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Memories of you

雑居ビルの地下への曲がり階段を下る。

そこには小さなジャズバーがあった。

13年 、、通ったであろうか……。

扉を開けると 気さくなマスターとジャズの音楽が出迎えてくれた。


♪Memories of you (Benny Goodman)


ここに来る時は音楽の趣味が一緒の女友達とふたり。

当時、 お目当てのポップスターをはじめ、頻繁にポップス系ライブに行っていた。

そして決まってその帰りに立ち寄った。

取り立て ジャズが好きな訳でもなかったが、ただただ落ち着いた場所でその日のライブの余韻を美味しいお酒と共に語り合いたかった。

ざわざわした雰囲気や流行歌がじゃんじゃか   かかるお店は敬遠した。


「今日は誰の行ったんや」   

マスターが聞いてくる。  

「いつものでええか?」

と確認してテーブルの上には

いつもの ギムレットとサイドカーが置かれる。

「乾杯!」

これがまた美味しい!どのカクテルも満足の味だ。

(あ〜 ここはホッとする…)

少ないが フードメニュー・おつまみもイケていた。


「マスター、冷たいチョコレートちょうだい」

「冷たい チョコレートしかないねん(笑)」

いつも冷蔵庫から固いチョコが出て来るのを知っていて冷やかしてそうオーダーしていた。

時間とともに 汗をかくキスチョコは この店の名物と言ってもいいかも知れない。

お腹が空いた…と言えば、裏メニューの手作りピザを焼いてくれたりもした。


「リクエストはないか?遠慮なしに言ってくれ」


ジャズ 、、、、耳にしたことがあっても誰のどの曲をリクエストしたらいいのかピンとこない……。

押し付けのないその言葉に応えようと曲探しをした。  


私がジャズを聴き始めたのは この店でリクエストをする為だった。


手始めに沢山の人のを聴いてみよう!オムニバスのCDを毎月一枚づつ購入。


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シーン別に曲が一枚毎に纏められている。

大人のジャズ、スウィングジャズ、ボーカリストetc…

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粋なジャケットと洒落たCDも魅力的でした。


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こんなうんちくも 初心者には為になる。

このCDから好きな人のアルバムをまた聴き 更に広げていった。

私はやはり ピアノ弾きが好きだ。


マスターにリクエストをすると

 「よっしゃ!」

嬉しそうに迷わず壁際一面に並べてある年季の入ったコレクションのアルバム(LP)に手をのばす。

「マスター すぐにわかるの? 凄い!」

「何言うてんねん、何年この仕事してるんや」と一喝。

(すいません ^^;)  

 でも、眼鏡の奥の瞳は笑っていた。


店内は ほぼジャズ好きの常連のオタク男性客ばかり。

女っ気がないから また来てな、とよく言われた。

毎年 12月の初めに友人と真っ赤なポインセチアを贈ると店の一番いいポジションに置いてくれた。

たまに私達だけ店内に残ると

「一緒に飲んでいいか……」

「君たちも大人やから こんな話しするけどな」

(あ〜 また始まったわ)

酔うと マスターは男女の色恋の話になる。恥ずかしいぐらいにエロ男に変身した。

親子ほどの年の差のマスターに比べるとあまりに経験値の低い我らは 話をにこやかに うんうん とただ聞いているだけだった。

そんなこんなも 懐かしく思い出される。

日頃から儲けはない……と話していたが とうとう店を閉めると聞いたのは私が第一子を出産した直後だった。 

お酒は控えていたが 店に駆けつけた。


(寂しいな……) 


店に通った13年の間 私は出会いと別れを幾度か繰り返し、仕事で悩み、父を見送り、結婚、出産。とても濃厚な年月を過ごした。

マスターとこの店は そんな私のターニングポイントに いつも優しく寄り添ってくれた。


マスター  お元気ですか。。。                                      あれから何年も月日が流れ  私は立派におばちゃんになりました(笑)      そうそう、あの時の私の大好きなポップスターは今 ジャズピアニストになったんよ。なので最近はジャズも毎日聴いています。     あのお店、マスターとの出会いは  私がジャズに触れた原点よ。ありがとう。どうかお元気で……大好きなジャズを楽しんで下さいね。


『リクエストはないか?』

今でもそんな声掛けが切なく耳に残る。

🎷🎺🎹 🎼.•*¨*•.¸¸♬🎶•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪


*最後まで お読みいただきありがとうございました*


        

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