鉾角房掛金具/太子山保存会
 「時を超えて・祇園祭2022」大丸京都店で特設会場にて撮影の画像より
②大滝神社本殿向拝懸魚彫刻/福井県越前市 岡太神社・大滝神社
 2021年10月現地にて撮影の画像より
東照宮御水舎妻飾彫刻/栃木県日光市 東照宮
 
2018年12月現地にて撮影の画像より
④大船鉾下水引緋羅紗地波濤飛魚文肉入刺繍/大船鉾保存会
 大船鉾保存会ブログ.大船鉾細見 下水引一番.2012年より(下記にリンク )
⑤和漢三才図会 応龍
 和漢三才図会 巻第四十五 竜蛇部 応竜.1712年,国書データベースp1167より(下記にリンク )

その他参考
笹間良彦.図説 龍とドラゴンの世界.遊子館,2008年

余談(天狗の羽)
国立国会図書館データベース『怪談登志男 5巻』1750年104ページ(下記にリンク )



天狗の羽




おまけ

月曜始まりの1日いっぴって、それだけでちょっと重くなるのは私だけでしょうか…(;´∀`)
入職者が多くて大変な一日という記憶。





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